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『数式組版』を組む技術:基本版面(1)

本稿において,“本書”とは木枝祐介著『数式組版』(ラムダノート,2018)のことである.
>>> https://www.lambdanote.com/collections/mathtypo
また,本書はLuaLaTeXを用いて組まれた.したがって本稿ではLuaLaTeXの使用を前提としている.
本書が組まれた当時はTeX Live 2017が用いられたが,多くのコードはそれより後のTeX Live 2019まで共通して使用可能である.
本稿では,バージョンに強く依存する場合を除いて,各バージョンは明記されないことがある.

判型と基本版面

◆判型
 本書の判型はA5である.

\setlength\paperheight{210mm}
\setlength\paperwidth {148mm}

◆基本版面
◇組方向,段数と段間
組方向は横である.段数は1であり,したがって段間は存在しない.

◇本文用文字サイズ
紙面のうち,本文が置かれる領域を版面領域(はんづらりょういき)と呼ぶことにする.
版面領域を論理的に設定することに関しては,必ずしも本文用文字サイズを設定しておく必要はない.
一方で,版面領域の大きさを具体的に把握することには役立つ.

本書における本文の基本的サイズ設定は,文字サイズが12.5級であり,行送りが22歯である.
文字サイズ対する行送りの比は1.76倍であり,行間は文字サイズの76%で,いわゆる二分四分に近い値となる計算である.

:ここで二分四分は文字サイズの(1/2)+(1/4)分だけスペースがあることを意味している(二分=50%,四分=25%).

\@setfontsize\normalsize{12.5\jQ}{22\jH}{...}

ここで`\jQ`と`\jH`とは単位であり,それぞれを表している.1級も1歯もその大きさは0.25mmである.
したがって,上記の本文用文字サイズと行送りをmmで表すと,それぞれ3.125mmと5.5mmということになる.
単位としてmmを採用してもよいが,単に小数点より下の桁数を少なく記述するために級と歯を使用している.
級と歯は同じ大きさを表す単位であるが,ここでは慣例により,文字サイズは級で,行送りは歯で表しているにすぎない.

◇版面領域
版面領域は,行と行間とで構成される領域である.

行間に関しては本文用文字サイズを設定した時点で既に設定されている.
ただし,既に触れたように,論理的に版面領域を設定することに必ずしも行間は必要ないことに注意.

基本版面の大きさは1行33文字,1ページ30行である.

\setlength\textwidth{33\Cwd}
\setlength\textheight{29\Cvs}
\addtolength\textheight{1\Ctht}

ここで`\Cwd`,`\Cvs`,`\Ctht`は,それぞれ必要に応じてクラスファイル中で定義された次の大きさである.

▶ `\Cwd`:本文用文字サイズの1文字分の横方向の大きさ
▶ `\Cvs`:行送りの大きさ
▶ `\Ctht`:本文用文字サイズの1文字分の高さと深さとの合計の大きさ

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行数が30にもかかわらず,`\textheight`に行送りの29倍を代入し,1文字分の縦方向の大きさを加えているのには次のような理由による.
すなわち,版面領域縦方向を構成する行数と行間数との関係は,行数に対して行間数は1だけ少ないため,行数の整数倍で版面領域の高さを記述することはできないためである.

次の図で行数と行間との関係を考えるとよい.

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なぜ整数倍にするのか

`\textwidth`や`\textheight`を何かの整数倍で設定するのは単に合理性による.

`\textwidth`や`\textheight`を何かの整数倍と無関係に,`\textwidth`を本書の場合`412.5\jH`や`103.125mm`のように設定したり,`\textheight`を`650.5\jH`や`162.625mm`のように記述しても得られる結果は同じである.
しかし,そのような記述は可読性の観点や事前の計算発生などから,合理性を欠いている.

版面領域の1行の文字数と行数とが,それぞれ33と30という整数で与えられているので,その数を元に`\textwidth`と`\textheight`を設定するのは合理的である.
版面領域の横の大きさである行長は,1行の文字数の横方向の大きさの33倍という自然な設定記述ができる.
一方,上で述べたように,版面領域の縦の大きさは行送りの整数倍で直接記述することはできない.
そこで,我々が既に得ている値の1文字分の縦方向の大きさを利用し,正数倍どうしの和で表すのである.

:文字の実質的なボディが正方形であることを仮定すれば,文字の縦方向の大きさである高さと深さの合計といったものでなく,横方向の大きさである`\Cwd`を用いればよさそうに思える.
一方,一般に文字の実質的なボディが正方形でない場合もあることを考えれば,文字の縦方向の大きさを利用することの方が,設定の一般化の観点から合理的であるといえる.

なお,1行の文字数が32.4文字であるとか,1ページの行数が31.74行といった非整数で与えられることは,版面領域の設計上まずありえない.
これらの設計が行われると,版面領域に行をその行間が既定値より伸縮することなく配置した場合,常に半端が発生することになる.
特に和文が行を埋めつくす場合は,基本的に各文字の実質的なボディの横方向の大きさが一定であることを考えれば,行に対して文字をベタ組みで配置した場合,これも常に半端が発生することになる.

:半端の発生の善し悪しに関しては,ブックデザインの観点であるからここではこれ以上踏み込まないこととする.

:欧文が行を埋めつくす場合については,本書が和文主体であることからここでは特に触れない.


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