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鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会の報告書の方針を読んで

7月末に新聞で「輸送密度 1000人未満 地方鉄道 再構築議論」という見出しを見かけました。
地元・宮崎の新聞を読むと、地域住民の声で、「日南線が廃止になると子供の送り迎えで往復2時間かかるようになるので、存続に向けて決意を固めた!」という記事を読んで、個人的には、本当に報告書を読んでコメントしているのだろうか?と不思議に思ってしまいました。(当然読んでいないのは分かっていてツッコミを入れています)

1.鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会の報告書を読んで

国鉄民営化により35年経ち、JR発足時の人口増加と安定成長だった時代から、人口減少と低成長の時代へ時代が変化しました。
昭和末期や平成初期はワンマン化や駅の無人化、信号制御の自動化などの省力化といった合理化を進めることで鉄道として維持していくことができていましたが、特に地方でも政令指定都市や県庁所在地周辺以外では、少子高齢化、過疎化と超自動車社会による利用者減少=学生の減少と高齢者の自動車免許保有率の増加、道路整備による所要時間の減少により、鉄道の利用者が大幅に減少しているところ数多くあります。

平成時代は、大都市圏や都市間輸送(新幹線や特急列車)で稼いでいた収益で地方路線の赤字を埋めるという収益モデルでなんとかやっていくことができましたが、令和時代になり発生したコロナ禍で、大都市圏や都市圏輸送で稼いだ収益で赤字を埋める内部補助の仕組みが機能しなくなってしまい、今回のような国の方針が示されることになりました。

国土交通省の下記のサイトに報告書や検討会の議事録、資料が掲載されています。
報告書は70ページで、今までの鉄道政策に関する歴史的な経緯や法整備、事業者の取り組み等が書かれています。
報告書の文章は45ページ程度で、残り25ページは、事例紹介となっていますので、15分程度で読める内容となっています。実際に報告書を読んでみると想像しているよりも暗くて重い話ではないように感じられます。

新聞記事では「輸送密度1000人/日未満」という話が独り歩きしましたが、
選定自体は3次選定までやっており、昭和時代の赤字ローカル線83線の廃止に比べて、かなり地域の実態を考え、公共交通を残すにはどうすればよいのか考えた報告書になっています。

2.選定基準

報告書に書かれていた選定基準は、以下の考え方です。
JRについては、判断基準が1つ多く設定されていますが、第三セクターや民間私鉄路線では、2つ目の基準から判断を行うような形になっています。

1次基準:幹線とローカル線(JRのみ)

2次基準や3次基準の選定の前に、JRは、都市間輸送を担う特急列車や貨物列車が運行されているか、他の幹線が災害で不通になった際に貨物列車の迂回路線になる路線は、下記の条件を満たしていなくても、公共性の観点から維持していく必要があると記されています。

九州では、日豊本線佐伯~延岡間(特急列車・貨物列車の運行あり)や西都城~国分間、宮崎空港線、久大本線日田~湯布院間、豊肥本線肥後大津~三重町(特急列車の運行あり)が上記の条件に該当する路線になります。

※宮崎空港線は加算運賃が設定されており、輸送密度は低いものの令和元年度は黒字路線となっています。

日豊本線で運行される787系電車(右)と817系電車(左)@鹿児島中央駅

2次基準:輸送密度2000人/日・km未満

昭和末期の国鉄赤字ローカル線83線選定基準が元々4000人/日・km未満でしたが、民営化でJRとなり、信号制御の自動化や2両編成以下の列車のワンマン化、駅の無人化が進み営業費用が減少したので、輸送密度が2000人/日・kmの非電化路線であれば、鉄道事業者の努力の範囲で一定水準の運行本数を確保できるようになりました。
しかしながら、2000人/日・kmを下回ると鉄道事業者だけでは日常利用できる運行頻度が確保するのには、困難になることから、都道府県を含む沿線自治体や鉄道事業者で協議会を作る方針が示されています。

九州では、JR後藤寺線、JR唐津線唐津~西唐津間、JR三角線、JR日南線田吉~油津間や熊本電軌鉄道、島原鉄道、一昨年の大雨で橋梁が流出したくま川鉄道が該当します。

3次基準:輸送密度1000人/日・km未満

「利用者の著しい減少等を背景に、利便性及び持続可能性が損なわれている、又は 損なわれるおそれがあり、対策を講じることが必要」とされるラインが上記に書かれている輸送密度1000人/日・km未満となります。
このラインに該当する路線については、国の主導により、特定線区再構築協議会が設置され、3年を目途に「存続 or 他の交通モードへの転換」を決める形になります。

しかしながら、除外規定が明記されており、
「a)利用状況を精査した結果、隣接する駅の間のいずれかの区間において一 方向に係る1時間当たりの最大旅客輸送人員が 500 人(大型バス(50 人乗り)10 台以上の需要に相当)以上の場合を除く。」
「b)複数の自治体や経済圏・生活圏に跨る等の事情から、関係者の合意形成にあたっ て広域的な調整が必要(そうした事情の有無については関係自治体及び鉄道事業者 の意見を聞いて総合的に判断。)と認められること」
という記述があります。
昭和時代は、バス運転手の成り手の問題はありませんでしたが、現在は、運転手不足に面している点や鉄道の収益だけでなく、鉄道が社会に存在する価値についても議論する必要があると事例や理論を紹介しながら資料が作成されており、鉄道路線の出来る限り廃線を避けるような書き方になっています。

九州で該当する路線は、JR肥薩線、JR吉都線、JR日南線油津~志布志間、JR指宿枕崎線山川~枕崎間、JR筑豊本線原田~桂川間(通称:原田線)、JR筑肥線伊万里~唐津、平成筑豊鉄道、松浦鉄道、肥薩おれんじ鉄道、南阿蘇鉄道になります。

3.九州での動き

ここからは、私が住む九州でどのような動きが起きているか紹介したいと思います。

(1)福岡都市圏における動き

福岡都市圏で起きているのが、座席撤去という動きです。
鹿児島本線の主力列車である813系電車(全82編成246両)のうち、51編成・153両の座席を約4割(16席/両)撤去し、2割輸送力を増加させるという工事を行いました。

813系電車(座席撤去車)@博多駅

私も鹿児島本線を通勤で使用していますが、立って通勤することは苦痛にならない距離ということもあり、座席が撤去され、むしろドア回りが広くなって、良くなったと思っています。
しかしながら、私の会社の上司は、座席撤去で座れなくなり、キツイという話をしていました。
北九州市内↔福岡市内や福岡市内↔久留米市以南へ利用する際に座れないというのはキツイというのは、言うまでもなく予想されることではないかと思っています。

また、福岡の地元紙である西日本新聞社でも記事になり、コメントを読んでいるとかなり多くの人がこの取り組みに疑問を持っているように感じました。

どうして、このような状況になったのでしょうか?
国鉄製の車両(415系電車や713系電車)が製造から40年経過し、置き換えが迫られる中、当初は新型車両(821系電車)を投入し置き換える計画でしたが、コロナ禍で行動制限による出張や旅行者の減少、リモートワークによる通勤者の減少で収益が減少し、車両製造費用が捻出できなくなったため、福岡都市圏で一番車両数が多い813系の座席撤去を行うことで輸送力を確保するという方針になり、9/23の西九州新幹線開業のダイヤ改正に合わせダイヤが大幅に見直されることになりました。

415系電車@香椎駅
713系電車(右) 817系電車(左)@宮崎駅
821系電車@博多駅

ダイヤ改正の結果、福岡都市圏において、朝夕のラッシュ時間帯の混雑や積み残しが発生する状況になっており、本来、お客さんが乗って稼げる地域に迷惑をかけてまで、3次基準でも理屈を付けて残すことが難しい路線は存続させるべきなのか?と考えてしまいます。

(2)宮崎における動き

一方で、人口密度が小さく、超自動車社会になってしまっている私の地元宮崎県の動きについて書きます。

宮崎県においては、選定基準に該当する路線が、日豊本線佐伯~延岡間・西都城~国分間、宮崎空港線、日南線田吉~志布志間、吉都線と数多く存在しています。

その中でも3次基準に該当する路線が吉都線と日南線油津~志布志間になります。
※肥薩線については災害による運休となっているため、議論外としたいと思います。

【吉都線】
吉都線は、数年前に線路の路盤が流出し、運休になったことがありました。
その際に、代替バスが運行されたのですが、吉松駅を出る始発のバスが朝3時台になったことがありました。
また、朝の通学時間帯の列車を1両編成で運行することになりましたが、その際も、1両では乗客を運びきることができず、直ぐに2両に増結される事態になりました。
上記の件を踏まえ、輸送密度は400人台ではありますが、鉄道の特性である「速達性」「大量輸送性」を活かすことができる路線という判断から、税金投入による鉄道存続という結論になると考えています。

また、10月より、JR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」の運行路線に指定されたため、JRとしても路線存続を行いたいという意思を感じることができます。

ななつ星in九州@宮崎駅

【日南線 油津~志布志間】
上記区間については、輸送密度が200人/日を下回っており、特にD&S列車「海幸山幸」が運行されない南郷~志布志間については、平成14年(2002年)から平成27年(2015年)までの1日あたりの駅別乗車人員の合計※が、341人(平成14年)から142人(平成27年)まで大幅に減少しています。
さらに7年経ち、少子化・人口減少がさらに進んでいることからもっと厳しい状況にあるのではないかと推測されます。
出典:宮崎県統計年鑑
※谷之口(日南市南郷町)~福島高松(串間市)

また、列車の最高時速も65km/hで、9月に上陸した台風14号で路線に被害を受け、代替バスの運行が設定されましたが、鉄道のダイヤと比較してもほとんど所要時間が変わらないため、鉄道の大量輸送性、速達性を発揮できていない状況にあると考えられます。

そのため、基本計画となっている東九州自動車道を整備路線に引き上げるのと引き換えに南郷~志布志間についてはBRTへの転換が落としどころになるのではないかと考えています。

日南線で運行されるキハ40形気動車@宮崎駅

今回の報告書においてBRT化を行う場合でも鉄道事業者は地域の公共交通を確保するため、関与し続けることが義務付けられており、仮に廃線へ傾いたとしても、日田彦山線のようにJRによるバスの運行が行われることになっています。

4.最後に

昭和末期に赤字83線ということで廃止されたローカル線が数多くありましたが、当時に比べると地域の実情に合った内容となっており、出来る限り鉄道を残す方向性としたいという意思を感じる報告書だと思いました。
一方で、本当に厳しいところは厳しいように感じた次第です。
また、昭和末期廃止されたローカル線についても合理化を進めつつも運行本数の増発等サービスを向上させれば、鉄道の特性を活かし、まちづくりに大きな影響を与えた路線もあったのではないかと思います。
今回の検討会による判断について、30年後に間違っていなかったと言われるような結論が出ることを願います。

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