うかれてポンチる☆悠凜's『雨さん“あどりめ”イメージストーリー』
元ネタの曲はこちら
→ ~南国の夏に惑う~
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晴れた夏の日。私は空を見上げた。
飛び去る飛行機を見つめる。
雲が尾を引きながらついて行こうとして、ついて行けずに置いて行かれる様を。
“彼”はあの飛行機に乗っている。
恐らく、もう二度と会うことはないであろう、5日間限定の私の恋人。
彼は気づいているだろうか。
私が、彼の思惑に気づいていた、と言うことに。
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ちょうど6日前。ホテルのバイトでプールサイドの担当になった私。ドリンクを運んだ客のひとりが彼だった。
一見、爽やかな笑顔で気さくに声をかけて来た彼からは、見るからに危険なオトコの香りがした。私の直感がそう告げる。
でも、それをわかっていて隙を見せたのは私。
私の様子に、引っかけやすい田舎娘と判断したのだろう。この辺りの案内を頼んで来た彼に、私は微妙な笑顔を見せる。戸惑っているように見せかけ、少し引き気味を装おい返事をした。
如何にも優しげな笑顔の下に、私は違う顔を垣間見る。『一週間の暇潰しにいいカモだ』彼の目はそう言っていた。
「……今日は夜まで仕事が入ってるので……明日で宜しければ……」
明日からは夏休みを取ることにしていた私。一拍だけ間を置き、小さな声で答えると彼の目が光を帯びる。
次の瞬間から、私たちのゲームは始まった。
*
さっそくその夜、仕事が終わってから誘われた。レストランで食事をし、この街で一番のバーへと繰り出す。テラス席から外へ出られるようになっていて開放感あふれる店だ。
南国の夏の夜は長い。
客は思い思いに食べ、飲み、しゃべり、笑い、歌い、そして踊っている。
彼は私をダンスに誘って来た。本当を言えば、私は仕事でステージに上がってショーをすることもあるのだけど……苦手なフリをする。彼にリードを任せ、いい気分にさせるのだ。
巧み踊る彼。私たちは店内で注目を集めた。明日には街中に私たちのことは知れ渡っているだろう。この店は、そう言う場所なのだ。
日付を超えた頃、彼は私を自宅まで送ってくれた。別れ際に突然の口づけを残し、ホテルへと戻って行く後ろ姿を見送る。
帰宅した私に、ルームシェアをしている友だちが「ねぇ。あの人は観光客なんでしょ?すぐにいなくなっちゃう人よ?」と心配の言葉をくれるのも初めてのことではない。
私は何も答えず、ただ、彼女に向かって微笑んだ。
*
2日目、彼と観光スポットを廻り、夕方少し飲んだ後、指を絡めて砂浜を歩いた。遠くの海へと隠れようとしている夕陽を眺めながら。
群生する木の陰で、彼は再び私に口づけをして来た。一度、顔を離し、「いや?」と確認するように見つめて来る。
私は戸惑ってるフリをして、少しだけ顔を下に向けた。すると、彼は私の顎を掬い上げ、噛みつくように唇を重ねる。
口づけを深めながら彼の腕が私を抱きしめ、消え行く紅の灯が、ひとつに溶け合う影を映していた。
3日目、また観光スポット廻り。ドリンクを片手に、すぐに溶けてしまうジェラートを食べながら、指を絡めながら。
きっと、既に街中で私たちの関係を知らない人はいない。この街の生き字引と呼ばれている近所のおじいさんに、何て言われているかも想像がついてしまう。
「また、やりおったか、あの娘。小麦色の肌、やわらかいブラウンの巻き毛、この街の海を映したようなブルーアイズ……母親譲りのその美貌を、旅の行きずりの男などに。……やれやれ、じゃじゃ馬めが。嫁の貰い手をなくすと言うに」
なんて、溜め息混じりに呟いているに違いない。彼がすぐにいなくなる人だなんてこと、言われなくても私が一番わかっているわ。
でも、だからこそ。期間限定だからこそ、彼はこうしてこの上なく優しくしてくれるのよ。
その夜は、彼に誘われて、彼のホテルの部屋に泊まった。
翌日、4日目は、珍しくあいにくのお天気。それを良いことに一日中、部屋の中で二人で過ごした。食事はルームサービスで頼み、それ以外はずっと戯れる。ソファで、バスルームで、そしてベッドで。
愛の言葉を甘く囁きながら。
5日目、最後の1日。私たちはショッピングモールへと向かった。彼の家族や友人へのお土産を選びに。
モールの一角にあるアクセサリーショップ。彼は小さなピアスを手に取ると「きみに似合いそうだ」と着けてみるように促す。私が着けて見せると笑顔で頷き、「記念にプレゼントするよ」と小さなキスをした。
最後の夜。彼はこの上なく優しく、そしてそれ以上に激しく、貪るように身体中で私を求め続けた。
今日が最後。彼と肌を合わせるのは。
明日の昼には、彼は帰って行くのだ。彼はきっと、せめてもの優しさを、と思っているのだろう。そんな必要ないのに。
明け方、彼がひと時の眠りに落ちた後、私は窓から朝陽が現れる様を見ていた。何をしていようと、また新しい朝が来る。
しばらくすると、目を覚ました彼が後ろから抱きしめて来た。これが最後の抱擁になるだろう。
朝食の後、帰宅準備を終えた彼を空港まで送った。搭乗準備を済ませ、シートに座ってコーヒーを飲みながら無言の時。
もう少しでゲート入りと言う時刻、私は席を立ち、彼に道中の無事と別れを告げた。
彼も立ち上がった。私の頬に手を添えて、じっと見つめ合う。
優しく、深く、私に最後の口づけをした彼は、指を絡めながら「ありがとう」と言った。私も「ありがとう」と返す。
私が一歩ずつ離れるごとに指がほどけて行く。
指が完全に離れたところで、私は彼に背を向けた。そのまま振り返らずに空港を後にする。
*
海沿いの道。空を見上げる。
限りない青空を飛んで行く飛行機。
さようなら。5日間の私の愛しい人。
夏が見せたまぶしいひと時。
彼に手を振るように、耳元でピアスが揺れている。
私はハミングしながら歩き出した。
*
☆アイキャッチは フリー写真素材ぱくたそ様 より
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