【ショートショート】朝焼け

私は旅行に行くと必ず見るものがある。
それが朝焼けだ。

旅先の街の住人が起き始めるのと同じように街が起きているそんな感覚が好きで必ず見ることにしている。

そんな決まり事ではあるが、今でも時折思い出す景色がある。

ある湖のほとりにある温泉旅館の露天から眺められる景色だ。

朝起きて顔を洗う。浴衣のまま、まだ肌寒い気温に身を委ねる。

水平線から太陽が顔を覗かせたとき、旅の終わりに向かっている感覚と特別な焦燥感に襲われる。

僕が幽霊だったらこの景色を見ただけで成仏できるそんなへんな考えも思い浮かぶほど幻想的でたまらない。

そして今日もまた朝焼けを眺めている。

隣には少し冷えた手の君。

僕の特別な景色は僕らの特別な景色へと変わり、
新たな思い出と共に存在する。

目の前の景色を真っ直ぐ見つめる君は朝焼けに照らされて、

少し色が戻ったように見えた。

この冷たい手にも温度が灯るそんな気がした。

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