2024.6.13 thu 晴
真夏のように日差しが強い。もう梅雨入りかと思いきや真夏だ。
そして、暑い。
でもまだ窓を全部開けて冷風機で凌げる暑さで、風が吹けば涼しい。
写真を貼り出している襖のすぐ横の引き戸からも風が舞い込み、マスキングテープで貼った写真が一気になびきだす。
時折、その風に乗ってヒラッと一枚、また一枚と舞い落ちていく。
何度も剥がしたり、貼ったりと順番を変えたり、セレクトを変えたりとしていて粘着力が弱まっているからだ。
大抵悩んでいたカットが舞っている。
それを襖に貼り直す時、いや待てよ、と自分の中から声が聞こえてくる。
待てよ、ってなんだよ、とまた別の自分もいいだす。
この襖に貼り出して悩んでいる時、暗室にこもってプリントと格闘している時、ひたすらデータ化した写真のゴミ消し作業をしている時、自分の中の自分たちが一気に話しだす。でも案外、舞い落ちたものは、悩んでもいるけど、セレクトから外してもいいというお告げかもしれない、と勝手な解釈をしてみる。
自分会議とでも言おうか、この込み入った会議に時折邪魔をされつつも、案外重要な時間だ。
会議の議事録は自分の中に記録しておきたい。
今日もバイトへの行き帰りは、徒歩にて。
半袖のTシャツで歩いていても流石に汗ばむ暑さだ。流石に夏は歩きは辛いかもしれない。
袋湾をいつものように覗き込みながら歩いていると、潮が引いて顔を出した堤と水の境を小さな稚魚が群れになって泳いでいる。
なんの稚魚だろうか。ボラだろうか、イワシだろうか、さっぱだろうか。
可愛らしい。
岩の苔をちょっと食べたようなそぶりを見せたかと思えば、次の岩へ、また次の岩へ、と群れを逸れないように一緒に泳いでいる。
稚魚の群れを見かけるのは珍しいことで追ってしまった。
そして仕事帰り、日付の変わる前にさっさと帰る準備を始める。
団地の近くに軽バンが1台、そして海に電気浮が浮いているのが見える。
たまに、袋湾でおそらくチヌを狙ってるのだろう、フカセ釣りをしている夫婦を見かけるのだけど、おそらくその二人だろうと検討がついた。
昼間よくチヌが泳いでいるのを見かけるけど、型のいいチヌが浅瀬に寄ってきている。それを狙っているようだ。
いつも車で見かけることが多く、今日も釣ってるな、と気になりながら、釣れるんだろうか…と思っていた。
今夜は徒歩だ。
近くを通ると、最初に男性が釣っていた。
深夜にすれ違うのも怪しかろうと思って、挨拶をする。そうすると優しそうな声であいさつが返ってくる。
いつも堤防で釣り人に話しかけるように、挨拶につづいて「つれてますか?」と歩きながら自然に聞く。
そうすると男性は、「うん、そこに」と歩き寄ってきて、道路脇に置いてあったクーラーボックスの中を見せてくれた。
ぶっくり。チヌの30cmアンダーが3匹も。
型のよさもだけど、綺麗な方をしている。
小さな頃、よく父が教えてくれた。
釣り上げた鯛をみながら、「こら天然だけん、うまかよ」という。
何を見ながら言っているんだろうかと不思議に思った。
また別の日、大きな鯛を見て、「こら養殖ね」という。
何を見見てるのかますます不思議に思った。
「なんば見ていいよっと?」と私が聞く。
そうすると、「ヒレが全然ちがうでしょうが、養殖はがんして(こうやって)すれとっ、天然は見てん、擦り切れで綺麗でしょうが」
両方見比べてやっと納得した。
水族館にいる魚もすれたヒレの魚が多い。
私が今までで一番美しくて見惚れたのは、たまたま、緑川の上流で投げたルアーで釣れた天然のヤマメだ。ヒレも綺麗だが、養殖でもなく、塩焼きにもなっていない、天然の生きたヤマメはそれはもう…美しかった。
少し先で釣りをしていた女性にも挨拶がてら、「結構よかかたんつれとっですね〜(いい型が釣れてますね)」と言った。
そうしたら女性は「持っていきなはらん?」という。
え!と驚いて遠慮しながら、いやいや〜とお断りした。
「じちゃんに言って持っていけばよかて、言ってやろか?持っていかん?」
通りすがりに初めて話すことはあっても、最初から魚くださいとは流石の私も言えない…笑
女性は続いて「夜勤かなんか?」と聞くので、「まぁ仕事帰りで」と答える。
「おそまでお疲れさんね、夜勤頑張ってください」と逆に励まされて別れた。
これは歩いているからできることだ。
車で突然止めて話しかけていたら怪しい。バイクも不自然だ。
でも歩いている最中に通りすがりに挨拶をするのは自然なことだ。
街中ではしないだろうが、田舎では礼儀でもあるし、どこの誰だか知らない人でも警戒心が薄れる気がする。
そしてそのまま、フラッと話しかけてみる。
笑顔で挨拶して、そのままの流れでふわっと自然に会話に混じってみる。
挨拶の時の空気、互いの呼吸の感触で決める。
そして一時話したら、ふらっとまた次へ行く。
時々、そのままお茶をしたり、野菜ののさりものをしたり、出かけ先で飲んだ人とそのまま次は行くこともある。波長みたいなものだろうか。
こうした出会いが楽しくて、好きで、やっぱり散歩してしまう。
ただ一人、散歩しながら考え事も進むけど、出会い頭に話してみるのも面白い。そして、フィールドワークは大抵その積み重ね。
好きだから楽しめる。
さて、今から北上します。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?