東郷くんの社内レポート

 
 
 
リポーターは東郷和成(とうごうかずなり)でお送り致します。
ちなみに、デューク東郷氏は父親じゃありません。あんなブアイソで怖いおじさんとは縁もゆかりもありません。
 
 
 
まず、ウチの社について。
 
 
簡単に言えば商社。あ、簡単過ぎる?でも他は割愛。
 
海外営業部、国内営業部、企画室、総合部に経理部。まあ、フツーにある部署。
 
東郷くんがいるのは海外営業部。海外営業部には、欧州部、米州部、アジア部があり、そのうちの欧州部に所属してる。
 
 
さらに、欧州部は大まかに東西南北中部の5つの地域に区分され、それぞれに主担当とアシスタントがいる。
 
もちろん、万年、人手不足なので相互協力は必須。ちなみに東郷くんの主担当は東部。
 
 
 
さて、今。
 
ウチの社で一番の注目株と言えば、もちろん東郷くん…じゃなくて、企画室の藤堂颯一先輩だと思う。
 
藤堂先輩は、今は企画室にいるけど、元々は海外営業部の所属で、新入社員の時から注目を一身に浴びていたらしい。色々な意味で。
 
…わかる気はする。うん。
 
 
まず、とにかく出身が最高学府と言われる大学だ。
出身校だけじゃ判断出来ないと思うよね。うん、その通り。
 
いい大学を出てても使えないヤツもいっぱいいる。
 
 
だけど、藤堂先輩に関しては出身校の名前に恥じない。思わず納得。
とにかくデキる男の条件は全て兼ね備えている。
 
正直、普通なら思わず嫉妬でカメハメハ喰らわしちゃいそうなくらい、『天は二物も三物も与えている』を地でいく人だ。
この東郷くんでさえ、認めざるを得ないくらいに。
 
ということは、つまり見かけも格好いい。
 
 
入社式の時、出席していた全ての女子社員が一斉にどよめき、マンガみたいに目がハートになっていたという伝説の人だ。

 
 背は高い。
 脚も長い。
 スラリとしているけどスポーツマン体型。
 涼しげで爽やかな目元。
 清潔感あふれるサラリとした髪の毛。

 
当然、男子社員からは敗北と負のオーラが全開だったらしい。
 
で、これだけ格好いいって、じゃあ性格は?って思うとこだけど。
まるで紳士を絵に描いたような人。その上、仕事メチャ出来るし。
 
だから、すぐに男子社員からも認められちゃったというレジェンドな人。
 
 
…何だか自分が悲しくなって来ちゃったからあとは割愛。
 
 
あ、言っとくけど、東郷くんの見かけだって悪くない。っていうか、結構いい。
背もそこそこ高いし、顔だってムニャムニャ。
まあ、大学は最高学府じゃないけど。
 
そう、苗字だって平仮名にすれば、藤堂先輩と一文字違いなんだからね。
それなのに東郷くんがあんまりモテないのは何でだろう?
 
 
 
…まあ、自分のことは置いといて。
とにかく藤堂先輩は、上司や男子社員からは、もうライバルとかいう次元を飛び越した有能男子として、女性社員からはデキる白馬の王子的存在として人気ナンバー1。
常にトップを独走中だ。
 
 
そんなだから、さぞかし言い寄られて大変だろうと思うでしょ?
うん、確かにモテるんだけどね。
 
でもね。あまりにもハイスペック過ぎて、遠目に眺めて目をハートにしつつキャーキャー言ってる人ばっかみたいね。スターみたいな位置付け。
 
 
ま、中には勘違い甚だしかったり、無駄にポジティブ思考だったりでアタックする子もいるみたいだけど。
 
あまりにスマートに感じよく丁重にお断りされて、評価はますます鰻登りというウワサ。
 
 
でも東郷くんは、このウワサの半分はガセで出来てると思ってる。
 
何でかって。藤堂先輩はホントに『高嶺の花』状態だから。
ある意味、『高値の花』とも言えるかもしんない。
 
 
それと、先輩、今はフリーみたいだけど、数年前までは彼女いたし。それもつけ入る隙もないくらいのパーペキな彼女が。
 
他の先輩方の話だと、その前にも彼女がいたらしいけど、おれが入社した時にはそのパーペキな彼女とつき合っていて、正に!絵の中の二人と形容出来るくらいにお似合いの、完璧なカップルと言われていた。
 
誰がどこから見ても非の打ち所ない、お似合いのその二人が、どういう経緯でわかれてしまったのか詳しい理由は知らないけど、チラホラとウワサ話は流れて来ていた。
 
件のパーペキな彼女は、現在、別の人と結婚されて、退職なのか休職中なのかはわからない。
 
 
だけど、それ以降、藤堂先輩には浮いたウワサが立った記憶はない。
 
 
そもそも、そのことを知ってたら、とてもじゃないけど「我こそは!」なんて立候補できる女の子なんてそうそういないと思う。
それこそ『当たって砕けろ』くらいの勇気があるか、『何がツボかわからない!私がツボかも!』って考えか、やっぱり『無駄にポジティブ』か。
 
まあ世の中、いろんな嗜好の人がいるけど、たぶん藤堂先輩はヘンなツボにはハマらないような気がする。
 
 
...気がするだけだけど。
 
 
それに、人伝に聞いた話だと「当分、恋愛はいい」って言ってたらしい。
何があったのか気になって、東郷くんのセンサーがビンビン反応する。
 
 
 
最近、企画室に異動になった雪村先輩なんてどうなんだろう。
お似合いのような気がするんだけどなぁ~。
 
…って、雪村先輩っていうのは藤堂先輩の同期の女性で、これまた絶世の美女だ。
先輩なら、例のパーペキな彼女に勝るとも劣らない。っていうか勝ってる。間違いなく。能力も姿も。
 
 
…ところがこれが、まあ笑えるくらいポーカーフェイスの人なんだよね。
 
元々は総合部にいたんだけど、最近、企画室に異動になったんだよな~。
 
 
 
う~ん。また東郷くんのセンサーがウズウズする。何かが起きそうな予感。
 
 
…予感だけだけど。
 
 
 
 
そんな妄想を日々育てているうちに、企画室では少しずつ何かが起こり始めていたことを、この時の東郷くんはまだ知らなかった。
 
 
 
 
 
 

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