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第9話 恋愛の形と、愛の結晶

 いつきといつのの交際は、秘密にはなっていたものの、ちらほらと噂が立つようになっていた。火のないところに煙は立たずといった具合に、じわじわといつのがいつきに熱い視線を送っていると、うわさが流れ始める。
 そこまで大っぴらに付き合っているというわけではなかったいつのだったが、いつのの心に芽生えた恋心は、自然と体を突き動かしていた。自然といつのの視線はいつきを追い、すき間を見つけては、キスをする間柄になっていた。

「んちゅ。んあぁ。」
「ちょっ、いつのさん……。ここ、がっこ……」
「いいでしょ? ちょっとだけ……」

 学校の中では凛とした姿で通っているいつのだったが、いつきと二人っきりになると、本能が抑えきれなくなり始めていた。オスを求めるメス狐のように、追いかけてしまうようになっていた。

「今は、誰も来ないから……」
「いつのさん……」

 それでいて、体の関係はまだだった二人。いつのの信念として、キスまではお遊びで、それ以降は、卒業してからと思っていた。
 それまでは、互いの唇を求めあうことで、ごまかしていた。
 そして、卒業式を終え、いつのは今まで抑えてきたことで、そのすべてが一気に解放されてしまった。卒業直後にいつきを連れ去り、妖狐しか入れない自室へと連れ込む。

「ここは、あたしと数人しか入れないわ。」
「つまり、いつのさんの部屋?」
「えぇ。そうね。そんなところ。」
「へぇ~。見晴らしがいいんだね。」

 いつのがいつも月を眺める窓から、思い人のいつきが同じ景色を眺めていることで、感慨深くなっていたいつの。そして、学校では絶対に出すことのない、甘えた声を漏らすいつの。

「い、いつきぃ~」
「えっ? いつのさん?!」

 いつきが振り返ると、そこには、綺麗な耳と尻尾を風になびかせた妖狐の姿があった。ふわふわとした毛並みが、身分の高さと神々しさを醸し出していた。

「いつのさん。妖狐だったんですね。」
「えっ? あ、信じてなかったの? もう。妖狐って名乗ったはずだけどなぁ~」
「いや、信じてましたが、こうハッキリ見たのは初めてだし……」
「そうよね。これが、私の本来の姿よ。」

 いつきの隣に腰を下ろすいつのは、うっとりとした表情で、いつきに告げる。いつきには、いつのの女の子らしい匂いがいつきの鼻をくすぐっていた。そして、いつきはごく自然に、いつのの肩を抱こうとしたが……

「んっ!!」
「あっ! ごめん。手が滑って……」
「ううん。いいのよ。」
「それにしても、ふかふか……」
「んんん!!!!」

 肩を抱こうとしたいつきの手は、そのままいつののふさふさの尻尾を捕えていた。狐に限らず、尻尾のあるものは尻尾が弱点でもある。それが、意中の相手から触られようものなら、発情期でなくても発情してしまいそうになる。
 そんなことを知ってはいたものの、あまりの手触りの良さに、さわる手が止められずにいた。やさしく尻尾をなぞる
 そのたびに、いつのはブルブルと震えてしまう……

『い、いつき……くん。ダメだって……』
『ま、まだ。夕方……』

 尻尾をやさしくなでられるたびに、いつのの体は喜んでしまい、その快楽がいつのの体を震わせていた。
 必死に快楽を我慢していたいつのだったが、いつきの何の気なしにしたことが、限界だった……

「あ、しっかりと芯があるんだ……」

 根本からゆっくりと尻尾の先まで優しくなでたいつきは、尻尾の先で先端をつまむ。その何の気なしの好意が、いつのの最後の扉を開けてしまうキッカケになっていった。

『んんんっ!!!!』
「はぁ、はぁ、はぁ。」
「えっ?! あ、ごめん。いつのさん……」
「う、うん。だ、大丈夫……」
「ふさふさした尻尾の感触がよくて……」
「い、いつきくん……」

 体中がいつきを求めてしまっているいつのは、もう禁忌の扉の先の誘惑にとらわれてしまっていた。オスを求めるいつのの体は正直で、やさしく触れられるだけで、いつきの体を求めてしまっていた。
 そして、いつのは決心する。

『お、お母様が、人との子を成した理由がわかりました。』
『人との好意が、これほどに私の心と体を焦がすのですね。』

 改めて深呼吸をすると、いつのは……

「高校も卒業したし、そ。その、しよ。」
「い、いつのさん。それって……」
「私……、限界!! んっ!!」
「いつのさ……んっ!!」

 いつにもまして濃厚なキス。それは、互いの体温を一気に上げる。それは男女のまぐあい。メスがオスを求め、子を成すための生殖行為。限界まで我慢してしまったいつのは、もういつきというオスを求めるメスになっていた。

 それからは、時間を忘れていつのはいつきを求めた。お互いが若いということもあり、長く続くまぐあいは、飽きることもなく永遠に続くかのように思うほどだった。
 互いに疲れ、起きてはまた続きをするという、その濃厚すぎるまぐあいは翌朝まで続いた。

 翌朝……

「お、おはよう。いつき。」
「いつのさん……ん。」
「もう、昨晩は、あんなに激しかったのに、まだ“さん”付けなの?」
「あ、うん。わかった。おはよう。いつの。」
「うん。それでよし。」

 一緒のベッドで、並んで眠っていたいつのといつきは、とても幸せな気持ちに包まれていた。そして、いつのはそれ以上に、幸せな感覚を味わっていた。
 そして、いつのは妖力を保ったまま、朝を迎えていることに、少し驚いていた。

「朝までこの姿でいたのは、いつぶりかなぁ~」
「えっ? そうなんですか?」
「えぇ。普段は、今の時間帯は人の姿になってるからね。」

 いつきの横で座っているいつのからは、しっかりと妖狐としての耳と尻尾が見えていた。朝日に輝くいつののキレイな尻尾を、いつきはごく自然に、あいさつ代わりに撫でると……

「んあっ!!」
「あっ、ごめん。」
「も、もう。わざとやってる?」

 一夜を終えた二人の間には、もう。大切な絆が結ばれていた。

 それから、いつきは家に戻り、バイトに明け暮れる毎日になっていった。定期的にいつのとは会っていたが、バイトが重なるとどうしても会えない時期が続いてしまっていた。

「いつの。どうしてるかなぁ~」

 バイトの途中、青空を眺めながら、いつきはあの時のことを思い出していた。一方のいつのにもうれしい症状が現れ始める……

「うっぷ!!」
「いつの様?」
「ごめん、ちょっと……」

 いつきとの行為から数か月がたち、会いたい気持ちを抑えながらも、群れの長として活動していたが、突如。吐き気に襲われる……
 しかし、食べ合わせが悪いものを食べた記憶もないにもかかわらず、妖力がじわりじわり下がってきていることに、いつの自身も気が付き始めていた。洗面器の前で嗚咽<おえつ>をするいつのに、あとから駆け付けたやよいがあることを告げた。

「いつの……」
「あっ、やよい。最近、おかしいのよ。食べ合わせが悪いわけじゃないのに……」
「あなた。した?」
「『した』って何をよ?」
「いつきさんと……」
「なっ?! そ、それは……」
「したの? したのね。」

 やよいの追求に真っ赤になりながらも、正直に打ち明けたいつのは、自分に起きていた異常があのことをキッカケとしていたことにようやく気が付いた。

「あなた。妊娠してるわよ。」
「えっ?! うそっ。」
「それ、ツワリだもの」
「い、いや。だって、あの時だけ……」
「かなり盛り上がってたもんね。あの時……」
「えっ?! やよい。知って……」
「知らないはずないでしょう。もう。」

 それからいつのは、やよいから預かった検査薬を試すと、しっかりと妊娠の印が出ていた。

『う、うそっ。デキちゃったの。私……』

 下腹を撫でながら、いつのは驚きとともに、うっとりとした表情になったのだった。

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