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次女の憂鬱

私には5歳年上の姉がいる。                     私は姉のことが嫌いだった、憎かった、羨ましかった。

だから殺した。                            台所にあった包丁で、一思いに刺し殺したのだ。


産まれた時から私のモノには全て姉の名前が書いてあった。

次女の宿命、『おさがり』である。

教科書にもリコーダーにもピアニカにも洋服にも自転車にも絵の具セットにも、全部姉の名前がフルネームで書かれていた。

それでも、子供の頃は『おさがり』が嬉しかった。5年前にみた、憧れの姉に近づけたような気分になったからだ。


小学校4年生に上がった頃、私はようやく気が付いた。

私と姉はどうやら似ていないらしい。勉強も運動もなんでも出来て、背が高くて可愛くて歯並びがよくて、友達がたくさんいる優等生の姉と正反対の私。

『おさがり』を使うたびに5年前の姉と比較されているような気持ちになった。

こうして私は『おさがり』を拒否するようになった。

だからといって『おさがり』はやめられるものではない。中学校の制服も体操着も高校のコートもお弁当箱も成人式の振袖も、大人になったって『おさがり』の呪いは続いた。


大学を卒業し、社会人として働きはじめた4月。姉が実家に恋人を連れて来た。大企業に務める将来有望の高身長イケメン。悔しいけれど、お似合いのカップルだと思った。

「どうしていつも姉ばかりいい思いをするのだろう」          幸せそうな姉の顔をみて、今まで抑えていたモノがふつふつと込み上げてきた。

「お姉ちゃんばっかりずるい!」

『仕方がないじゃない、私は長女だもの。あなたはいつまでも2番目なのよ』

プツン。何かが切れる音がした。


姉を殺してから『おさがり』を全部捨てた。クローゼットの中身も本棚の中身もはほとんど無くなった。

一つだけ手に入れたものがある。それは姉の恋人、将来有望の高身長イケメンだ。姉を失って傷ついているところを少し慰めたら簡単に手に入った。私が殺したことも知らずに。

しばらくして私はプロポーズをされた。左手の薬指に光る、ダイヤモンドがついた指輪。やっと姉に勝てたような気がして飛び上るほど嬉しかった。

嬉しい気持ちのまま家に帰り、お風呂に入るために指輪を外すと、内側に何か彫られていることに気が付いた。『KENTA&REIKA』彼の名前の隣に彫られていたのは紛れもなく姉の名前だった。


「よかったよ、お姉ちゃんと指輪のサイズが同じで」

私の『おさがり』の呪いはまだ解けそうにない。


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