相棒S20元日SP「二人」について
物議を醸した元日SP
ご覧になっただろうか、1月1日夜放送の元日SP「二人」。
まだの方は、TVerで公開されているうちに是非見て欲しいです。
以下ネタバレなので見てから是非読んでいただきたいです。
この放送後、元日SPの脚本を担当された太田愛さんがブログに記事をアップされました。
脚本が制作過程で改変されることはよくあることだと知ってはいました。三谷幸喜氏が「ラジオの時間」で過激に描いたとおり、脚本家が思いもしない方へ改変されることはよくあることだと。
「二人」の意味
元日SPのタイトルは二人です。もちろん、主役のお二人の意味、記憶を失った老人とヤングケアラーの子どもの二人、お金持ちの家の子とかたや生活保護を受けているであろう子の二人、教会に来ている元ヤクザと動画を趣味とする警備員、そしてここからが大事なのですが、
と太田さんのブログにあるとおり、男性平社員「二人」の意味もあったのではないかと思うのです。男性平社員二人の応援が、非正規雇用の店員さんたちには、とても心強いことだと思うのです。
つまり、制作側は「二人」の意味のうち、1つを削ぎ落としてしまったのだと思います。
非正規雇用の裁判に起因して老人が記憶を失ったわけで、削ぎ落としてはいけなかったと思います。
男性二人の語りシーンをデモシーンに変更するということは、エキストラ、小道具等々当然お金がかかるわけです。男性二人の語りシーンはビル内で済ますことも可能で、制作費的にも安く済んだのではないかと思います。
監督の独断ではなくお金を出す立場の人間がOKを出したからこそ、あのシーンは置き換われるのです。
ただ1つ付け加えるとするなら、「あの1点の瑕疵で全てがダメになった」というわけではないということです。ラストの右京さんが静かに怒るシーンは、とても見応えがあるものでした。記憶を失った老人と子どもたちのやり取りも微笑ましいものでしたし、相棒が世間に問いかける問題提起もありました。緩急ありながらラストに右京さんが締めてくれるカタルシス。
例の平社員二人が語るシーンを置き換えて「視聴者に判りやすく」という配慮が働いたのかもしれないのですが、他のところに配慮をすべきだったのではないかと思います。
元法務省の冠城くんが最高裁判事を知らないということは、警視庁に配属後に最高裁判事になったのだという描写が少しでもあればと思いました。
法務省時代の元上司の日下部さんや、法務相時代の元同僚で現記者の黒崎さんが露ほども出てこないのはなぜなのかとか。(日下部さんと黒崎さんの件に触れると両者と冠城くんとの関係性に言及する必要があり、時間オーバーの上に、法務省にあたれば簡単に老人の素性が割れてしまう可能性があるので、出さなかった可能性が大きいとは思いますが……)
制作会社のPと局のP
この事件があってから、思い出したのがあの「シャブ山シャブ子」事件です。ディスク盤には、ある種世間に蔓延っている「ヤク中」描写がカットされています。
脚本家と制作が打ち合わせをするときの力関係において、局のPや局側の制作陣の力が強いと、制作会社的には何も言えないのではないかと思ってしまうのです。
京都制作の木曜8時ドラマでは、根幹を揺るがす改変をされたという話を聞いたことがありません。聞いたことがないだけであるのかもしれませんが。
制作会社のP・制作陣、局のP・制作陣、脚本家、監督が対等な立場でモノが言えるようになったらいいなと思います。
次々離脱する脚本家
相棒は、テレビ朝日の松本Pが相棒から降りるとほぼ同時に、櫻井武晴さん、戸田山雅司さん、古沢良太さん、岩下悠子さんなどが執筆されることがなくなりました。なにか穿った見方をしてしまいそうです。
いいものを作りたいのなら根幹となる「ホン」は大事にするべきだと思います。まず「いいホン」をつくる。
当然、「いいホン」を作ってくれる脚本家さんには、相応の報酬を支払う。刑事ドラマの根幹は「ホン」です。トリックに驚愕したり、設定に驚いたり、思いもつかない人間関係や事件等など。脚本家さんは0から1を作り出すのだから相応の報酬を受け取って当然だと思います。制作陣、スタッフ、演出家や役者さんも、脚本の状態から鑑賞に耐えうる映像をつくるのだから、相応の報酬を受け取って当然です。
ドラマの制作費が少なくなっていると言われる昨今、社員二人が語るシーンをデモシーンに変更するお金があるのなら、「いいもの」をつくるためにお金を使ってほしいところです。
ホンの中で削っていいところ足していいところと、削ってはいけないところ足してはいけないところを見誤ると、今回のようなことになるのだと思います。ラストで右京さんが黒幕に対して静かに怒っている中で、非正規雇用の件にも触れているからです。
お正月だから暗い話はチャンネルを替えられてしまうという意図があるのかもしれませんが、過去の元日SPで陰鬱になった回はいくつかあります。
脚本通りの平社員二人が思いを語るシーンを演出で工夫して、視聴者を飽きさせず、ラストまでもっていけたらよかったのにと、つくづく残念に思います。
視聴を離脱しない理由
これだけクソミソに書いていても、尚自分は「相棒」というテレビドラマが続く限りは視聴を続けるつもりです。最初から見始めてしまった以上、ラストまで見届けて総括したいなと思っているからです。
確かに離脱した脚本家さんや、お亡くなりになった砂本量さんも含めた脚本家陣がいてくれたらと思いますが、これからの可能性も少しは持っているのです。「相棒」は大きな実験の場でもあります。ある種チャレンジングな話も度々登場します。役者さんや、脚本家さん、監督さん、制作陣、制作スタッフが実験し大成していくステップの場として長く存在していて欲しいと思います。
追記:日本とハリウッドのホンの違い
日本とハリウッドのホンは大きく違うのだそうです
詳細は以下まとめから
確かに日本のドラマは説明台詞が多いです。今回の元日SPも、軽くハリウッド式をチャレンジしてみたのかもしれませんね。
説明台詞が少ないチャレンジングな回を期待したいと思います。
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