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ゴールデンウイークの百字

【ほぼ百字小説】(5185) 今年こそは過去の自分を掘り出そう。去年はすでに掘られていて、手ぶらですごすご帰ってきた。しかしあんなものを掘り出す者が自分以外にいるとは。もしかしたら未来の自分かも。まあ、それはそのうちわかることか。

【ほぼ百字小説】(5186) 灯台だとばかり思っていたあれが灯台ではなかったと今はっきりしたが、今さらどうしようもなく、ただこうして空の彼方へと消えていくそれを見送るだけ。まあ、前もってわかっていてもどうしようもなかっただろうが。

【ほぼ百字小説】(5187) 昔、人間を小さくすることで人口爆発と食料危機を乗り切るという計画が密かに実行されたが、密かに中止され、そのとき小さくされた人間たちが今も密かに暮らしているという。それはそれでひとつの成功の形なのかも。

【ほぼ百字小説】(5188) そうそう、筍の皮を剥ぐように外側を剥がしていく。コツさえ掴めば簡単。こうして芯の部分だけにすれば、人間は8分の1くらいにまで小さくできる。たまに全部無くなってしまう人間もいるけどね、それは仕方がない。

【ほぼ百字小説】(5189) ごんごんごん、とケーブルカーの音。あわてて線路から飛び退いたが、ケーブルカーは見当たらずケーブルも動いてない。音だけが近づいてきて、音だけが遠ざかっていった。飛び退かなくてもよかったな、とは思わない。

【ほぼ百字小説】(5190) 数年前、妻はその滑り台で速度が出過ぎてふっとんでこけた。娘もそれを目撃している。ところが今年は大して滑らない。物足りないくらい。当時の写真と見比べても滑り台にとくに変化はない。実話怪談のろいの滑り台。

【ほぼ百字小説】(5191) 光っている竹はけっこうあるが、割ってみなければわからないし、入っていたとしても育ててみなければわからないが、そう次々試してみるわけにもいかず、竹ガチャと呼ばれている。向こうからすれば親ガチャだろうが。     

【ほぼ百字小説】(5192) 川に棲んでいる動物の親子を橋の上から見る。大きいのと小さいのがいつも寄り添っている。何年も前からそうだから同じ親子のはずはないのだが、いつ見ても親子でそこにいる。こっちの娘はもう妻より背が高くなった。 

【ほぼ百字小説】(5193) 川の中洲でたくさんの亀たちが甲羅を干しているが、たまに何かから逃げるようにいっせいに水中へ駆け込んでいく。すぐ側の背の高い水鳥はただ突っ立っているだけ。亀だけに感じられる何かがあるのか、と橋の上から。


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