見出し画像

県バス対策協議会から宮崎の公共交通の持続性を考える(前編)

1.はじめに

日本の公共交通は、完全民営の独立採算制で経営されている。
2000年代初頭(小泉政権時代)に実施された規制緩和が契機となり、地方の路線バス会社が多く経営破綻した。
私の地元も例外ではなく、唯一のバス会社である宮崎交通が平成17年(2005年)に一旦、民事再生法を申請し、経営破綻した。
その後、西日本鉄道や全日本空輸(ANA)、霧島酒造などの民間企業と産業再生機構の支援を受けたため、路線バスが宮崎県内から無くなることなく、現在も経営を行っている。

しかしながら、一昨年から丸2年以上続く、コロナ禍で民間企業である鉄道会社やバス会社、航空会社は移動する人が大幅に減ってしまった。
「公共交通」であるがため、お客さんが乗っていなくても、以前通りに電車やバス、飛行機を運行しなくてはならず、収入は減ったものの、支出は変わらないままとなってしまい、経営の危機に瀕している。

まずは、宮崎交通の現状を掘り下げてから、今回の話題である宮崎県バス対策協議会について説明する。

(1)コロナ禍前の宮崎交通

①車両更新の抑制
平成17年(2005年)に経営破綻した後、私たちの目に見える形行ったことが、路線バスの更新を抑制である。
経営破綻前は、新車を年間15台程度を導入し、約300台(高速バスや貸切バスを含めると380台程度)ある路線バスを20年サイクルで更新する形で行われてきたが、経営破綻後は県や市町村といった自治体からの支援で購入できる範囲である年間5~6台程度の更新にとどめ、出費を抑えるようにしていた。
そのため、平成27年(2015年)頃には、車齢30年の路線バスが(10年×10台=100台)100台以上活躍するのが日常となっており、路線バスの置き換えが喫緊の課題となっていた。
※下の写真のような昭和末期に導入された路線バスが宮崎では今でも現役で走っている

宮崎交通の路線バス@野村証券前(旧デパート前)

流石に、誤魔化しが効かなくなったのか、平成27年(2015年)頃から首都圏で活躍していた中古バスを導入しつつ、新車も導入しながら古いバスを置き換えるという対応を行っているが今でも昭和末期から平成初期に導入した車齢30年以上の車両が大量に現役で活躍している。

②運転手不足の対応
平成26年(2014年)頃から東京の路線バス運転手が足りないということが問題になりつつあった。
その頃は、まだ宮崎において問題にはなっていなかったが、2~3年後くらいから宮崎でも運転手のなり手不足が課題となっていた。
それを踏まえ、宮崎交通では、高校卒業者を採用し、2種大型免許が取得できるようになる21歳までの3年間は、本社業務に携わったり、整備工場で勤務したり、運行管理者の資格を取得したりして、若手運転手の確保を行っていたほか、中途入社者にも、大型2種免許の取得支援を行うなど、路線を維持するための対策を行っている。

③客貨混載
宮崎県の中央部にある西都市(人口約2.9万人)と宮崎県で最も人口の少ない自治体である西米良村(人口約1000人)を結ぶバス路線を維持することと、宅配便のサービスを維持するという2つの目的で、客貨混載バスをヤマト運輸と行うこととなった。
使用するバスには、専用のラッピングが施され、車両中央部には宅配便を運ぶためのボックスが設置されている。
現在では、西都-西米良線だけでなく、延岡-高千穂線、日向-諸塚線(片道のみ)でも運行されており、西都-西米良線は、ヤマト運輸だけでなく、日本郵政の3社で行われている。

(2)コロナ禍後の対応

令和2年(2020年)にコロナ風邪が流行し、人々の流動が少なくなると、宮崎交通も収入が減少し、厳しくなったことから以下のような対策を行うこととなった。

①高速バス路線の大幅リストラ
宮崎交通が運行する都市間高速バスは、以下の通りである。

・宮崎-福岡の「フェニックス号」24往復/日(うち7往復が宮交担当)
(西日本鉄道・九州産交バス・JR九州バスと共同運行)
・宮崎-熊本の「なんぷう号」14往復/日(うち7往復が宮交担当)
(九州産交バスと共同運行)
・宮崎-鹿児島の「はまゆう号」7往復/日(うち4往復が宮交担当)
(南国交通と共同運行)
・宮崎-長崎の「ブルーロマン号」2往復(うち1往復が宮交担当)
(長崎県営バスと共同運行)
・宮崎-新八代の「B&Sみやざき」
(JR九州バス、産交バスと共同運行)
・宮崎-大分・別府の「パシフィックライナー」
(大分交通、大分バス、亀の井バス、JR九州バス)
・延岡-福岡の「ごかせ号」4往復(うち2往復が宮交担当)
(西日本鉄道と共同運行)
・延岡-熊本の「たかちほ号」2往復(うち1往復が宮交担当)

と宮崎からは、佐賀を除く九州各県の県庁所在地を、延岡からは、福岡と熊本を結ぶ路線が運行されている。
そのうち、利用状況が芳しくなく、赤字路線である宮崎-大分線を廃止し、宮崎-鹿児島・延岡線を休止し、運行を継続する宮崎-福岡・熊本・新八代線、延岡-福岡は減便とし、宮崎-長崎線は季節運行、延岡-熊本線は運休に変更となった。

また、それに伴い高速バス用の車両が余ることから車齢10年以上の車両が大量に廃車となった。

②本社移転
元々は南宮崎駅近くに本社があったが、平成17年(2005年)に経営破綻してからは、宮崎交通のバスターミナルである宮交シティ付近に移り、その後、宮崎市中心部にあるボンベルタ橘(現:宮崎ナナイロ)内に本社を構えていた。
しかしながら、自社ビルではない宮崎ナナイロにいるよりも、観光利用が低迷し、利用が芳しくない宮崎観光ホテルの2棟のうちの1棟を改装し、本社にすることで、宮崎観光ホテルの稼働率低下を抑えられるようになることと、資金の流出が防止できるメリットがあることから移転を行った。

③運行本数の減便
コロナ禍になる前から、深夜時間帯の運行本数が少なく、公共交通の利便性が高くない地域に住む住民は、車で市街地の駐車場に行き、代行で帰宅するという形になっていた。
そのため、元々不便であったが、更に本数が減少し不便な状況に陥っている。
※お酒を飲んでしまうと運転できないため、お酒を飲んでも車で帰宅できるよう運転手の貸し出しを行うビジネスモデルのこと(免許は普通自動車2種が必要)

④補助金のお願い
ここまで対策を行ったものの、それでも不足する部分については、宮崎交通自体でも無理であることから、県や自治体といった行政に助けてもらおうということで、補助金の交付額を増額するようにお願いすることとなった。

あくまでも個人の見解ですが、コロナ風邪自体は、インフルエンザと比較しても死者は少なく、若年層にとっても有害ではない病気ということが厚生労働省の出しているデータからも確認できます。
毎日人数を速報するほど危険な病気ではないですし、対策も過剰でしかないので、日常に1日でも早く戻すべきですが、戻さない以上、政治の責任になってくると考えております。

2.宮崎県バス対策協議会で明らかになったこと

3月22日に宮崎県庁で宮崎県バス対策協議会が開催された。
そこで明らかになったことが、宮崎交通が運行する地域間幹線27路線のうち24路線を地域のコミュニティバスもしくは、新規事業者に移管しコスト削減を行うということである。
現況のコミュニティバスだけではなく、新たな事業者を育成する方針も示した。

また、西都-佐土原高校線(元々は国鉄妻線・佐土原~杉安間の廃止代替路線)を宮崎交通から、西都市内のコミュニティ路線を運行する三和交通に10月から転換する方針が発表されたが、西都地区の分科会において、運行会社である宮崎交通に根回しをしていなかったようである。

もちろん、宮崎交通は県に対し、怒りを露わにし、宮崎県の方針に沿うものの、仮に移管の方針になれば、自主運行で路線を維持すると発表した。

西都-佐土原高校線の沿線自治体である宮崎市の清山市長と西都市の橋田市長は、事態を注視するとのコメントを残している。
宮崎市は地域間幹線に昨年度約3900万円の補助金を交付し、西都市は597万円交付を行っている。

県内だけでなく、交通に関して関心を持つ人の間でもこの話題が大きくなったことから宮崎県と宮崎交通の意見を併記する記事が3月27日の宮崎日日新聞に掲載された。

宮崎県

「持続可能な交通網模索」
①運行経費で17億円。宮崎交通の収入が11億円。6億円の補助を国としてきた。(これ以上の補助は宮崎県の財政的にも困難であるという意図を感じる)
②宮崎交通は、補助をしなければ、路線の運行をやめるという。路線が無くなるのはまずいので、自治体と協議し、コミュニティバスに転換できないか相談をした結果が、24路線移管である。
③宮崎交通の運行コストは他の事業者と比較して3~5割程度高く、別の事業者に委託すれば必要な税金は減る。
ただし、宮崎交通のコスト削減策について(注1、4月の報告を踏まえて判断する。

注1):3/22の協議の際に必要最低限の費用を宮崎交通からも提示するとの発言があった

宮崎交通

「国庫補助に構造的課題」
①地域間幹線の国庫補助制度は、利用が少ない系統は補助が減額され、どうしても赤字が出る仕組み。コロナ禍前から2億円前後を自社で補填。事業者変更をしても構造上の問題があるため根本的な解決には繋がらない(←高速バスや宮崎市内線の黒字路線の収益からの内部補助)
②宮崎交通が県に要望したのは「路線廃止の補助金」ではなく、「運行継続のための議論」。財政負担を減らすかが議論の中心になっている。宮崎交通が求めているのは、「利用者の利便性向上」、「安全確保」、「持続可能な交通ネットワーク」、「事業者と行政の役割分担がどうあるべきか」などの視点である。
③宮崎交通があたかもコスト削減をやっていないと捉えらているのが残念。
④路線見直しに関する各種会議から締め出されてしまい議論がフェアではないので、フェアに議論ができるようお願いしたい。

4月6日付の記事でも上記の考え方で宮崎県はバス路線の維持を行いたいと考えているように感じられる。

ここまで、長文になりましたので、次回は、地域間幹線の現状はどうなのか。そして、どのような方針を示すべきなのか。
私なりの考え方をまとめたいと考えております。

次回の投稿をお楽しみに!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?