「魔法少女と麻薬戦争」第2話脚本


ヤクザの組事務所。
「残念だったな――柏木の件は」「まさか奴が麻薬取締部(マトリ)と組んで 求道会の壊滅を企んでいたとは」

革張りのソファに座る白髪の男――赤岡がこちらを睨んでいる。周囲を囲む黒服たちは神妙な顔。テーブルには盃が置かれている。
赤岡「…だが煤井 よくケジメをつけてくれた」

困惑を隠せない顔で向かいのソファに座り、盃を見つめる煤井。
赤岡「お前は我が“赤岡組”が引き取る」「さあ親子の盃を交わすぞ」
煤井(…どうなってやがる)

1話各シーンの断片映像。
煤井(潜入捜査官はおれだ…! 柏木と矢島にハメられて 全部暴かれたはずだろ…!?)

男たちの背後、事務所の片隅に制服姿の凛々が立っており、こちらに手を振ってくる。煤井以外の誰も気付いていない。
煤井(そうか…あの“魔法少女”が仕組んだんだ)(いったい何なんだよあいつは…⁉)


運転席でハンバーガーを食べる煤井に、助手席の凛々が微笑みかける。
凛々「万事快調じゃないですか 煤井さん」
「“山科組の若頭を殺した潜入捜査官”の柏木とその部下たちを始末して 上司の矢島の身柄を求道会に献上――素晴らしい功績です」「会長の右腕である赤岡さんの組に入れましたし このまま出世すれば“製造者”との取引に加われるかもしれません」
煤井「…いやいや おかしいだろ」「なんで矢島はおれの正体を吐かない…?」

椅子に縛られて拷問を受けつつも、涎を垂らして恍惚の表情を浮かべている矢島。
凛々「身柄を引き渡す前に魔力をたっぷり注入しておきました」「もう彼は意味のある言葉なんて喋れませんよ」

ぞっとする煤井。
どうにか冷静さを保つため煙草を咥える。
煤井「…で?“魔法少女”ってのはいったい何なんだ」「日曜朝のアニメでやってるアレか?」

凛々は飄々とした顔でフライドポテトをつまんでいる。
凛々「いいですよ お昼ごはんのお礼に答えてあげましょう」

凛々「“魔法少女”は、いわばこの地球(ほし)の救世主です」

満月の夜、ビルの屋上に集まった十数人の少女たちと、その中心に立つ奇妙な猫のシルエット。
凛々「異星からやってきた“マスター”によって世界中から集められた少女たちは」

ステッキを持つ少女たちが巨大な怪物と戦うカット。
凛々「星のエネルギーを喰らう魔物と戦い続けました」

口許を指で拭いながら挑発的な視線を送る凛々。
凛々「わたしたちが魔物を全滅させなかったら 地球は10年前に爆発してたんですよ?」「ほら 煤井さんも感謝してください」

煤井は心底呆れた表情。
煤井「…つまり いい病院を紹介しろってことか?」
凛々「あ!信じてませんね…?」

煤井は車を発進させる。
煤井「…いや 突っ込みどころしかねえだろ」
「魔物だの地球が爆発するだの…そんな妄想信じてたまるか!」「そもそもな 10年前に戦ったお前がなんでまだガキなんだよ」

凛々は頬を膨らませてストローを咥える。
凛々「仕方ないでしょう 魔法少女にまつわる記憶は改変されちゃいますし」「あと、魔法少女は歳を取らないんです」
煤井「…てめえ やっぱバカにしてるだろ」

根元から折れて倒壊した高層ビルのカット。
凛々「ほら、10年前… 新宿で大規模な爆発事故が起きたでしょう?」「あれも本当は魔法少女と魔物の戦いが原因なんです」「でも世界中の人間の記憶が書き換わって そんな事実は“なかったこと”にされてしまった」

混乱で煤井の脳がショートしてプスプスと音を立てる。
煤井「???」

凛々はわざとらしくため息を吐く。
凛々「ふう… 煤井さんにまともな理解力を期待したわたしがバカでした」
煤井「よーし 今すぐ降りろこのクソガキ」

小さな児童公園に到着。車を路肩に寄せる。
公衆トイレの前で、3人の売人が紙袋から出した棒付きの飴をゴスロリ少女に渡していた。
煤井(あいつらが 赤岡組の縄張りで“キャンディ”を捌いてる連中ね…)(あんなガキにまで売ってやがんのか 外道ども)

煤井は車から降りながら呟く。
煤井「仮にお前の話がマジだとして…なんで世界を救った連中が麻薬を作らなきゃいけねーんだよ」「設定が破綻してんぞ 練り直せ」

凛々は飲みかけのジュースを持って助手席から降りる。
凛々「んー… 説明が面倒ですね」

凛々は蓋とストローを外しつつ、公衆トイレで取引する売人たちへと歩く。
煤井も慌てて追いかける。
煤井「おい! 待て…!」

凛々は制止も聞かず進み、売人3人組の前で立ち止まる。
そして、手前にいた男の顔面へとジュースをぶちまけた。

ずぶ濡れになった男は「??」と混乱してキョロキョロしている。
隣にいたドレッドヘアーの男が、凛々を指さして怒鳴る。しかし残りの2人には見えていない。
ドレッド男「な 何のつもりだこの女…!」
もう一人「女? 何言ってんだお前?」

男「て…てめえ…っ!」
怒りに震えたずぶ濡れの男が、メリケンサックを拳に嵌めながら近づいてくる。
しかし彼は凛々の横を素通りし、煤井に殴り掛かってきた。
煤井「は?絶対おれじゃねえだろ!」

どうにか攻撃を躱す煤井。
残り2人は口論を始めている。
ドレッド男「そいつじゃねえよザキさん!そこの女がやったんだ!」
もう一人「だから女なんていねえだろうが!」「仕事中にラリッてんじゃねえ!」

凛々はどこ吹く風で、胴体にバネがついたパンダの遊具の上で口笛を吹いている。
煤井(あのドレッド野郎にしか星名が見えてない…?)(どういうことだ…?)

考えている隙に、ずぶ濡れの男が煤井の顔面を殴る。鮮血が飛び、歯が数本抜ける。
煤井「ぶ…!」

吹き飛ばされた煤井はすぐに起き上がり、口許の血を拭いながら男を睨みつける。
煤井「てめえ…覚悟はできてんだろうな」

不意に、煤井の頬が発光し始める。小さな魔法陣が浮かび上がり、唇の切り傷が塞がり、地面に転がっていた歯も口内に戻っていく。
煤井「…!?」

パンダの遊具に揺られながら、凛々が楽しそうな表情で光るステッキを揺らしている。
凛々「“巻き戻し”の魔法です」「わたしが傍にいる限り 煤井さんは不死身ですよ」

煤井は激昂し、ずぶ濡れの男の顔面を殴り地面に叩きつける。
煤井「おれの身体を勝手に改造してんじゃねぇーーーっ!」

残りの2人は恐怖で震えている。
ドレッド男「こ…こいつ山科組の煤井だ!南米のスラムで番長やってたっていう…」
もう一人「ブラジリアン柔術の正統後継者って噂は本当か⁉」

煤井は怒声とともに残り2人を蹴散らしてしまう。
煤井「デタラメな情報バラ撒いてんじゃねぇーーーっ!」
男たち「ぎゃああああっ!!」

煤井は倒れた男の胸倉を掴んで強引に立ち上がらせる。
煤井「ここがウチの縄張りだって知らねえのか?」「どこの誰に雇われた?ああ⁉」
男「ひっ ここ殺さないで…!」

呆れた様子で見つめる凛々。
凛々「ギャグみたいな強さですね…」「まあ じゃなきゃ組んだりしませんが」

売人と接触していたゴスロリの少女が、物陰で戦闘の様子を見ていた。少女は棒付きのキャンディを咥え、上機嫌に立ち去っていく。

気絶した男の胸倉から手を放し、煤井は凛々を睨む。
煤井「…で」「なんでお前の姿が見えねえ奴がいるんだよ?」

凛々はパンダの遊具から飛び降りて公園内を歩く。
凛々「さっきも言いましたよね 魔法少女にまつわる記憶は全部改変されちゃうって」
「魔物たちから世界を救って “マスター”が異星に帰ったあとも」「なぜかその仕様だけが残っちゃいまして」

凛々は制服のポケットから小型ナイフを取り出し、ベンチで弁当を食べている会社員の喉元に突き付ける。しかし彼は全く気付かず玉子焼きを頬張っている。
凛々「わたしたちの存在は 決して世界に認識されない」「要するに幽霊みたいな存在なんです」「例えばここで彼の喉笛を引き裂いても “事実”は不幸な事故死に書き換わってしまう」

怪訝な顔でドレッド男を指さす。
煤井「…待てよ?じゃあなんで、あいつだけはお前を認識できてたんだ?」

凛々はナイフをポケットに仕舞う。
凛々「それは彼が“キャンディ”の中毒者だからでしょう」「飴に込められた魔力の虜になった者だけは 魔法少女の存在を認識できるんです」

凛々は煤井を指さす。
凛々「あ、わたしが魔法をかけた人にも視えますよ」

煤井は苦笑しながら煙草を咥える。
煤井「…でも羨ましいな 悪いことし放題じゃねえか」

凛々は今までになく深刻な表情。
凛々「本当にそう思いますか?」
煤井「…なんで? 便利だろ」

暗い路地裏で膝を抱えて蹲る少女のカット。
凛々「家族や友人は自分を覚えていない  写真や動画に映らない 文章が残らない 仕事に就けない 人と話すことすらできない」「…世界から認識されないというのは つまりそういうことです」

凛々の瞳には深い闇。
凛々「命がけで世界を救ったのに あまりに酷い仕打ちだと思いませんか…?」

煤井(…そうか だから“製造者”どもは)

凛々は煤井をまっすぐ見つめる。
凛々「“自分たちを忘れさせないため”」「そのために彼女たちは“キャンディ”で世界を地獄に変えようとしています」
「どんな手段を使ってでも わたしはそれを止めたい」


高級ホテルの廊下を歩くチンピラ2人組。
男A「…冗談じゃないっすよ 関東最大の求道会に全面戦争を仕掛けるなんて」
男B「観念しろ ボスの決定だ」
男A「でも勝算なんかあるんすか…?」「おれらは所詮 暴走族上がりの半グレですよ?」

男Bは客室のドアをノックする。
男B「…大丈夫だよ」「こっちには“魔法少女”がついてる」

「いいよ 入って~」という声に従いドアを開ける。
公園にいたゴスロリの少女が、血塗れの男の死体を十字架に磔にして、ファンシーな飾り付けを施している。
男Aは吐き気を催す。

少女は屈託のない笑顔で「あ、次の“題材”決まった?」と訊いてくる。

男Bは懐から取り出した数枚の写真を見せる。その中には赤岡と煤井もいた。
男B「…はい」「彼らを殺して “アート”に仕上げてください」

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