社員10人→50人に増えたシリーズA起業家が2019年にやっておくべきだった6つのこと

はじめまして。
プレティア・テクノロジーズの牛尾です。
『サラと謎のハッカークラブ』シリーズ『PSYCHO-PASS サイコパス 渋谷サイコハザード』 などのAR謎解きゲーム、およびARクラウドというARアプリの開発ツールを作っています。
これから定期的に、経営やサービスのことについてブログ記事を書いていこうと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

この記事の想定読者

・シード〜プレシリーズAスタートアップの起業家・経営幹部層
・要は「これから組織拡大するぞ」という人たち

結論

・従業員10人を越えた瞬間、「組織をつくる」必要性は想像の何倍も大きくなる
・従業員10人を越えた経営者は、組織の問題に向き合うことは不可避。そのために、広報・管理部門を強化すべき
・会社の戦略、プロジェクトの意義、仕事のやり方をドキュメント化すべき
・信じてまかせるマネジメントのため、睡眠に投資すべき

前提条件

・牛尾(書き手)はCEO兼プロダクトマネージャ
・シリーズA資金調達後、10人前後から50人近くへと組織を拡大するフェーズ
・Product Market Fit完了後

このように前提をお伝えするのは、起業家のあるべき姿は、産業やサービス、企業のステージ、そしてチームの他メンバーの強みとの補完関係で決まるもので、それらを無視して「こうすべき」と一概に言えることではないからです。
これは、私の尊敬する起業家であるLoco Partners篠塚さんも仰っています。

それではさっそく中身に入っていきます。

牛尾の犯した6つのミス

1. 「組織をつくる」のはもっと後でいいと思った

こちらは、後述の要素の文脈になりますので、少し詳しめに書きます。
「会社が大きくなったら、社長は組織をつくらないといけない」なんていうのは、全起業家が予測していることです。しかし、問題はそのタイミングが急に訪れることです。

従業員20人を超えた起業家は、もはや1プレイヤーとして留まることはできません。より正確には、1プレイヤーであれる瞬間など創業以来一切ない、それくらい起業家の仕事は多岐にわたるのですが、難しいのは仕事間の重みのつけ方が「急速に」変わる、という点です。

具体的には、10人以下のときは「自分でつくって自分で売りまくる」ことが起業家の使命でした。それで事業がストレートに伸びていき、たいへん分かりやすい構造です。
しかし、10人を超えた瞬間、もはや経営者が「プロダクトを作ること」「売ること」に集中できる状況ではなくなります。
何が起こるかというと、今まで最低限にやってきたさまざまなやり方の「見直し」が起きたり、創業以来の文脈を有さない新メンバーから「これって何のためにやってるの?」という議論が巻き起こされたり、などです。

この状況で必要なのは、経営者が「組織をつくること」です。具体的には、会社の長期ビジョンを伝え、事業計画を精緻にし、予算管理を導入し、組織図を明確にする、などです。
究極的には、それらを「言語化してドキュメントに落とすこと」です。
これをおろそかにすると、社内で不満が溜まったり、メンバー間で話が合わずコミュニケーションコストが上がったり、どんどん良くないことが起きてきます。

プレティアの場合、このステージにおいて依然私は「プロダクトを作る・売るに集中してまだええやろ」と考え、組織をつくる活動を最小限におさえることにしました。
しかしこの組織を整備しないという選択は、結果的に社内で「良くないこと」が起きる温床をつくることとなり、その火消しに経営者である私の時間が取られる、そして「作る・売る」に使える時間がどんどん無くなる・・・という悪循環を招いてしまいました。

元Y CombinatorのSam Altmanも、「CEOは、組織を拡大する前に"何を・なんで・どうやってやるのか"をひたすら書け」と述べています。
これが、組織をつくることの第一歩だと私は考えています。
知識では学んでいたはずなのに、そのタイミングを見誤ったのが1つめのミスでした。

正しいアクション:
・従業員10人時点で、社内戦略・組織図・プロジェクトの目的などを記したドキュメントを整備する

2. 「自分で引っ張る」を勘違いした

1つめと関連しています。組織をつくる活動を疎かにした私は、結果的に「作る・売る」に集中することにしました。
とはいえ前述のとおり、組織の問題を潰す必要性は頻繁に出てくるため、「今までどおり作る・売る」+「組織づくり」、という、単純に仕事の増えている状況に追い込まれました。
これを、私は死に物狂いでハードワークすることでカバーしようとしました。

疲労困憊しながらも、何とか仕事をやり遂げてきたところまではよかったのです。
ですが、そんな毎日生き残れるかみたいな状況で仕事をし続けると、どうしても経営者自身が殺気立ってしまいます。この状況で個々の業務の担当者と話すと、どうしても「自分だったらここまでやる」「自分はこんなにやってるんや」と、必要以上に厳しくなってしまうことも出てきます。
みんながハードワークしている状況でこういうコミュニケーションを取られると、正直たまったものではないでしょう。
これにより、ただでさえアーリーステージで人員の逼迫した状況で、さらにメンバーのパフォーマンスを削いでしまっていたのではないか、と今では反省しています。

私がやるべきだったのは、「ハードワークして結果を出し、背中を見せる」ではなく、「信じてまかせる」ことでした。
結局当時の私の心境としては、「人にまかせるのが怖かった」に尽きると思います。
まかせるというのは、大変な勇気と、注意深さも必要な行動です。なぜなら、まかせた上で、結果も出さないといけないのですから。何をまかせるかを考え抜かねばなりません。

あとは、特にARのような新しいことをやるときは、担当者はなるべく「複数名」置く、すなわち「チーム」を作ったほうが良いです。あるいは、1名だけならめちゃくちゃシニアで放っといてもOKな人を配置する(それができる状況も稀でしょう)かの、どちらかです。
もちろん、複数名とはいえ最終意思決定者は誰かに決めておきましょう。

これは、不確実な状況でやることもわからず、その上相談相手までいないとき、人は手足が止まってしまうためです。
いずれの場合も、現場で問題が起こったときに「直接経営者が介入して手を動かす」というのは最善策ではありません。

正しいアクション:
・従業員10人を越えたら、やるべきことを考え抜き、まかせる。一度まかせたら信じる
・不確実性の高い活動をするときは、担当者は「複数名」置く

3. 会社の戦略をあまり伝えなかった

起業家は、つい「会社の戦略はみんなわかってるよね。採用のときも伝えたし、この前ランチのときも話したし」と考えがちです。
ですが、会社の状況はこく一刻と変わるもの。
変わったなら変わったと、変わってないなら変わってないと、経営者は伝え続けないといけません。

プレティアに起こったことは、私たちは二週間に一度全従業員と1on1ミーティングをしていますが、そこで「会社の方向性ってどんなんだっけ?」という声が頻繁に聞かれたことです。
その度、私からそれらを説明する、ということをやっていましたが、50人近い規模になるともはや各個撃破ではあまりにも時間がかかります。

特にプレティアのような、構造上複数のプロジェクトが同時に走り、かつARクラウドとARエンターテイメントの二本軸があるような会社の場合、社内で新たに生まれるプロジェクトたちが、メンバーたちにさまざまな印象を与えます。
経営者の頭の中では未来に向けた投資であっても、みんながそう推測してくれるかは別の話です。

プレティアの場合、2019年の3月から「毎四半期末に牛尾から、その四半期のまとめと今後の方向性を話す」というプレゼンテーション(Quarterly Pitch)が導入されました。
50人近い今となっては四半期に一度ももはや十分とは言えないため、来年からは毎月伝え続けることにします。
また、Quarterly Pitchで使用したプレゼンテーション資料は社内に公開し、いつでも見られるようになっています。

正しいアクション:
・会社の戦略を定期的に伝え続ける。分かってもらえてると思い込まない
・会社の戦略を資料に落とし、いつでも見られるようにしておく

4. 広報をおろそかにした

私は、社内的にはプロダクトマネージャという役割も持っているため、つい「プロダクトを作ること」こそがかっこいい、と思い込んでしまいます。
そして、「Twitterで発信したり、イベントに登壇したり、他の起業家と交流するのはダサいことだ」と、そうした広報活動を疎かにしてしまいます。

これは優先順位で言うと合っていると思っていますが、真実は「プロダクトも広報も重要」です。
なぜなら広報することによって、より(自社にとって)優秀なメンバーを採用することができるからです。

先ほど、「まかせた上で結果を出さなければならない」と述べました。これを実現する上で、「優秀なメンバーを採用する」ことは最大の前提条件になってきます。

実際プレティアにおいては、今年7月にシリーズAの資金調達のプレスリリースを行なってから、明らかに応募してくださる方々のフィット度合いが増しました。
「素晴らしい人材なら、きっと相手のほうから自分たちを見つけてくれる」なんてことはありません。スタートアップは、自分からフィットする人びとを説得していかなければならないのです。

ちなみに、事業によっては人目を避けて事業を進めることが合理的になりますが、それでも優秀な人材は不可欠なわけで、他人に認知してもらうチャネルやセグメントが限定されるだけでしょう。
広報のかたちは変われども、やはりおろそかにする選択肢はありません。

正しいアクション: 従業員10人から広報担当者を採用する。最低でも兼務で、明確に置く

5. 管理部長の採用が遅かった

「たかが10人で管理部長を採用するのはぜいたくだ」という風に私も考えていました。
しかし、労務を中心とした管理系の業務は、従業員数とのかけ算で増えていきます。
何より重要なことは、それらによって「経営者が事業成長をつくる時間が奪われること」です。なぜなら、管理系の仕事の多くは、単純な作業ではなく経営レベルの意思決定を要するからです。
体感的には、採用しないで自分で管理系の意思決定を処理することで、採用にかかるお金以上の機会を失っています。

プレティアでは、Administration Manager(弊社で言うところの管理部長)を採用したのは、従業員が20人を超えた後でした。
しかし、この時点で管理系のコストをすでに膨大になっており、明らかに事業に支障をきたしていたと思います。
そして採用後は、CEOである私が事業成長のための活動に集中できる時間が、圧倒的に増えました。

この管理部長がうまく採用できるかには、広報をしているかどうかがやはり効いてきます。今までお話した内容は、すべてつながっているのです。

正しいアクション:
・従業員10名を超えたら、管理部長の採用を最優先事項にする
・管理部長の採用の目処が立ってから、残りのポジションの採用を開始する

6. 睡眠をおろそかにした

上記の問題は、結局すべて「やれるもんならやってるわ」という、リソース制約の問題にいきがちです。
そのリソースの最たるものが、やはり経営者自身の体力・精神力でしょう。これらを回復するもっとも基礎的なものが「睡眠」です。

私も2019年は、本当に何日も何日も徹夜でハードワークしました。
そうするとどうなるかというと、前述の問題とも絡んできますが、寝ない→人当たりが厳しくなる→組織のパフォーマンスが下がる→カバーするため自分で手を動かす→もっと寝ない、の負のスパイラルに陥ります。

経営者がハードワークすること自体は当たり前というのが通説ですが、ハードワークにより良質なアウトプットを出し続けるためにも、睡眠が十分に取れていることは大前提です。
睡眠さえ取れていれば、土日もなく毎日働いていてもさほど気にならない、というレベルです。

私については、今年10月頃にShowroomの前田さんが推していたマットレスに似たようなやつを、メルカリで中古で半額以下で発見し、分割払いで購入しました。
自分としてはたいへん高い買い物でしたが、これにより「今までぼくって寝られてたの?」というくらい睡眠の質が改善し、結果として劇的に仕事時のパフォーマンスと機嫌が向上しました。明らかにお値段以上でした。

正しいアクション: 経営者の仕事は減らない。ただし仕事をするための体力・精神力は底上げできる。そのために、睡眠道具へ投資する

まとめ

全体として、Post Product Market Fitステージなのに、経営者たる私のプロダクトを作ること以外への関心が薄かったことが問題でした。
組織の成長は待ってはくれないですし、それにともなう問題は指数関数的に増えていきます。スタートアップはやらないことを決めるのが大事と言われますが、組織の問題に関しては先手を打って動いておくべきだった、と今は考えています。

このように、2019年は「もっとうまくできたこと」は無限にありました。

ただひとつ自分で誇れることがあったとすれば、「もっとやれた」と言うのはあり得ないくらい、圧倒的にハードワークした、と断言できる点です。そしてやるときは、見えている限り戦略的にやりました。
2020年は、この気持ちと姿勢をより適切な活動に振り向けることにフォーカスします。具体的には、会社の

・意味: わくわくするような目的をつくり、伝える
・組織: 適切な秩序のもと、メンバーのパフォーマンスを最大化する
・機会: 非連続な成長を生み出す

をつくること、に専念していきたいと考えています。そしてそれ以外は、愛すべき50名のメンバーたちに「信じてまかせます」。

2019年お疲れ様でした。2020年もどうぞよろしくお願いします。

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