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ーーそれは春だった。
雪がまだ溶けてない、氷が地面を覆い。花や芽がまだ土の中で眠り、春らしくない春だった。春の暖かさもなく、春の愛しさもなく、風さえ厳しく、一風変わった春だった。それでもわずか、本当にわずかであるが、緑色のなにかが庭の隅にあった。苔かどうかはわからないが、あの春らしくない春の中で唯一、春らしいものだった。白い布を飾るように、ほんの少しだった。白いしかなかったあの季節の中の、聖地だった。そこに近付こうともしなかったのもこれが原因なんだろう。とにかく特別の何かだった。あの場違いの何かを眺め、「春やー春やー」と騒ぐ童もいった。世界がまだ白いままだが、あの小さな何かのおかけで希望が宿っている。温かい春への希望が宿っていた。風が耐えられるほどの勇気ももらった。「冬がもう終わり」「今は春だからもう少しだけ」。誰も彼もそう、信じて疑わなかった。あの小さな命のおかげで、異様な春に違和感も持たず。希望を抱いたまま緩やかに終わりに向かった。

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