浜崎さんの『人生、悲喜交々④』@ Under the Rose
~第二夜・オナゴ会~
至福の夜でございます。
美しい星空(店内からは見えませんが)、美しい音楽、美しい女性陣……。
これで私も旨い酒を飲めたならどんなにか……いやいや、そんなことをしたら記憶が半減してしまうから却ってモッタイナイ!
今宵も、じっくり眺めて堪能させて戴きましょうとも。
*
「浜崎さん。普段、二人はどんな話をしてます?」
きっかけは週末の夜、父の店で食事をされたお二人が、私の店で飲み直してくださっている時の質問でした。
「そうですねぇ。やはり、ほとんどがお仕事の話ですね。後は、藤堂さんがまだ海外営業部にいた頃の話ですとか……」
さすがの私でも、まさか、
『いやいや、今井さんと雪村さんにまたフラれた~などと、お二人のことばっかり話していますよ』
……とは言えません。さすがにプライドを大根おろしが如くズタズタにしてしまいそうです。
「ああ、でも先日、藤堂さんの初恋は幼稚園の先生だったらしい、とか話されてましたね」
実は私が誘導して話させた、と言う事実は棚にしまわせて戴いた上で、藤堂さんを生け贄……いえ、釣り餌に(顔がほくそ笑みそうです)。
「うわぁ~藤堂くんらしい」
今井さんがコロコロ笑い、雪村さんも『微笑ましい』とでも言うように微笑を浮かべました(掴みはオッケーですね)。
「今井さんの初恋は?」
流れに乗って訊いてみましょう。いやいや、このお二人もさぞかしモテモテだったことでしょう。
「ん~……そう言う感じの初恋とかはないかもです」
が、今井さんがスパッとひと言。
「おやおや」
私の言葉に、
「男兄弟に挟まれてたせいか、あんまり……まあ、面倒くさがりだったのが一番の理由だと思いますけど」
苦笑いしながらの付け足し。しかし、四面楚歌のように男性陣の視線に囲まれていたであろうことは疑いようもありません。
「……静希は?」
何とも都合よく、今井さん自ら雪村さんへと話を振ってくれ、楽してほくそ笑む私。
「え、私ですか?私は……」
一瞬、驚いた雪村さんは考え込むように目線を下げました。
「……あまり恋とかって感じではないですけど……何となく憧れていた、と言うレベルなら……強いて言うなら、ですが……義兄(あに)……かも知れないです」
「おにいさん?」と今井さん。
思わず私の耳もダンボになります。
「正確には、その時はまだ義兄ではなかったのですけど……姉の交際相手、として会いましたので……私は姉と歳が離れていて、義兄と初めて会った時は5歳くらいだったでしょうか」
「ああ、そう言うことね」
納得したように頷いた今井さんに、私も心の中で同調。
「姉も義兄も二人きりで出かけたいでしょうに、よく一緒に私を遊びに連れて行ってくれて……優しくて頼りになって、今になって思えば憧れていたのかも知れません。あ、もちろん、全然ヘンな意味ではないですよ」
雪村さんは慌てて言い添えました。
「父は忙しくて、一緒に過ごす時間が少なかったので尚更かも知れませんけど……その後、姉と結婚して、義兄と呼べるようになりました」
嬉しそうに話す雪村さんを、今井さんが微笑ましそうに見つめています。
この話し方だと、恐らく藤堂さんも知らないことなのではないか……知りたいでしょうねぇ……いや、ナイーブな藤堂さんですから、幼稚園レベルの話でも落ち込むでしょうか。
何にせよ、藤堂さんも知らないであろうことを私が知ってしまうなんて……!
思わず顔が緩みそうに……いけない、いけない(でも得意顔)。
今井さんの方は、まあ本当かどうかわかりませんがね。
何にせよ、もし幼稚園レベルの話であっても、片桐さんのことですから知ったらひどく拗ねるでしょうねぇ、あの人は(プププ)。
そうこうしていると。
「……あ……失礼」
小さく呟いた今井さんが携帯電話を取り出しました。
「……あ……すみません」
続いて雪村さんも。
これは男性陣からの『帰れコール』と見ましたよ(プププ)。
携帯電話をしまった今井さんが顔を上げ、
「浜崎さん、ごめんなさい。お勘定をお願いします」
ため息混じりに仰いました。
「かしこまりました。あまりお待たせしては、後が大変でしょうからね」
私の言葉に小悪魔な笑みを浮かべた今井さん。
「さすが浜崎さん。わかってらっしゃる」
今井さんの言葉に、雪村さんが吹き出しました。
「ごちそうさまでした。……行こ、静希」
「はい」
そう言って、美女たちは待ち惚けの君の元へと帰って行かれましたとさ。
*
今宵はここまでに致しとうございます。
~つづく……かも知んない~
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