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第21話 お見合いと整理

 その日。いつにも増して緊張しているあやのの姿があった。
 数日間の連休を活かし、あさひとのデートをすることになっていたあやのは、あれやこれやと、頭の中で考えを巡らせていた。
 前日も、翌日に来ていく服を選ぶだけで、数時間が経過してしまっていたり、丁寧にムダ毛処理などをして、いつにもまして丁寧に手入れをしていたあやの。
『いざ言ったものの……』
『恥ずかしい……』
 いずみの見合いの相手が、あさひであることを知ったあやのは、半ば勢いでデートをすると言い放ってしまっていた。
 あやのの中では、いずみと一緒になってもらうことが、一番の幸せと思っていたものの、あやのの心は、それを許してくれなかった。自分のものにしたいという感情が勝ってしまっていた。
 そんなことがあったことで、みやびを巻き込み1日のデートをすることになった。そして、そのデートの日がやってきた。
「こんな格好でいいかな。」
 前日から選んだ服だったが、出発前にもまた悩んでしまったこともあり、普段は全く着ることのない、フリルがふんだんに使われた服を着ていた。
 風紀委員もしていることから、スカート丈は人一倍気にするあやの。そんなあやのが、一度も来たことのないミニスカートを履き、レース使いタイツを履いていることから、いつにもまして、落ち着かなかった。
『う~。落ち着かない……』
 普段なら、生徒代表としてや見本となるべく、制服もぴっしりと着ることが多く、いずみほどではないものの、おしゃれとは少しだけかけ離れた環境にあやのもいた。そんなこともあり、いざデートをすることとなったことで、どうオシャレをしていいのかわからず、いずみやみやびに聞くわけにもいかず、その結果として、かわいい物好きの趣味が丸出しの、ふりふりの付いたかわいい衣装で全身を包んでいた。
 それは、あさひも同じだった。いざ、デートをすることになったあさひも、何を着ていいのかわからず、ボーイッシュな服を選んでみたり、女の子としての生活で着慣れた服を着るのか、迷った挙句に選んだのは……
「お、お待たせしました……」
「あ、あさ、ひ。ちゃん?」
「はい。そうで…す。」
「どうして、そんな格好……」
「そう、思いますよね?」
 あさひのデートで着てきた格好は、やはり。女の子の格好だった。
 出かける先に、どれを着ていくか迷ってた挙句、普段から着慣れている女の子の私服だった。着慣れているというのが一番だったが、男の子の私服も当然あった。あったのは間違いなかったが、デートということもあり、男の子の私服がしっくりこなかったあさひは、女の子の格好でデートへと来ることになった。
 そして、あさひとあやのが隣同士に並ぶと、身長差などからあさひがあやのの妹のような見た目になってしまっていた。
「何というか、あさひちゃんらしい……」
「だって、これしか思いつかなかったんですよ……」
「これじゃ、『女の子同士』のデートね。」
 待ち合わせをした場所のそばの、ビルのガラスに映るふたりは、確かにかわいらしい女の子がふたり並んでいた。
 そんな姿を見ているあやのは、物思いにふけっていた。目の前にいるかわいい女の子は、実は男の子だということも、それと同時に抱きしめて放したくないと思うほどに、心が締め付けられていたあやの。
『今日、一日は私だけのあさひちゃん……』
 そう考える始めたあやのは、一気に恥ずかしくなり始める。それまで、あさひは普通に白百合荘で初めて出会ってから、純粋に『かわいい』というだけで、興味をそそられたあやの。
 そして、生活していくうちに次第に惹かれていったあやのは、いつしかあさひのベッドへと忍び込むまでになってしまっていた。あさひの部屋は、もともとあやのの部屋だったこともあり、潜入に関しては自室に戻るような感覚だった。
 そして、あやのにとっては、もっと特別なことがあった。それは、あさひの使っているベッドだった。シーツやマットの寝具系は、移動したがベッドに関しては、あさひがそのまま使う形になっていた。
 異性であっても、あさひのようなかわいい子が使っていると、想像しただけでも胸が締め付けられていた。
 そんなことをあやのが思っていると、気まずい空気に耐え切れなくなったあさひが、堰を切ったように話し始めた。
「あの、どこかに移動しません?」
「えっ?」
「さすがに、このままここにいるのも……」
 あさひとあやのが待ち合わせたのは、たまたま服のブティックの近くということもあり、通行人が結構多い通りでもあった。そんなブティックの前に、身だしなみがしっかりした美少女『ふたり』が並んでいるのだから、必然的に人だかりができ始める。
 その状況にいたたまれなくなったあさひは、あやのの後ろに条件反射で隠れる。そんな状況に、好きという感情というより、保護欲をそそられたあやのだった。そして、あやのは、大事なことを忘れていた。
「どこへ行こうか?」
「えっ!考えてないんですか?」
 行き先をどちらも決めていなかったこともあり、どこへ行くのかと迷っている間も、ふたりの周りには、ふたりのかわいさに人だかりができ始めていた。
 その光景にいたたまれなくなったあさひは、半ば強引にあやのの手を掴み、その場をダッシュで抜け出す。
「あやのさん。こっち!」
「えっ!ちょっと。」
 それまで、自分が他の生徒たちを先導することはあっても、自分が先導されることがなかったあやのは、あさひに手を握られて初めて引っ張られるのが、このデートで何よりもうれしかった。
 そして、あさひにてをひかれたあやのは、一緒に一心不乱に走った。曲がり角を一つ。そして、また一つと。これほど多くの曲がり角があったのかと思ったほどに、曲がった。そして、息が切れた二人がたどり着いたのは学生が行くにはハードルが高すぎる繁華街だった。
「あれ、ここ。」
「あ、あの。これは。」
 ふたりの周囲には、学生が行くというより似つかわしくない、ピンク色に彩られた 看板類が通り沿いに、昼さなかでありながら、日光に照らされて煌々とライトアップされたようになっていた。
「あさひちゃんも、男の子なのね。」
「や、いや。そういうことではなく……」
「えぇっ。じゃぁ、どういうことなの?」
 いくら女の子の格好をしていても、思春期の男の子のあさひ。「そういう」エッチな店にも興味があるお年頃。たまたま、あさひが人目を避けてあやのを引っ張っていった先が、まさに「そういう」エッチなお店のある通りだった。
 珍しく、男っぽいところを見たあやのは、かわいらしいと思うのと同時に、かわいさに秘められたオスの感じに、ドキドキしていた。
『あさひちゃんも、男の子なのよね。こんな店に興味があっても、不思議じゃないよね』
『でもぉ。風紀委員長として、こんなところに入り浸る生徒を見逃すというのも……』
『あっ。でも、あさひちゃんも、男の子だし……』
 あれやこれやと、風紀委員長としての考えやひとりの乙女としての考えが入り乱れていると、通り沿いにある店のひとつの店先から、ひょっこりと顔を出したあさひが、手招きをする。
「あやのさん。こっちです」
「えっ!まだ心の準備が……」
「いいから、こっち」
「あぁん。大胆」
 頭の中でいろいろと想像が広がり、お花畑になっていたあやのは、あさひから強引に引っ張られた先で、大人の階段を上ってしまうことを暗に想像してしまっていた。それでも、初めてということもあり、目を開く勇気がなかなかなかったあやのは、目を開けるのをためらっていると……
「あやのさん。目を開けてください」
「えっ。い、いいの?」
 ゆっくりと開けたあやのの目には、ショーケースに色とりどりのアクセサリーが陳列され、ヘアピンからネックレス。イヤリングなどオシャレな小物が色とりどり並べられていた。
 それは、宝石の中に紛れ込んだようで、それまで、風紀委員長として、おしゃれに対して、しつこいくらいに規制する側だったあやの。そんなあやのですら、目を輝かせてしまう。
 こうしてオシャレにハマっていくということを、身をもって体験しているあやの。オシャレから縁遠いこともあって、オシャレの「お」の字も知らないあやのは、どれをつけていいのか迷ってしまう。
「これ、かわいい。あっ!これも。こんなにあると、迷っちゃう……」
 そんなあやのの様子を見たあさひは、あやのの真横に立つと、あやのの似合いそうなものを色々選び始める。
「あやのさんは、こんなオシャレなものを、つけてることを見たことがないから」
「そうよね。あたしは、結構お堅い系で通ってるからね。オシャレとは無縁だったなぁ。別に、興味がないという訳じゃないけど……」
「あ、あやのさんは……」
「うん。風紀委員長だからね。特に過度なオシャレは禁止っていう校則もあるし。委員長から、率先して逸脱するわけにはいかないからね」
「なるほど。じゃぁ……」
 そう言って、あさひが選んだのは長い髪を束ねるカチューシャだった。オシャレなアイテムであるものの、そこまで主張しない大人しいデザイン。これであれば、役員のあやのでも、校則に引っかからない程度のオシャレができる。
「えっ。いいのかな」
「これくらいの、おしゃれ。いいでしょう。これでダメっていうのなら……」
「なら?」
「いずみさんに言って、変えてもらいましょう……」
「お、おう……」
 ひときは、悪い顔をしたあさひ。あやのが、あさひの中に黒い一面を見た一瞬だった。ふたりでそんな会話をしていると、店の奥から店員が出てきてあさひに対して、何やら紙袋を手渡していた。
 あさひはこれと言って、「誰へ」ということは言わなかったものの、あやのには、容易にその相手が想像てきた。それは、決して。私ではない第三者の人……
『その袋の中身は、あの人へのプレゼントなのね。やっぱり、あさひちゃんのなかでも、いずみのことが……』
 楽しいあさひとの買い物。店へと入るときは動揺したものの、貴重な体験もできた。第一、その紙袋を受け取った時のあさひちゃんの顔は、いつのも増してとても輝いていた。その笑顔が、あやのに向けられているものではないことが、容易に想像できた。
 そんなことを考え出すと、その場にいたたまれなくなってしまうあやのは、袋を受け取って、店員と話し込んでいたあさひに一言いう。
「あさひちゃん。そとで、待ってるからね」
「えっ!は、はい」
 そうして、店頭へと出たあやのは、大きく深呼吸をする。なぜなら、あのまま考え込んでいたら、折角の楽しい一日が台無しになってしまうのが目に見えていたからである。そして、あやのは自分に言い聞かせる。
『あさひちゃんは、いずみねぇのお見合い相手』
『お互いに、好き合ってるんだから、私がしゃしゃり出ても仕方ないこと……』
 正午になろうとしている店頭は、夜であれば喧騒であふれかえるであろう通りも、夜の準備をしているのか、それともまだ眠りについているのか、人の喧騒とは違う小鳥たちの静かな歌声が、ビルの屋上で繰り広げられていた。華やかな電飾で彩られたビルの屋上は、さながら小鳥たちの楽園となっていた。
「あれっ」
 そんなことを考えていたあやののもとに、店員との会話を終わったのか、あさひがあやのの顔を見て驚いていた。
「どうしたんですか?涙なんか流して……」
「えっ!な、涙……あ。」
 あやのも気が付いていなかったようで、驚いた表情の大きな瞳には、今にも零れ落ちそうな、大きなしずくがあった。慌てたあさひは、ポケットに入っていたハンカチを手に取ると、精いっぱい背伸びしてあやのの目元を拭こうとする。
「あの、これしかできませんが……」
「あはっ。ご、ごめんね。目にゴミが入っちゃって」
「大丈夫ですか?」
「うんうん。平気。あさひちゃんが来てくれたからね」
「ん?」
「ほら、もうすぐ昼よ。どこかに食べに行かない?」
「えっ。は、はい。そうですね。食べに行きましょう」
 微妙な違和感を持ちつつ、あさひとあやのは、モールにあるカフェへと足を進める。他のカフェとは違い、少し高台に位置するカフェは、見通しが良く遠くには海が眺められる。
 見晴らしが良く空気が澄んでいることで、夜になると格好の夜景観察スポットである。カフェから少し歩いた公園は、格好のデートスポットで、夜やお互いの誕生日を祝うカップルなどが多く訪れる。
 そんなこともあり、デートの定番スポットでもあった。ところが、あさひはそのことを知っていないらしく、ただ単に、見晴らしがいいから来ただけのようだった。
「えっ!ここ。定番デートスポットなんですか?」
「あさひちゃん、知らないの?知ってて、連れてきてくれたのかと思ってたけど……」
「そんなことないですよ。単純に見晴らしが良いのと、空気がきれいだから。ここが好きで……」
「なるほどね」
 何の気なしに選んだというところが、あさひらしいくもあった。そして、カフェで注文したパフェと、コーヒーが届く。そして、食べ始めつつ、あやのはあのことについて、話し始める。
「あたしたちのお父さん。十六夜父さんにあったんでしょ?」
「は、はい。ほんとうに、知ったときは、驚きでしたよ。まさか、あの時道案内をしてたのが、十六夜さんだったなんて」
 あさひがいずみたちの父親、十六夜と出会うことでいずみの見合い相手に選ばれていた。つまり、この出会いがなければ、お見合い相手に選ばれることは無かった。普通に恋愛をして、普通に付き合って。という未来が開けていたということになる。
 そんなことを考えると、あやのはどうして出会ってしまったのかを考えてしまう。しかし、十六夜との出会いがあったから、このデートをするキッカケとなっているのも事実だった。
『お父さんがあさひくんと会ってくれたことで、この想いを伝えるキッカケを作ってくれた。とも言えるのかな?』
 そう考え始めたあやのは、少しだけ肩の荷が下りた気分に満たされる。そして、いつものようにあさひを眺める。
「あははっ。あさひちゃん。もう。」
「へっ?なんですか?」
 ふと、視線をあげると、あやのの前の席にはあさひが座っていた。そして、ショートヘアでかわいらしいあさひのほっぺには、パフェのクリームがちょこんとくっついていた。
 それまで家族の事や姉のことを考えて、落ち込んでいたあやのの心が、一気に癒されていくのが分かる。あさひに出合い触れ合うことで、それまでに感じてこれなかったことを、あさひが教えてくれていた。
「はぁ。じっとしてて……」
「えっ。は、はい。」
 しずかに立ち上がるあやのは、ゆっくりとあさひに近づいていくと、お互いの息がかかる距離に近づく。幸いなことに、周囲のテラス席にはほかのお客もいなかったことで、あやのは大胆な行動に出ていた。
「そのまま、目をつぶってじっとしてて……」
「は、はい」
 ゆっくりと近づくあやのに、条件反射であさひは口を前に出していまう。キスするわけではないけど、このままキスしてもいいかなと思ってしまう。でも、ここでキスしてしまっては、自分を抑えることができなくなってしまうことが目に見えていた。
 ぐっとこらえたあやのは、頬に付いたクリームを指でとると席に戻る。そして、いつものようにあさひを呼ぶ。
「もういいよ。あさひちゃん」
「へっ?」
「ほら。クリーム、ついてた」
「あぁ。クリーム……」
 恥ずかしくなったのか、あさひは慌てて引っ込む。そんな姿が、あやのにとってはとてもいとおしく感じる。
『あぁ。やっぱり、私……』
 そんな湧き上がる感情をぐっとこらえ、いつもの自分のようにふるまう。それは、あさひに気が付かれないように。そして、このデートがつまらないものにならないようにと、堪える。
「あはは、あ、あさひちゃん。キスされるかと思った?」
「そ、そんな。そんなこと……」
「ふふっ。まぁ、いいけど」
 こうして、あやのにとってのデートの時間が、次第に過ぎていく。あやのにとって、それまで普通だった日常が、少しだけ動き出すデートがもう少し続きます。

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