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第19話 カウントダウンと開店。時々、セクハラ?

 ルナティアの興行の一件以来、時々。ルナティアが店を訪れるようになっていた。それも、興行の営業・休みも関係なく。入りびたるようになっていた……
 オープン前にも関わらず、裏口に回ったルナティアは、リリアに追いかけられては、店にやってくるという状況になっていた。

「ルナ。また来たんですか?」
「えぇっ? またってひどくない? 似たもの同士なんだし……いいでしょ?」
「確かに顔もそっくりですけど……」
「それに……」
「あ。」

 愛称で呼ぶまでに仲良くなったアリスとルナティアは、まるで影武者かのような位置づけになっていた。
 さみしがるアリナの相手をルナティアがしてくれたり、ルナティアの定期公演に一緒に行ったりなど、互いに交流が深まっていた。
 最初に見に行ったときは、混乱はしたものの、メインのルナティアが出てきたことで、事なきを得たが……

「みんなぁ~注目~~」
「会場に~私のそっくりさんがいま~す。」
「その子はね~。王都に店をオープンするみたいよ~」
「私の妹みたいなものだから、よろしくねぇ~~」
『なっ?! ルナティアさん?!』

 まさかの開演前の挨拶での告知なんて騒動もあり、観客がどよめいたが、帰宅時には周囲の目が気になって仕方がなかったアリスだった。
 それからというもの、定期的に店に来るようになったルナティアは、店の正面からではなく、裏から普通に入ってくるようになっていた。
 ルナティアが店に入りびたるようになって、一番変化したのはアリナだった……
 アリスが忙しいときでも、ルナティアという“もうひとりの”アリスを見つけたアリナは、ルナティアになつき始めていた。
 同じ、ラビティア人ということもあり、種族を気にする必要がないことが大きかった。それに、甘えたいときにアリスが忙しい場合、アリナは我慢していたが、ルナティアが入りびたることで、まるでアリスに甘える代わりのような形になっていた。
 ルナティアの膝の上でくつろぐ姿は、それまでアリスにしか見せたことがなかったが、ルナティアにも心を開き始めたアリナは、ルナティアをアリスのように扱っていたのだった……

「最近。仕事終わりに甘えてくることがなくなったのよね……」
「そりゃぁ、日中。こんなにくつろいでたら、それはねぇ。」
「そうなんだけどね。ねぇ、アリナ……」
「ん? アリス。どうしたの?」
「ルナの方がいい?」
「うぐっ。それは……」

 場の悪そうな顔をし、アリスと視線を合わせようとしないアリナ。アリスとしても、ラビティアに来る前からの仲ということもあり、アリナの態度は正直、辛かった。しかし、アリナはというと……

『アリスの困り顔……かわいい……』
『こっちには、ルナだけど、見た目はアリスだしなぁ~』

 やさしく癒してくれるアリスに瓜二つのルナティアと、かまってくれなくて困るアリスに、アリナは幸せの絶頂のような状態になっていた。

「ねぇ、アリナ……」
「大丈夫? アリナちゃん……」

 自分でも顔が熱くなっているのがわかるほどに、真っ赤になって言ったアリナは……

『ここは、天国か何かかな? 幸せ死にする……』

 ルナティアの腕に抱かれ、ふわふわとする日常がいつにもまして増え、幸せなアリナだった。
 そんな三人の元に、ラフィアが三着のお揃いの衣装を持って、裏口から入ってきた。その衣装は、見事なフリルとプリーツの入ったいドレスだった。

「ん~。はぁ。意外と重かった……」
「ラフィア様が、直接運んできたんですか? 誰かおつきの人に運ばせたらよかったのに……」
「そんなの、あたしがデザインした甲斐がないでしょう。」
「ええっ! ラフィア様デザイン何ですか? これ……」
「そうよ。」

 厨房の壁に掛けられた三着の衣装は、どれもデザインが凝っていて、青を基調とした下地に白の縁取り。そして、かわいいレースがあしらわれた上着で、スカートもプリーツがふんだんに取り入れられ、風になびくデザインになっていた。

「こ、これ。誰が着るんですか?」
「誰が着るって、あなたとアリナでしょ、そして……」

ぽん。

「へっ?」

 ルナティアの右肩に手を置いたラフィアは笑顔で……

「あなたも着るのよ? ルナ。」
「えええっ?! そんなに聞いて……」
「大丈夫。これも、歌劇団の広報活動の一環だからって。」
「ええっ!! そんなの、いったい誰が……あっ。」

 ルナティアには思い当たる節があった。
 公演の挨拶での告知と宣伝。公演のサボりにアリスとの入れ替わり。そして、ルナティアは言いそうな人に心当たりがあった……

「まさか、リリア?」
「正解。リリアから了承もらっているから。」
「そんなぁ~。それに、接客業なんて……したことない……」
「大丈夫よ、ルナ。」
「ラフィア様……」

 今度はルナティアの左肩に手を置きながら、ラフィアはこう続ける。

「ここに入りびたれるくらい、優秀なんだから。平気よね? ルナ?」
「は、はい……」

 ルナティアの両肩に置かれたラフィアの手は、まるでルナティアを逃がさないようにするために、置かれているようにすら見えるほどだった。
 それから、見事にラフィアに捕獲されたルナティアは、アリスの手が離せないということもあり、ルナティアだけ試着することになった。
 ゴソゴソと着替えてアリスの元へ戻ってきたルナティアは、その立派な耳まで真っ赤になっていた……

「おぉ~~。やっぱり似合うわねぇ~」
「ら、ラフィア様ぁ……」
「うん。キレイだよ、ルナ。」
「あ、ありがと。アリス……」

 終始無口なアリナを除いて、おおむね反応は良好のようだった。
 ラフィアは、着替えを済ませたルナティアに、その場で回ってみんなに見せてほしいとお願いするが、ルナティアはゆっくりと回ればいいものを……

くるっ。

ふわっ。

『なっ?!』
『ぶっ!!』
「まぁ。大胆。」

 膝上数センチのミニスカートで勢いよく回ったものだから、スカートは重力に逆らいふわりと舞い上がる。結果として、ルナティアの下半身をガードする小さな布地が丸見えになってしまったのだった……

「はぁ、あなた。そばにもう一つなかった? 履くの。」
「ん? あったかな?」
「あったでしょ、アンダースコートみたいなやつ。」
「あぁ、あれ。接客業だといらないかなぁ~って。」
「あなたねぇ……」

 頭を抱えた三人にルナティアは、どうして首をかしげているのか、全くわかっていなかった。
 本来、こういう丈の短いスカートを履く場合。見られてもいいように見せパン的なものを履く。しかし、この時のルナティアはそういうことに対して、全くの素人だった。つまり……

「黒だったね。」
「えぇ。それも、意外と大胆なレース使い……」
「なっ?!」
「ゆっくり回ればいいのに、どうしてあんなに早く回るのよ……」
「あの下着は、さすがのアリスも履かない……」
「アリナ?! 知ってたの?!」
「うん。」

ちん。

 本来履くべきものを履かずに、自慢のショーツを盛大にお披露目して恥ずかしいルナティアと、“大人な女性”でありたかったアリスの、趣味がバレて恥ずかしいという。恥ずかしい二人が出来上がったのだった……

 そんなことが厨房で起こっているそのころ……。店頭に数メートルの行列ができていた。
 ルナティアが公演で宣伝したというのもあったが、開店を待つお客の手にはしっかりと、王都発行のチラシが握られていた。そこには……

「なぁなぁ。どんな子なのかな?」
「何しろ、姫様デザインの衣装だろ? とびっきりの美人だろうよ……」
「なぁなぁ。聞いた?」
「なんだよ、なんでも、この店にルナティア様が入りびたってるって話を聞いたんだけど…」
「はぁ? ちょっと待て。まさかその店員って……」
「…………」
「まさかなぁ~~」

 そんなお客の会話とともに、盛大な見出しが躍っていた……

“店主が大胆衣装でお披露目会”

 そんなチラシが配られているとは、全く知らないアリスはどうしてこんなに行列ができているのが不思議だった。
 厨房での支度を終え、開店の準備を終えたアリスはカーテンの隙間からひょっこりと顔を出し、確認していた……

「うあっ。あんなに並んでる……。何かチラシでも出した? いくらルナの開演前の案内だけで、こんなに……。」
「アリス…・…。あなたも、大概よね。わたしだってこれくらい……」
「あぁ、それ。多分これよ。」
「えっ?」

 そうしてラフィアが取り出したのは、A4用紙に書かれた、王都発行の押印がなされていた。つまり、この書類は王都が直々に発行したものだった。

「ええっ。お披露目会するの?」
「そんなの、当たり前でしょ。盛大にやらないとね……」
「それは、そうだけど……」

 困惑するアリスをよそに、ルナティアは制作発表などで、人前に立つことが慣れていることもあり、説得をはじめたが……

「アリス……」
「ルナ……」
「大丈夫。適当でいいのよ。」
「えぇっ? それあってるの?」

 ルナティアの説得にならない説得が続いている隙を狙ったのか、ラフィアが店頭に顔を出した。
 ラフィアがひょっこりと店頭に姿を現すと、開店待ちをしていた客は、歓声の声を上げた。

「あっ、ラフィア様。」
「いよいよオープンですかぁ?」
「そうね。お待たせしたわね。いよいよ、店主の紹介よ~~」

 開店に並んだお客たちは、ラフィアの声に聴き耳を立て、指をさす先に注目していた。ゆっくりと扉があき、ひょっこりと顔を出したのは……

「あれ? ルナティア様?」
「いや、後ろにもう一人……えっ?!」

 堂々と出てくるルナティアと、恥ずかしがりながらも緊張しながら出てくるアリスという構図が出来上がっていた。

「みんな。カフェ“ラビリナ”へようこそ~~」

 ルナティアがアナウンスすると、お客からは当然のように、こんな質問が返ってきた。

「ルナティア様の店なんですか?」
「その隣の方は? 瓜二つですけど……」

 大勢の人の前に出なれているルナティアとは異なり、アリスはルナティアに間違われステージに上がったとき以外は、そこまで大勢の前に立つことはない。
 そのため、ここまで行列がつながると、緊張してしまうもの。ルナティアに背中を押される形になりながらも、店主としてあいさつを始める。

「カフェ。ラビリナをよろしくお願いします!!」

 一生懸命に精いっぱい挨拶をしたアリスは、緊張しながらも笑顔を振りまいていた。
 そして、ひとりひとり順番に、店内へと案内を始める。そんな案内を待つ客の中では、やっぱりアリスとルナティアの姿に、目を取られる客も当然いる。
 アリスとルナティアの姿は、プリーツを使ったミニスカートに黒のタイツ。背中がパックリと開き肌があらわになったドレス。風にスカートがなびけば、当然。見えてしまいそうになる。
 見えていいものを履いているとはいえ、それはそれ。これはこれである。男性の客は、やっぱり見ようと視線が下がってしまう……

「み、みえっ……」

 当然、そういう輩が現れるのがわかっていたラフィアは、スカートに小細工をしていた。それは、開店の数分前……

「二人とも、スカートのすそにこれつけて。」
「えっ? クリップ?」
「いいからつけてみて。」

 ラフィアに言われるがまま、ルナティアとアリスはスカートのプリーツに隠すようにクリップをつける。

「つけたけど……」
「じゃぁ、アリス。くるっと回って見せて、ルナがやったように……」
「ええっ。いやよ……」
「大丈夫よ。うまく機能してると思うから……」
「う、うん……」

 ラフィアに言われるがまま、アリスはくるっと回って見せると、スカートがふわっと風になびく。ただ、ルナティアの頃には、遠心力が相まって裾が上に上がってしまっていたが、クリップが重力で引っ張られていた。
 すると、重力に縛られずに、ふわっとなびいていた裾が、クリップの重さでギリギリの位置でとどまっていた。

「み、見えてない?」
「大丈夫よ。」
「ふぅ。よかった……」
「うん。アリスは、この色だね。」
「ちょっと、アリナ?!」

 アリスの横に移動し、しゃがんでいたアリナは、スカートをめくりインナーを確かめていた。
 あきれ気味のラフィアと、さすがにアリナでも見られると恥ずかしいアリスの、ほほえましい光景になったのだった。

 ただ、ギリギリで見えないからこそ、男性たちの想像力というのは膨らむもの。まして、ピンで重さが増したことで、ボディーラインがくっきりと出やすくなっていた。
 ルナティアとアリスの細い腰に、小さなおしり。長い手足に黒いタイツは、男性の客引きにはドンピシャだった。
 まして、開店直後ということもあり、店内は大混雑。順番に店内に案内をしていたものの、当然……

ぽにょん。

「あっ。ごめんなさい。」
「い、いえ。大丈夫。」

 狭い店内でのすれ違いで、事故的に体が接触することも多かった。故意ではないにしろ、アリスに触れれた男性はというと……

『や、やわらけぇ~』

 そんなこんなで、精いっぱいの笑顔で振り舞うアリスの姿に、不埒な気持ちで触ろうとする男性ですら……

「ごめんなさいね。順番なので……」
「う、うん……」

 身に着ける衣装は変われど、身軽なアリス。おしりを触られそうになると、当然、変なオーラを感じ取るのか、その身をはらりと身をひるがえし、器用に交わしていた。その姿にルナティアも感心していた。

「あの子。ほんとにすごいわね。」
「そうね。見た目は瓜二つでも、あなたは無防備よね?」
「えっ? あひゃっ!」

 アリスを感心した表情で眺めていたルナティアとラフィアは、挨拶替わりにラフィアがルナティアのおしりをなでるなど、スキンシップをしていた。

「も、もう! ラフィア様ったら……」
「こっちの“アリス”は、触らせてくれるからいいわね……」
「いや、触らせているわけじゃ……あひゃっ。」

 ラフィアはルナティアの小さな尻尾をむにゅっとつかんでみたりなど、どこぞの百合本みたいな状態になっていた。
 せわしなく動くアリスとアリナとは違い、接客・応対が致命的なほどにまずかった二人は、比較的に応対の少ない会計や皿洗いなどをしていた。そんな二人は、アリスの立ち振る舞いに感心しながら眺めていたのだった……

「あのさ、そこの二人。」
「えっ?」
「まだお昼なんですけど?!」

 何の気なしに始めた二人のじゃれ合いに、お客視線が釘付けになってしまうほどに盛り上がってしまっていた。
 開店直後から、いかがわしい店にならずに何とか事なきを得たアリスは、無事に開店初日の営業を終了したのだった……

支援してくれる方募集。非常にうれしいです。