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第6話 二人の王女と王都

「王女だったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 アリスの絶叫は、山々に挟まれた峠道に響き渡った……

「ご、ごめんなさい。王女だと思ってなくて……」
「い、いいよ。もう……」

 ラティアの後ろに隠れ、ひょっこりと顔を出すラフィアは、明らかにアリスのことを警戒していた。

「待ったく、あんたはほんとモフモフに目がないなぁ……」
「アリナぁ~癒して~」
「だから、抱き着くなと……」
「えぇ~」

 ラティアに続き第三王女のラフィアまでもふってしまったアリスは、ちょっぴり傷心になり、アリナにいやしてもらおうと思っていたが突っぱねられていた……

「えっ? アリナ? アリナって言った?」
「ん? ええ。この子。アリナよ」

 ラティアの後ろに隠れていたラフィアは、その名前を聞くと驚いた様子でアリス達の前に歩み出てきた……

「ほんとに、アリナなの?」
「だから、ほんとだって……」

 それまで、信じられない様子で歩いてきたラフィアは、アリナを確認するとみるみるうちに涙をためていった。

「もしかしてとは思ったけど、やっぱりそうなのね」
「姉さん、アリナがここにいる」
「そうね。あなたは、アリナと幼馴染で大の仲良しだったからね……」
「ゲート閉鎖からどうしてたの? 心配したんだから!」

 二人の感動的な再会を見ていたアリスは、一つの疑問に打ち当たる。

「あれ? 確か、ゲート閉じたのって、結構前だったような気が……」
「えぇ。我々ラビティア人は、ほかのウサギとは異なり、長寿なのです」
「えっ。」
「私も、こう見えてアリス様と同年代くらいかと……」
「えぇっ!」

 背が小さく、幼い印象を受けるラティアだったが、その実。アリスと同じ20代前後ということになる。
 年齢を知ったからと言って、どうこうというわけではなかったが、幼い見た目で同年代となると、何か負けた気がしてしまうアリスだった……

 アリス達を襲った盗賊はというと、後ろ手に縛られて気絶していた。しばらくすると、甲冑を着た兵士が王都の方向からやってきた。

「ラフィア様。参上しました。こいつらが……」
「そう、連れて行っちゃって。」
「はっ! おい、お前たち、積み込め!」
「それで、そちらにいる方は、ラティア様と……」
「あぁ、この方は、アリス様」
「アリス様と。まさか!」
「えぇ。そのまさかよ。クラリティア人」

 よほどその兵士が驚いたのか、信じられない様子でアリスをしげしげと確認していた。

「ふむ。確かにラビティア人とは異なった耳。そして、われわれよりも長身とは、どうやら本物のようですね。」
「ほ、本物ですよ。もう……」
「これは、失礼。王都にもクラリティア人と偽ってくるものもいるので、確認事項だと思ってください」
「は、はぁ。」

 そんな、兵士の人の説明を聞いていると、もう一台馬車がやってきて、兵士が案内を始める。

「陛下、王都まで歩くつもりですか?」
「そのつもりだけど……」
「王都まで何キロあると思ってるんですか。10キロ以上あるんですぞ。」
「そんなの平気じゃない」
「それは、王女なら平気でしょう。クラリティア人は、そんなに多くは歩けないと聞きます。そうでしょ?」
「うんうん。」

 アリナの家から、ここまですでに10キロ以上歩いているのに、さらに10キロ以上歩くのは酷というもの。

「しかたないわねぇ~。アリス様、ここからは馬車で行きましょう」
『よかったぁ~』

 西洋式の用意された馬車は、国賓用の馬車で、アリスは乗ってもいいのかどうか戸惑ってしまうほどの豪華なデザインだった……

「アリス様? どうかしました?」
「いや、乗っていいのかな? って……」
「歩きます?」
「いや、乗ります……」
『ラティア。時々、いじわる……』

 馬車の中には、ラフィアとラティア。アリナとアリスが向かい合って座ることになった。
 アリスは兵士の人が言っていたことが、気になっていた……

「そうそう、さっきの兵士さんが言ってたけど、ラビティア人の中にクラリティア人の真似する人いるの?」
「えぇ。我々ラビティア人の中には、私のように耳が長い者ばかりいるわけではないのです」
「ネザーラビティア族です」

 150㎝くらいの身長と、長髪という点ではほかのラビティア人と共通点が多いが、ネザーラビティア族に関しては、耳が隠れてしまうほどに小さい。
 山賊や盗賊にそそのかされたネザーラビティア人もいるらしく、よくクラリティア人として、悪事を働き王都を悩ませていた。

「そんなに、私みたいな感じなんですか?」
「えぇ。耳も隠れるほどしかないので、髪で隠してしまえば見分けるのは、困難に近いです」
「唯一の特徴として、私たちは、鼻を動かしてしまうのです」
「ここまで見てきましたが、アリス様は鼻を無意識に動かすことはしないし、できません」
「なるほど」
「これは、無意識であればあるほど、出てしまう本能的なものです」
「ふふっ。ほんとだ……」
「えっ?」
「いや、まじめな話してても、ひょっこり動くから、どうしても……ふふふっ」
「もう! アリス様!」
「ごめんごめん」

 王都への移動の馬車の中、和気あいあいと過ごす中、立派な城門へとたどり着いた。

「ここが、王都ですか。ひぇ~デカい」

 高くそびえたつ塀は、王都の砦のかなめであり、シンボルでもあった。そして、両側には兵士が待ち構えていた。そして、重厚な扉が開き、城内へと入っていく。
 そこには、小物や食肉などを調理した出店などが肩を並べていった。

「うわ~すごい……」

 出店に並ぶ人は、笑顔で、活気にあふれていた。ラフィアのような、人種から髪の色が違ったり、耳の長さが違ったりと多種多様な種族が入り混じっていた。
 しばらくすると、アリス達の乗った馬車は、王城へとたどり着いた。

「ラティア様。おかえりなさいませ」
「ただいま。」
「うわ~執事だ。メイドもいる……」

 アリスが連れてこられたのは、いかにも王宮といったところで、立派な洋館だった。ラティアを出迎えた執事やメイドは、総勢20名を軽く超えるくらいの人数が出迎えていた……
 そして、中央で出迎えたのは、ラティアの両親。つまり……

『もしかして……』
「アリス様。こちらが……」
「父で国王のラビティウス。で、こっちが……」
「第一王女のラビティナです。アリス様。歓迎します。」

 国王と第一王女の登場に驚いていると、第一王女がアリスを呼んだ理由を語った。

「アリス様を呼んだ理由。それは……」
「それは……」
「王都でクラリティアと同じカフェをしてください」
「えぇっ?!」

 王女から依頼されたのは、カフェを経営することだった?!

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