「魔法少女と麻薬戦争」第3話脚本


繁華街の地下にあるシミュレーションゴルフ場。スクリーンに向けてボールを打った後、組長の赤岡が振り返る。
赤岡「…お前ら “アーティスト”って殺し屋を知ってるよな?」

打席の後ろで黒服たちと並ぶ煤井は神妙に頷く。
煤井「…噂くらいは」

ゴルフクラブを部下に預け、ソファにドカッと座る赤岡。
赤岡「そいつはな 殺した相手をファンシーな“アート”にしちまうんだ」

台詞とリンクしたイメージ絵。
赤岡「5月9日 赤羽署近くの公園に大量の風船がバラ撒かれていた」「警察が回収した風船の中には細切れになった肉片」「それらをパズルみてえに繋ぎ合わせると…失踪中の麻薬取締官の上半身が完成したとのことだ」
「先月は “キャンディ”の売人を取材していた雑誌記者が殺された」「八等分されてカラフルな玩具箱に収められ 出版社やテレビ局に郵送されたってよ」

冷や汗をかく煤井。
赤岡「…狂犬と恐れられるお前でも怖いか 煤井」
煤井「え、ええ…」

煤井の視線の先では、制服姿の凛々がゴルフクラブをスイングしていた。
盛大にダフってボールが明後日の方向に転がり、地団駄を踏んで悔しがっている。
煤井(てめっ 何を堂々と遊んでんだ…!)
凛々「求道会の掟で 構成員は“キャンディ”の摂取禁止ですよね? なら魔法少女は見えませんよ」
煤井(おれはまだ そのファンタジー設定についていけてねえんだよ…!)

部下の男「煤井 何をボソボソ言ってんだ!」
煤井「あっいえ!すみません!」
クスクスと笑う凛々。こめかみに青筋を立てる煤井。
煤井(こいつ…後で絶対殺す)

グラスの氷がカランと音を立てる。
赤岡「そのイカレた殺人鬼が…ついに一線を越えやがった」

驚愕する部下たちに「まだ誰にも言うなよ?」と念押しした後、赤岡は語る。
赤岡「おれがオーナーをやってるセクキャバのゴミ捨て場に 丁寧にラッピングされた箱が置かれてたんだが――」「中に何が入ってたと思う?」

指をさされた部下は冷や汗を流し「…さあ」と答える。
赤岡は氷点下の瞳を向ける。
赤岡「生首さ」「顔面をキラキラのラメで彩られた求道会(ウチ)の組員の死体だ」

煤井は目を見開く。
一方、凛々は鼻歌混じりでクラブを選んでいる。

赤岡は真剣な顔で部下たちを見回す。
赤岡「ウチと敵対する組織のどこかが “アーティスト”を雇っている可能性が高い」「気を引き締めろよお前ら いつどこで殺人鬼に襲われるかわからねえからな」


治安の悪い繁華街を歩く煤井と凛々。
凛々「煤井さん そんなに急いでどこへ?」
煤井は立ち止まって中指を立てる。
煤氏「“アーティスト”の雇い主の所に決まってんだろ」
凛々「え、そんなの命令されてました?」
煤井「“求道会の赤鬼”と呼ばれる赤岡が ただ部下の身を案じてくれただけなわけねえだろ」「わざわざ俺たちを集めたのは“アーティストを雇った人間を探し出してブチ殺せ”って伝えるために決まってる」
凛々「…出ましたよ ヤクザお得意の歪曲表現」「はっきり“殺せ”って命令しなければ 部下が勝手にやったと裁判で言い訳できますもんね」

凛々「でも心当たりなんてあるんですか?」
煤井「“ブラックマンバ”って半グレ連中知ってるか?」「元は北関東の暴走族だが…最近じゃ“キャンディ”の取引に参入して東京で勢力を広げてる」「で、そいつらが“アーティスト”と繋がってるらしい」

煤井は路地裏に佇むクラブの近くで立ち止まる。地下に続く入口の前には黒人の門番が2人。
煤井「そこの連中が商売に使ってるのがあのクラブだ」

物陰から様子を伺う2人。
凛々「…どうやってそれを?」
煤井「潜入捜査官(おれ)と厚労省の上層部しかログインできない専用サイトがあってな」「そこで色々と情報収集した」「矢島が裏切ったあとパスワードは変えてる(吹き出しの外)」
凛々「へえ~…」

凛々は驚いた顔で煤井を見上げている。
煤井「…なんだよ」
凛々「正直驚きました」「煤井さん ただの脳筋野郎じゃなかったんですね」
煤井「てめえ…これでも厚労省職員だぞ…!」

凛々はステッキを取り出し、自らの身体を魔法陣で囲む。次の瞬間には制服が黒いドレスに切り替わっていた。
凛々「やるじゃないですか 他の組員を出し抜いて赤岡に顔を売るチャンスですよ」

ネオンを背景に、凛々は挑発的な表情。
凛々「ご褒美に ちょっと協力してあげましょう」

凛々はいきなり煤井の両耳にワイアレスイヤホンをはめ、スマホを握らせた。
凛々「煤井さんはここらじゃ有名なチンピラです まして相手は敵対組織…普通に乗り込んだら警戒されるだけ」

凛々が髪をかき上げると、耳には同じイヤホンが装着されていた。
凛々「わたしがクラブに潜入するので 煤井さんは車に戻って指示を出してください」
煤井「…ここの客は“キャンディ”中毒だらけだぞ お前の存在も認識されちまう」

凛々は不敵に笑う。
凛々「たとえ姿が見えたとしても…わたし相手じゃ何もできませんよ」


ガラの悪い若者が狂喜乱舞するナイトクラブの内部。キャンディをやっている連中もいる。
凛々「あーっ あーっ 聴こえますか?」

煤井は駐車場の車内。
煤井「…ああ聴こえてる」
凛々『まず誰に接触すればいいんでしょう』
煤井「末端の売人は“毒蛇”のタトゥーをしてるはずだ そいつらを探せ」
凛々『了解しました』

煙草に火をつける煤井。
煤井(仰々しく看板を掲げてるヤクザと違って “ブラックマンバ”は中南米のカルテルに近い地下組織だ)(使い捨ての売人はともかく 主要メンバーの素性はトップシークレット)
煤井「連中は病的に疑り深い」「慎重に動けよ 星名…」

一方クラブでは、凛々が毒蛇のタトゥーを手の甲に入れた売人2人組にいきなり接触していた。
凛々「わ、本物だ! “ブラックマンバ”の皆さんですよね?」

驚愕する煤井。
煤井「は⁉ あのバカっ…!」

下卑た表情で凛々を見る男。
男A「未成年がこんな店来ちゃ駄目だぜ お嬢ちゃん」
男B「…もしかしてアレか?」

男Bは包み紙に入ったキャンディを見せびらかす。
男B「こいつを買いに来たのかな?」
凛々の口許に笑み。

男2人に続いてトイレに向かう凛々。
煤井『てめえっ…!慎重に動けって言っただろうが!』
凛々「うるさいですね」「まあ任せてくださいよ」

男子トイレに入った途端、凛々が後ろ手でドアを閉じる。
凛々「売人(クズ)から情報を聞き出すのは得意なんです」

男たちがシャツを脱ぎながら迫ってくる。
「どうせ“キャンディ”は初めてだろ?」「最初は特別価格だ 1粒2万で売ってやる」

凛々「…ええと どうして服を脱いでるんですか?」

興奮で鼻息が荒い男が棒付きのキャンディを突き出してくる。
「細かいことは気にすんな」「ほら 早く咥えろよ」

凛々「…ふう トリップして無防備になったところを襲う気ですか」
凛々はステッキを呼び出す。
「ゴミですね 去勢して差し上げましょう」

凛々に蹴飛ばされ、男Aがドアの開いた個室に頭から倒れ込む。
凛々はステッキを向けた。
凛々「“巻き戻れ”」

魔法陣が発生し、ドアが“閉じた状態”に一瞬で戻る。
ちょうどドアの位置を通過している最中だった両脛が切断される。
個室のドアの向こうでは男Aが絶叫。恐怖と混乱に支配された男Bに、返り血塗れの凛々は笑顔を向ける。
凛々「ドアを“閉じている状態”に巻き戻しました」「当然、邪魔な両足は切断されるしかないですよね」

恐慌状態の男Bは拳銃を向けるが、瞬く間に細かい部品まで分解。
腰を抜かして失禁する男B。
凛々「わたしの魔法は対象物の状態を任意の時間まで巻き戻す――」「なのに駄目じゃないですか 私と戦うなら常に想像力をフル回転させなきゃ」
男B「あ あああ…」

凛々はステッキで男の顎を持ち上げる。
凛々「さあ 話してもらいますよ」「“アーティスト”と組織の関係について」


イヤホンから聴こえる絶叫にドン引きする煤井。
煤井「くそ…言うこと聞きゃしねー」
缶コーヒーを飲んで一息。
「…あの化け物が」

突然の声。
??「うんうん ホントそうだよね~」

弾かれたように振り向くと、2話に登場したゴスロリ少女――金谷メルがいつの間にか助手席に座っていた。
メル「てか この車タバコ臭っ」

衝撃を受ける煤井。
煤井「は…⁉」

メルはダッシュボードに足を上げて風船ガムを膨らませている。
メル「お兄さん お名前は?」「出身はどこ?恋人はいる?好きな食べ物は?」

焦って拳銃を構える煤井。
煤井「な…なんなんだてめえっ!」

銃口を向けられても、メルは上目遣いでこちらを見つめるだけ。
メル「ビビんないで教えてよ~」「メル、もっとお兄さんのこと知りたいなあ」

メルは満面の笑みでステッキを向けてくる。先端についた三日月型の飾りは発光している。
メル「これから“アート”の題材にするんだからさ」
煤井「…!!」

中心にアメーバのようなマークが描かれた魔法陣が車全体を包む。
ステッキの向こうでメルが蛇のように目を細める。
メル「“捏ね回せ”」

強烈な光が運転席を覆い尽くす。
何かが潰れる凄まじい音。

命からがら車から脱出した煤井。
右腕は千切れ、脇腹も抉られて苦痛に喘ぐ。

車を覆っていた白煙が消える。
黒塗りの車が、前衛アートのような歪な形に。高熱で溶けたように車体はぐちゃぐちゃになり、所々から鋭利な棘が飛び出している。運転席は内向きに生えた棘で破壊されており、大量の血や肉片がこびりついている。
メルは車の上に立ってこちらを見下ろしている。
メル「…おやおやぁ?」

視線の先にいる煤井の右半身に魔法陣が出現。千切れていた腕や脇腹が元に戻っていく。
メル「どうなってるのかなあ それ」

人差し指を顎に添えて「うーん」と数コマ分悩んだ後、メルは閃く。
メル「…あ、わかった!それ“巻き戻し”の魔法でしょ」

天真爛漫に笑うメルと、大量の汗を流す煤井の視線が交錯。
メル「”あのクソ女”と繋がってるってことだよね」「詳しく教えてもらうね  お兄さん?」

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