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第十一話 パートナー選び 前編

 その日。彩人は白羽の矢が立っていた。
 というのも、この日。例の式典がある。この式典の結果如何(けっかいかん)では、学園の履修状況関係なく、卒業ができた上、大人として社会生活を送れる。
 獣人たちにとって、大人として生活できるということは、社会そのものから認められたことに他ならない。また、条件がそろった上で、残り履修を修了したい場合は、そのまま学園に残ることも可能。
 そんな獣人たち垂涎のイベント。それが……

‘パートナー選定式’

 である。
 このパートナー選定式は、数日間行われ、第一部と第二部に分かれる。
 第一部では、主に相手との学園内での関係性が重視される。相手とのケンカなどはもちろんのこと、相性が合わないとみなされる行為があった場合は、無条件で不合格となる。
 第二部では、相手との生活を維持できるかの試験となる。LHR因子の相性のほか、おままごとのような家庭生活を送り、人の生活と同じように生活を行いながら、適合率を図る。
 不意な接近や、対面しての食事。食器などの共有など、お年頃の乙女には酷ともいえる内容だが、その状況下でもしっかりと欲求を抑えれるかどうかが試される。

 しかし、この選定式には一つ。抜け穴が存在する。
 それは、担任や講師も、容認した内容で、きっちりしすぎては、生徒の自由性を阻害するという観点からだったが、現在ではそちらが主流になりがちだった。
 その抜け穴というのは……

‘成績がある程度優秀で、その上。一人の人種に対して複数の獣人が集合した場合、無条件で履修内容が反映されるということ’

 つまり、履修成績が良ければ、無条件で第二部へと進むことができるということだった。それは、この日。白羽の矢が立った彩人はまさに、針の躯(はりのむくろ)だった……

「どうしてお前の前には、そんなに集まるんだよっ!!」
「俺が知るかっ!」

 第一次の選定式は、体育館で行われる。
 目的の相手の元へ、獣人たちが一列を成して並ぶ。生徒数の多いこの学園のため、第一次の最初の段階は、体育館へと集合することになる。
 一人も並ばない子もいれば、彩人のように多くの獣人が群がる子も当然いる。本能的にその人を求める獣人たちは、一応に正直である。


「選定式では、貴方の前に並んであげる。」
「ほんと? やったぁ!!」

 と前もって言っていたとしても、本能優先で動く乙女たちは……

「どうしてそっちなんだよっ!」
「えー。なんとなく? ごめん。」

 なんということもざらにある。
 体の欲求に対して正直なお年頃の獣人たちは、口とは裏腹な行動をよくとる。そんな犠牲者となる人が、毎年ちらほらと現れる。
 そんな生徒は、早々にこの選定式から退場とはならないものの、控え扱いとなる。要するに、体育館の隅っこに体育座りをして、見学という状態になる。


 そんなさなか、彩人の前には、獣人のほとんどが並んでいるのではないかと思えるほどの人数が並んでいた。
 しかし、第一次の段階ではこの人数だが、ここから選定が行われる。履修成績が良ければ、無条件で残れるが、そうでないものは、選定しなおしとなる。
 そんな生徒は、現状残っている生徒のところへと行くか、見学から選定することもできる。つまり……

「やっぱ、あんたにするわ。」
「ほんと?」
「えぇ。言ったでしょ? あなたにするって……」

 などと、一度。見学になってから復活する生徒もいる。
 そんな中。あれほど彩人の前に並んでいた生徒たちは、程よくばらけ十人程度が残る。そのメンツで行われるのが、会場をプールサイドへと移して行われる水着対戦。
 ゴールで待つ彩人にいち早く到着した生徒順に第二次に確定するものである。水泳のコースに括りつけられた彩人は、完全に身動きが取れない状態になる。つまり……

「餌じゃねぇかっ!!」

 くくられた彩人の反対側には、彩人との第一次選考に残った十人が構え、号令とともにスタートする。当然獣人の本気。そのため……

「私が先だぁ!!」
「私こそ、先だぁ!!」

 先を競争しあう獣人たちは実に壮絶。何せ、飛び級で卒業できるうえ、生活も安泰。その上小作りパートナーまでゲットできるのだから、喉から手が出るほど欲しい席である。そのため、死に物狂いの戦闘になる。
 そんな中……

「はい、一番乗り。」
「あっ。彩芽……」
「ん。争うのは、二の次よ。バカね。」
「彩芽……」

 彩人は、時々。この子は獣人なのかどうか心配になるときもあるほどに、冷静で沈着。猫耳はついた獣人だが、普通の猫系というより、オオカミの部類に近いんじゃないかと思ってしまう。

「げっ。二位なの?」
「えっ。千棘ちゃんも残ってたの?」
「そ、そうよ。ここしかないし……」

 数日前、あれほど嫌っていたにもかかわらず、ぶすっとした表情をしつつ、なんだかんだで彩人を選んでいた千棘だった。

 先着順となるこのレースは、担当教員が埒が明かないと判断した場合、自動で終了する場合がある。そんな枠は、意外と早く埋まったりする。
 その一方、いまだに先を争いながら争奪戦を繰り広げる生徒もいれば、その争奪戦の脇を、かかわらないように絡まれないように逃げてくる生徒もいる。

「ふぃ~何とか逃げ切ったぁ……」
「えっ?! 運営側じゃないの? 綾乃さん。」
「あ、あたしだって、卒業したいのよ。」

 まさかの風紀委員長まで参加。それも彩人へと並んでいた。風紀委員として参加していた彩人。そのよしみで参加したとしても、参加する理由としては弱い。そう考えると、彩人はどうしてもあの事が引っかかる。
 それは、女子たちの発情期を終了させるための、医療行為をやったとき、その練習台になったのが、綾乃だった。

「あぁ。あれで……」
「お、思い出さなくていいからっ!!」

ぶすっ♡

「んおっ!! めがぁ!!」

 綾乃の照れ隠しの目への制裁が入った彩人だった。そして、彩人を担当する教師が、終了のカウントを始める。それは、30カウントでそれまでにゴールできなければ必然的に脱落になる。
 現状。彩人へと向かってきているのは、玲奈と穂乃花だったが、それ以外はもう、精も根も尽きた生徒が、救護班に回収されていた。あとは、玲奈と穂乃花が時間までにたどり着けるかという話だった。
 玲奈はお嬢様だが引きこもり、そのため運動が壊滅的。一方の穂乃花も同じようにギリギリだった……

「はぁはぁ。」
「ぜぇぜぇ。」

 二人とも、息を切らせ水泳とは名ばかりの、水中歩行を繰り広げていた。

「10.9.8・・・」

 10カウントを切り、彩人との距離は数メートルまで近づいた玲奈と穂乃花。息を上げた状態で、何とかたどり着きそうだった。

「5.4.3.2.1・・・そこまで!! 以上で彩人の第一次選考式を終了する!!」

 息の上げた二人は、ギリギリその手が彩人へと届き。無事通過することができていた。

「はぁはぁ。運動しとくんだった……」
「私も……」

 肩で息をしながら、玲奈と穂乃花は空を見ながら、バテていた。その玲奈の様子に、綾乃はちょっかいを出す。

「玲奈。貴女は連れ込むのは得意なのに、持久は苦手なのね。」
「ちょっ、それ言う? もう。」


 そして、彩人のパートナー候補として、選考に残ったのは、彩芽・千棘・綾乃。そして、ギリギリの玲奈と穂乃花の五人になった。
 そして、ワクワクドキドキのパートナー選び第二部へとつながっていく……

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