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第十話 想いと思い。時々、恋心

 その日。千棘は悶々と頭を抱えていた。

『んんんん!!!! 何なの?! 彩人ぉぉ!!』

 自室のベッドで、布団を頭からすっぽりとかぶった千棘は、発情終了剤を注入されてもなお、彩人のことが離れなかった。
 発情終了の治療から、数日たっても千棘の脳裏からはそのことが時々思い出してしまう……
 まして、転入当初には、案内をされた中、階段の踊り場でキスをして。その上、終了剤を大事な部分に注入されるという初めての経験をしていた。
 そのため、千棘の中では、彩人の存在が次第に大きくなって行っていた。それは、彼氏や彼女といったそういうたぐいではなく、その前段階だった千棘。

『も、もう! 昨日の時のように思い出しちゃう……』

 千棘は布団中で身を丸め、もぞもぞと足をくねらせる。
 自分の両手を、足の間に挟み、もぞもぞと動かす。その間も彩人のことを考え続け、ビクッ!と体を震わせる。
 この現象は、千棘だけではなく、ほかの子たちもあったようで、しばらくは瑠香のもとに、効き目が弱いのではないかという問い合わせが来るほどだった。

 そんな中、千棘は何とか自制心を保っていたようで、気晴らしに学園都市内にある、モールへと足を延ばし、気晴らしをすることにする。幸いにも、千棘がモールに言った日は、学園は休み。
 そのため、多くの生徒がモールへと買い物へと来ていた。その中に……

「げっ。」
「あっ。」

 それは、モールの中の一角にあるジュエリーショップ。モール内にはいくつかあるジュエリーショップのひとつで……

「ど、ども~」
「は、はい。」

 千棘と彩人は遭遇した。

『な、なんでいんの?』
『うそっ、千棘ちゃん!?』

 本来。男子にとってジュエリーショップは、縁遠いもの。そんな場所に彩人がいるということは、何かしらの理由が存在した。
 怪訝な表情をする千棘に、彩人はどうしてここにいるのかの、説明を始めるが……

「えっと、これには訳があって……」
「えっ……訳?」

 むしろ、不審者の言い訳みたいになってしまう彩人だった。

 それから、彩人と千棘は買い物を終え、帰る方向もほぼ同じ方向のため、一緒に帰宅する流れに……
 モールから一緒に寮へと向かう道中、彩人はどうしてジュエリーショップにいたのかの説明を始めていた……

「えっと、あの場にいたのは、彩芽のためで……」
「なんで、彩芽ちゃんがでてくるのよ。どんな仲なのよ?」
「彩芽とは、幼馴染でさ、よく誕生日とか送りあいするんだけど、今回はアクセが欲しいとか言い出して……」
「へ、へぇ。そうなんだ。」

 彩人の説明を聞きながらも、千棘は彩人と彩芽のことが気になって仕方なくなった。もともと幼馴染ということは聞いていたが、そこまで親しい感じには見えなかった。現に、彩芽は彩人の前ではぶすっとしていることが多かった。
 それでいて、何かというと、彩芽は彩人を頼りよく呼び出していた。そのため、頼りにはしていることは千棘にもわかっていた。

『ん? ちょっと待って。誕生日って言ってなかった? しかも、送りあいって……』
『彩人くんと、彩芽ちゃんってそんな仲なの?』

 千棘の背中に向けて言い訳をし続けていた彩人に、ボソッと千棘が質問する。

「ね、ねぇ。誕生日に送りあうって……」
「あぁ。いつ始めたか忘れたんだけど、いつの間にか、互いの誕生日には送りあうことになってて。」
「それで、毎年……」
「そうだね。それが普通になってる。」

 千棘の中で、どんどん彩人と彩芽の関係が気になり始める。関係はどこまでなのか、実際に付き合っているのかということまで、気になってしまう千棘。

『これじゃぁ、まるで。私が彩人くんを好きみたいじゃない!!』
『これは、違うの、よからぬ関係になっていないか……そう。確認するためよ。』

 それは、自分に対するごまかし。しかしそのうち、言い訳へと変わっていく……

「彩人くんさぁ。私のことどう思ってるの?」
「えっ?! ど、どうって……」
「あ、あのさぁ。じ、事故とはいえ、その…き、キスしちゃったし。それにあんな恥ずかしいことまで……」

 お嬢様育ちの千棘。それまでは、お抱えのメイドから鎮静剤を打たれることは多かった。それでも、同性だから納得できていた。
 しかし、この前行われたのは、異性。しかも、事故とはいえキスをしてしまった相手なのだから、当然意識してしまう。
 ただ。当の本人は……

「ん? あの処置のことだよね?」
「しょ、処置?! ま、まぁ。そうなんだけど……」
「妙に、怒ってた気がしたけど……処置だし……」

 確かにその通り、発情終了のための処置ではある。ただ、乙女としての千棘は、その返答に腹が立ってしまう……

「はぁ? なんで……そんな。わりきれてるのよ。こっちは、恥ずかしかったんだからね。」

 だた、少しだけ二人の間に祖語が生まれる。
 それは、彩人がどこに注入しているかを知ったのは、千棘への注入を終えた後。そのため、とりあえず平謝りすることになった。

「ごめんて。俺もあそこに……」
「なに、言いよどんで……あっ!」

 謝ろうと彩人は、あの時のことを思い出したのがまずかった。
 目の前の容姿端麗の帰国子女に注入したことが、彩人の脳裏をよぎる。そのため……

「なっ、なに鼻血だしてんの!?」
「あっ、これは……」
「わ、忘れなさい! その記憶!!」

 彩人からすれば、脳裏をよぎったのは間違いない。目の前の美少女の恥ずかしいところを実際に見たわけではないが、容易に想像できてしまう。

「ごめんて……」
「本当に忘れなさい!!」

 なんだかんだで、はたから見ればカップルのような感じになってしまっていた彩人と千棘。それに何よりも、千棘はこの数日間。悩みぬいた挙句の気晴らし、そして彩人と一緒に帰宅という状況に、久しぶりに笑顔になっていた。

 雨降って地固まるといった具合に、千棘と彩人は結果的に元通りの状態に戻ったのだった。

「そ、それじゃぁ、学校でね。」
「うん。じゃあね。千棘ちゃん。」
「うん。あっ、いい? あの事は、忘れなさいね! いい?」
「わ、わかったから……」

 彩人と別れた千棘の中で、ちょっぴり彩人の存在が大きくなったのだった。

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