“すぐに使える”行動経済学の入門書|『行動経済学の使い方』大竹文雄
「行動経済学に関するいい入門書はないだろうか。とくに、学術的な内容に終止するのではなく、またおもしろいだけでなく、十分に実践的なもので」。
もし知人からそのように相談されたら、私は迷わず本書を勧めたい。これほどわかりやすく、明快で、かつ無駄のない入門書は他にない。
そう断言できるほどの良書である。
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行動経済学関連の書籍と言えば、私は、その代表作である『ファスト&スロー』や『予想どおりに不合理』、さらには『影響力の武器』も読んでいる。
いずれもエッジが効いており、楽しみながら読むことができた。だが一方で、問題もあった。それは、「だから、どうすればいいんだ」ということであった。
なるほど人間は、経済学で規定されているように、合理的な存在ではなく、不合理な行動をとるときがある。しかもその不合理性は予想できるようだ。
私は、それらの書籍を読むたびに、「ああ、おもしろかった」と思うとともに、できのいい映画を見終わったあとのように満足して眠りについた。
しかし、あとには何も残らなかった。
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その点、本書は、『実践 行動経済学』に通底するものがある。つまり、実践することに主眼が置かれているのだ。
『実践 行動経済学』の著者であるリチャード・セイラーは、シカゴ大学の経済学者であり、2017年にノーベル経済学賞を受賞している。
セイラーと言えば、映画『マネー・ショート』への出演が記憶にあたらしい。
そこで彼は、バスケットのシュートを例にとり、人は、いま起こっていることが将来も続くと錯覚しがちだと解説した。合成債務担保証券(合成CDO)を説明するシーンで。
事実、堅調だと思われていたアメリカの不動産市場が2008年に崩壊したことは、ご存知のとおりである。
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とくに本書では、序盤で「プロスペクト理論」「現在バイアス」「社会的選好」「ヒューリスティックス」という、行動経済学の基礎である4つの観点を解説している。
そのうえで、金銭的なインセンティブや罰則付きの規制を使わずに人々の行動を変える「ナッジ」について紹介している。実にわかりやすい。
将来に不安を感じている方は第二章の「老後貯蓄の意思決定」を、働き方改革の興味がある方は第六章を、医療や公共政策に興味がある方は第七章や第八章だけでも目を通してみてほしい。
読み終えたあと、「ああ、おもしろかった」という感想だけに留まらず、現実的な“知恵”が残ることだろう。
http://kojigen.com/post-9391-9391.html
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