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新刊『遊廓・花柳界・ダンスホール・カフェーの近代史』のご紹介

2022年10月、今年3冊目の著書が出版されます!
と言っても、別に量産型の著者ではありません(笑)コロナ騒動で滞っていた企画が一気に動き出し、出版のタイミングが重なった訳です。

私は今まで単著共著含めると7.8冊手がけてきましたが、今年は性や"夜のお仕事"にまつわる本を中心に出版する1年となりました。

『遊廓・花柳界・ダンスホール・カフェーの近代史』

今回のタイトルは『遊廓・花柳界・ダンスホール・カフェーの近代史』(河出書房新社)となります。
河出書房新社のらんぷの本なので、ビジュアル中心、初心者の方でも気軽にお手に取っていただけるように致しました。

今まで遊廓について取り上げた書籍は沢山ありますが、近年の書籍(サイト等含め)のなかには京都島原太夫の写真に「吉原の遊女」とキャプションをつけたり、時代や土地、店の格によって風習や金額の差があるのにも関わらず、それをない混ぜにして比較するなど、ちょっと引っかかる記載をみかけたりしました。

そのため、拙著のスタンスとしては「近代から赤線がなくなる1958年までの東京(近郊)」を基点にし、例外がある時は明記することにしました(例えば、からゆきさん、横浜のチャブ屋など)。

私は今まで(これからも)芸能に関することについて書いてきましたが、芸能と"夜のお仕事"は非常に密接した関係だと考えています。
というと誤解されるかもわかりませんが、私は芸能人の××が風俗で働いていた、等の都市伝説みたいなことは語りません。
例えば、昭和のスターたちの支援者がバーやキャバレーの経営者だったり、昭和のスターたちの多くがグランドキャバレーのステージに立ったり、デビュー前にキャバレーやクラブで歌っていたり、芸能界引退後にバーやスナックを経営するなど、です。

今まで多くの昭和のスターたちと交流させて頂き、そのような世界の雰囲気を身に浴びてきました。
さすがに芸者をあげて遊ばせてもらったことはありませんが、プライベートで元芸者さんや現役芸者さんと飲ませて頂いたり、花街の料亭の娘さん、銀座最古参の方々、大キャバレーの元ホステスさんなどと普段からのお付き合い…挙げればキリがありませんが、裏表、多くのエピソードを伺わせて頂きました。

もちろん、今回の『遊廓・花柳界・ダンスホール・カフェーの近代史』(河出書房新社)に、1950〜60年代のグランドキャバレー、高級クラブの数々については一切記載ありません。

しかし、私なりに紅燈の巷に遊蕩し、また自らも遊廓跡地の一角にあるバーのカウンターに立たせてもらうなど(勿論、コロナ禍は自粛しておりました)、実地での体験も得てきたことは書籍のあとがきには記載しませんでしたので、改めてここに記載致します。
時代は違えども、そのような体験は、先人たちへの仁義でもあり、本を書く上での大きなヒントになると考えています。

さて、前置きが長くなりましたが(笑)
長く水面下で性風俗資料を蒐集し、取材を重ね、実現した企画が今回の新刊です。
書籍の内容は、従来の性風俗資料のみならず、パンタライ社や芸者で編成された劇団、芸者から女優になった人々を紹介するなど、小針らしい芸能ネタを多く取り入れた内容となっております。
また、今まで同列に取り上げられることがなかった、戦前東京のダンスホールのダンサーについても取り上げました。

今回の参考文献や、書籍の図版に掲載しなかったものを、いくつかここでご紹介いたします。
まずは遊廓関連として定番の資料ですが、こちらの書籍などは実体験本として貴重な内容になります。

『遊女物がた里』1913年、『春駒日記』1927年

遊廓、私娼窟、赤線、青線関係として、やはり永井荷風の著作も外せないですね。特に参考文献に使用はせずとも、荷風の一連の作品を読むことで得られる街の雰囲気があるような気がします。
また、戦後の資料としては、当時の性科学雑誌やカストリ雑誌の多くを調査し、参考文献と致しました。

『昭和奇観 苦心探検 女魔の怪窟』『ぬれ燕』

私は地下本は集めておりませんが、必要に応じて、実録の地下本については買い求めることがあります。奥付が無かったり、背に書名が書かれていなかったりしますが、中々面白いことが書かれています。『昭和奇観 苦心探検 女魔の怪窟』は各地遊里のルポが並ぶ、お好きな方にとっては興味をそそられる書籍だと思います。

次には、こんな花柳界資料をご紹介します。

『花籠 藝妓寫眞名鑑(新ばし)』1913年
『新橋南地 たよ里』1930年

近代の東京花柳界と言えば、なんといっても新柳二橋、ことに新橋は多くの名妓を輩出した街でした。今回も照葉、栄龍、音丸のほか、ご存じ赤坂の萬龍、下谷のさかえなども取り上げております。

『藝妓通』1930年

また花柳界資料として人気の高い『藝妓通』ですが、今回は特に「モダン芸者」の参考文献として使用致しました。著書の花園歌子や若草民子などは浅草オペラとも縁ある人々、モダン芸者につきましては拙著をお読みいただけたら幸いです。

雑誌『花柳界』

こちらはカフェー資料になります。
1920〜30年代のカフェー全盛時代、東京銀座はもちろんのこと、大阪道頓堀にあったカフェーの大店が存在感を放っておりました。
中でも赤玉はキャバレーとして、専属のダンス劇団を編成し、少女歌劇のようなものを上演していたとされています。

1930年代、道頓堀カフェー赤玉でのイベント

たしかに写真を見ると、宝塚の葦原邦子さんと草笛美子さんのような雰囲気ですが、恐らくホステスさんも兼ねていた方たちなのでしょう。

また、近代を取り上げると、満洲などについて取り上げない訳にはいきません。ほんのコラム程度にはなっていますが、満洲の遊里のことや妓生についても記載致しました。
当時のアジアの花街について触れられたもので、参考文献になる資料はそう多くはありませんが、諧謔作家・奥野他見男の『ハルビン夜話』や『支那街の一夜』などは版を重ねた人気作。

『ハルビン夜話』『支那街の一夜』

当時の日本人がアジアでどう遊んだのか、その片鱗を知ることができる資料です。

そして、このような資料も貴重なものです。
裏面に1937年のスタンプが押された、銀座ダンスホールのチケットになります。
このチケットをダンサーに渡すと、1曲踊ることができたそうですが、1枚1枚千切って手渡すのは野暮。10枚綴りのチケットのままダンサーに手渡して踊るのが、粋なモボのモテる遊び方だったとか。

銀座三原橋付近にあった銀座ダンスホールのチケット

今までジャズ史の中におけるダンスホールの歴史については取り上げられていますが、接待業としてダンサーが記載された例は少ないのではないのでしょうか。

ダンスホールの情報誌『モダンダンス』1930年代

ということで、ほんの少し、参考文献や掲載しなかった資料をご紹介致しました。

新刊『遊廓・花柳界・ダンスホール・カフェーの近代史』は間もなく刊行、Amazonでは予約受付中ですので、何卒宜しくお願い致します。

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