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『かめたいむ』全作解説+目次

【ごあいさつ】

 出ました! シリーズ【百字劇場】の4冊目です。【百字劇場】は続きます。
 そして今回は、満を持して。何がどう満を持してなのかはわかりませんが、とにかく一冊全部、亀亀亀亀亀亀亀ですよ。
 
 世界を百字で切り取っているうちに、その世界観にいくつかのレイヤーみたいなものが見えてきた、というのは、これまでの三冊をまとめる段階で感じたことで、それが、「SF(ありふれた金庫)」「(納戸のスナイパー)」「(ねこラジオ)」という形になったわけですが、今回は「」です。
 亀にはこれまでもお世話になってきました。今回もお世話になります。いつか恩返ししなければいけません。
 今回のこれ、ひとことで言ってしまえば、「亀の定点観測」かな。

 うちには亀がいます。クサガメです。物干しで暮らしています。
 その亀の観測と、そこからの連想。だから基本的には家の中。これまででいちばん狭い世界。物干しからの眺め、です。とか書いても、なんのことやら、ですよね。じつは私にもよくわかってません。いやほんと、よくこんなの出してくれたなあ。これは奇書だと思いますよ。ネコノスさん、こんなの出してくれてありがとう。

 同じ場所にいる亀を見続けた文章を重ねることで何か見えてくるものがあるかもしれません。まあ少なくとも亀は見える。それだけでもいいか。
 ということで、解説もなにも、うちの物干しには亀がいます、という事実以外にほとんど書くことないんじゃないか、とも思ってるんですが、まあそういう亀をネタにしたエッセイとして楽しんでいただけたら幸いです。


P5 水の底で亀は石のように


 水の底で亀は石のように寝ている。この物干しのこの盥で冬を越すのは二十何回目か。いっしょに暮らすようになってもう三十年ほどで、妻よりも、そして当然娘よりも長いのだ。ここでこうして洗濯物を干すたびに思う。

 ということで『かめたいむ』、最初にこれを置きました。
 これが最初の甲羅。これを先頭に、ここから甲羅を二百個並べていきます。やっぱり始まりは、眠りから目覚めるところからかな、とか。これはその目覚める直前の亀の様子ですね。次で、目覚めます。
 洗濯物を干しているとき、同じ物干しにいる亀を見ながら、よくこんなことを思います。ずいぶん長いこと思ってきた。亀は長生きですからね。長いつきあいです。そのあいだに、引っ越しも三回しました。一回は地震でアパートが全壊して逃げたんですけどね。あのときも亀は冬眠中で、冬眠中の亀をリュックに入れて避難所に行ったのでした。お互い生きててよかった。
 こんなに長くつきあってくれる生き物はそうそういませんよ。人間を含めてもね。

P5を朗読しました。

P6 ずっと水の底で冬眠

 物干しですから、屋外です。季節そのまま。物干しでは、毎冬水の中で冬眠してます。水の底でじっと寝てる。亀は爬虫類で、肺呼吸なのにそんなことができるんですね。そして、こんなこともできる。水陸両用生物です。すごいやつだ。

P7 亀と暮らしていると

 人間の数だけ世界がある。いや、人間には限らず、観測者の数だけ世界がある、というべきか。そういうとものすごく大きな話みたいですが、まあたとえばこんなふうなこと。私の頭の中の地図はこんな感じ。そして新しい亀を発見するとそれが追加される。亀の多い地図です。

P8 毎年この時期になると

 そしてそんな亀地図の中に何年か前から追加された亀。よくあるプラスチックの衣装ケースは、大きさも素材もちょうどいいんでしょうね。あれを水槽代わりにして、けっこう亀が泳いでますよ。道端で見かけたら中を覗いてみてください。

P9 ここ数日で急に暖かくなり

 昔の人はうまいこと言ったもんだ、と思います。三寒四温、ほんとそんな感じですね。亀は変温動物なので、亀の体温は外気温や水温と同じ。我々恒温動物から見ると不思議ですが、まあ向こうから見たらこっちの方が変でしょうね。とにかくそんなわけで、温かくなると動くんですが、寒さがぶりかえすとまた動かなくなる。甲羅の中に季節がある。亀は生きた季節なのです。

P10 物干しに置いた盥の水底で

 これも毎年のこと。ずっと水の中にいて、でも水中にも日は射すので甲羅は藻で緑色になります。水道水を盥に入れてるだけなのに、ちゃんと緑色の藻が発生する。当たり前のことみたいですが、不思議ですね。ものすごく巧妙な繁殖システム、という感じがします。そして、亀の子束子というのは亀にぴったりの大きさ。このために作られた道具かと思うくらい。




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この先は、準備中です。
本が出たら、一日5編ずつくらい付け足していく予定。


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