見出し画像

華やかなりしキャバレー時代

2022年10月、私は『遊廓・花柳界・ダンスホール・カフェーの近代史』(河出書房新書)を上梓しました。

本書では近代史〜赤線が無くなる1958年までの接待業の歴史を執筆いたしましたが、同時進行で高度経済成長期のキャバレーのことも取材を続けて参りました。
いや、取材というより、以前から身近に当時のホステスさんなどとのお付き合いがありました。
しかし、新刊のテーマとは時代に隔たりがあるのに加え、戦後のキャバレー全盛時代に関しては、また別口で取り掛かりたいと考えていたため、新刊に記載はしませんでした。

今回はその布石として、鶯谷ワールド(現・東京キネマ倶楽部)のホステスとして勤務していた、仮名・まゆみさんにお話しを伺い、ここに対談として公開します。
まゆみさんは80代前半、筆者とは親子のような関係で、日頃から筆者はまゆみさんを「ママ」と呼び慕っております。
なお、無断転載、引用はご遠慮いただきたいと思います。

このステージにフランク永井なとが立った

洋裁よりお金になるなあ

(小針)ママがワールドで働きはじめたのって、オープンの時だったんですか?

(ママ)ううん。多分だよ、多分昭和44年の5月にオープンしてるから、で、私は10月頃かなぁ。

(小針)働いたきっかけってなんだったんですか?

(ママ)あのね、私は洋裁学校に通って、その時に一緒にいた女の子がワールドに働いてたんだよ。それで、遊びにおいでっていわれて。
お客さん入れないといけないってときあるじゃん(笑)

(小針)あります、あります。

(ママ)そんときに、顔貸してっていわれて、それが縁で。

(小針)そういうことなんですね。

(ママ)それから、人がいないからあんたおいでよって、それで私も入るようになった。

(小針)最初、働いてどう思いました?

(ママ)あゝ、洋裁よりもお金になるなあって思った(笑)
だって洋裁は1着縫って5000円とか6000円でしょ。キャバレーだと1日で稼げちゃう訳だから。

(小針)出来高制だったんですか?

(ママ)ワールドは指名してもらってナンボ。あんまり、売り上げ売り上げじゃなかった。

(小針)じゃあ指名をもらったら、それがお給料に反映されたわけで。

(ママ)まぁ、それだけじゃないんだけど、人によって基本料金が違うから。

(小針)じゃあ美人だったら基本料金が高いとか(笑)

(ママ)そういうことかもしれない(笑)
お客さん呼べるか呼べないか、経営の人たち見てたんじゃないかな。
だけど、ワールドはテレビコマーシャルでも宣伝してたんだよ。

(小針)そうですか!ワールドでホステスさんが一番多かった時って何人いたんですか?

(ママ)300人くらいいたかな。だって大きいもん。

(小針)300人たって、いつでも出勤しているんですか?

(ママ)休んだりする人もいるから…出勤するのは200人くらいだったかもわからないけど。

(小針)どんな女性が働いてたんですかね?

(ママ)田舎から出てきた人もいるし、結婚して別れちゃって子ども育てるのが大変だって働いてる人もいるし。
お金がある人は働かないじゃん、お金がないからああいうところで稼ごうと思って。

ワールドのお店のこと

(小針)ワールドって出勤は何時だったんですか?

(ママ)私は夜8時。大体6時出勤、その人によってだから。私の場合、最初はアルバイトだったから。

(小針)じゃあ途中から正社員になったんですか?

(ママ)私はそうだった。正社員とかそんなのはこだわらなくて、売り上げとかがあれば、段々とそうなってくの。

(小針)じゃあママは売れっ子だったんだ(笑)

(ママ)売れっ子じゃありませーん、普通でしょ(笑)
でもね、お話し上手とか、顔が綺麗とかじゃダメなのね。美人じゃなくても売れるのよ。

(小針)夜は何時頃に終わるんですか?定時は?

(ママ)11時半。てか、なんでそんな話聞くの?(笑)

(小針)いや、だって今そんな話聞ける人、ほかにいないじゃないですか。それに、こないだワールド(東京キネマ倶楽部)に行ってきたんですよ。
だから、ママに話さないと!と思って。

(ママ)今ワールドのとこ、なにやってんの?

(小針)(デパートメントHに行ったとは云わず)貸しスペースで、ステージで歌やったり、踊りやったり。
あれ、ステージはそのままですよね?

(ママ)そのまま。
左側に階段とつながった小さなステージがあるでしょ、あそこに3人か4人編成のバンドが入ったの。それで、下の大きなステージではフルバンドでね。
だから、なかなかかっこよかったんだよ。

2022年現在の旧ワールドの舞台。

(小針)うん、かっこよかった。専属バンドがあったんですもんね。

(ママ)最初、東京ぼん太で映画かなんかを撮影しようってことになったんだけれども、ライトが足りなくて出来なかったらしい。そんなこともあった。

(小針)よしこ(仮名・共通の知り合い)さんも言ってましたけど、なんか加賀城みゆきさんとかのショウがあったって。

(ママ)あ、そうそう、ショウは入ったよ。フランク永井とかも入った。
あと青木光一とかね、神楽坂はん子とか。

(小針)ウッソ!

(ママ)そのかわり1か月に1回だけ。○○ショウって、1週間の公演をやったんだよ。
神楽坂はん子とは控室で一緒になって「あんた頑張んなさいよ」っていわれた(笑)きれいな人だった。

とにかく楽しかった

(ママ)出勤して店に出て行くとき、大体自分が座る場所っていうのが決まってんだ。好きなテーブルあるじゃん、そこを予約しといてそこにお客さんを入れるんだよ。

(小針)飲みのものって一杯いくらぐらいだったんですか?まぁ時代によって違うでしょうけど。
高かったんですか?

(ママ)なんぼだったかなぁ、ワールドのメニュー表どっかにあるから探しとくね。

(小針)食べ物ってなにがあったんですか?サンドイッチとか?

(ママ)そうそう、サラダとか乾きものとか、一番高級だったのがフルーツの盛り合わせでね。   
あと、今週のおすすめなんて、厨房の人たちも一生懸命つくるんだ。

(小針)だけど、どうでした、楽しかったですか?

(ママ)私は楽しかったよ!

(小針)売れてたからでしょ(笑)
なにが楽しかったんですか?

(ママ)お客さんと女の子やりくりするのがうまかったんだよ(笑)
だからワールドが無くなる直前まで、22年間も働いた。

(小針)それとママ、キャバレーって一番最後に演奏されるのが『そっとおやすみ』だったって聞いたんですけど。

(ママ)そうだよ。みんなそうだよ、ワールドだけじゃなくクラブ系統は。

(小針)やっぱそうなんだ。あと、ワールドの向かいにスター東京ってあったじゃないですか。

(ママ)スター東京はおかあさんがホステスで行ってたんだよ(おかあさん=共通の知り合い)
年齢がいってたんだけど、芸能大会みたいのがあると歌とか踊りを教えたりして、結構顔で、女の子仕切ってるって感じ。

ワールドのライバルだったスター東京

(小針)仕切ってたんですか。

(ママ)新橋にフロリダってあったらしいじゃん。そこから、スター東京に来たんだよ。

(小針)へぇ…フ、フロリダ!(絶句)
フロリダっていえば社交ダンスですね。

(ママ)社交ダンスっていうか、なんでもいいんだよ(笑)
くっついてりゃ(笑)
嫌だけど、これでお金が稼げると思えば(笑)

(小針)たしかに(笑)

(ママ)それに良かったのは、嫌なお客さんがいても、店内ぐるぐるまわって逃げられるじゃん。
嫌な客のところにずっと座ってることもないでしょ(笑)

(小針)ハハハ!(笑)

(ママ)あら、ごめんなさい、とかいっちゃって(笑)
まぁ、楽しく働かせてもらったわね。

ホステスの秘訣

(小針)だけどママはワールド1本ですもんね。

(ママ)そう、ワールドだけだったね。おかあさんにスター東京においでって言われたこともあったんだけどね。スター東京は歴史は古いんだけど、改装してるから店内が綺麗だったんだよ。

(小針)着るものって、イブニングドレス?着物ですか?

(ママ)決まってないの、スーツでもいいのよ。ちょっと見栄えがよければいいんだよ。

(小針)じゃあ特に、こういうの着なさいみたいなのはなかったんですね。見栄えがよければ。
アフターとかでお客さんと食事とかあるじゃないですか、どんな店に行ったんですか?

(ママ)ラーメン屋さんよ、大体。

(小針)えー、セコい!(笑)

(ママ)そんな高級なとこじゃないよ(笑)
だからめんどくさい時は、行かなくたっていいんだよ(笑)

(小針)ノルマとかもなかったんですか?

(ママ)ノルマみたいなのはありますよ。1か月のうちの、この週だけは、お客さん連れていらしゃいってことはある。ショウが入るときなんか、お客さんいれなきゃなんないじゃん。

(小針)はい。

(ママ)毎日来てくれる人はいないけど、いいお客さん2,3人つかまえておいたから、そんなにノルマが苦しいとかはなかった。

(小針)キャバレーの仕事、ママに向いてたんですね。

(ママ)だけど、私はしゃべくりも下手で。だから、しゃべりの上手い子を同じ卓につけて、みてるだけ(笑)
喋んないなら喋んないなりに大丈夫なんだよ(笑)
いろんなお客さんがいるじゃん。

(小針)だってママってそこまで飲まないですもんね。昔は飲んだ?

(ママ)飲まない飲まない。お酒は飲まないよ。
例えば、ホットミルクはなかったな…そうだな、カカオフィズとか、そんなのはあったような気がした。

だけど、朝早くでかけるお客さんとか、奥さんが亡くなった人とかいるでしょ、そういう人にはお弁当つくってあげたりしたよ。
あと、洋服破けてるとこあったら直してあげるとか、そういうこともやった。お客さんの心をつかむじゃないけど、そういうとこに気を配ったね。

(小針)それが水商売で生き抜いた秘訣なんですかね。嫌な客いなかったんですか?

(ママ)嫌な客はいるわよ!(笑)
ずっと口説かれてごらんよ、嫌になっちゃうから(笑)
だけど、綺麗に遊んでいく人はそういうことしない!口説かない(笑)

(小針)そうですよね(笑)
ママ、また古い写真とか出てきたら見せてください!

(ママ)うん、わかったよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?