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チェックアウトには猫しかいなかった

バカンスのはずだ。
そう、私はあれもこれも放り出してバカンスに来ているはずなんだ。
なのだが、出発の時から電車の遅延、ついでに気分が悪くなって途中下車して、予定のバスには間に合わず、飛行機もJFケネディ空港の悲劇の二の舞い(車椅子で運ばれる事態になった初めての海外)になりそうな感じだった。

南に来たはずなのに、あまりに寒い。
平年の8度から9度低い気温で、挙句にヒョウだかアラレだかが降ってきた。

おまけに、レンタカーが使えないとここではほんとに何もできない。

私は免許はあるけど燦然と輝くペーパーゴールドだ。
予約した宿も、ほんとに湯沸かしひとつない素泊まりに徹している宿で、あまりのことに電話をして「ご飯食べるとこないですか?」と泣きついて迎えに来てもらった。

「今日、結局ごはん食べそびれてて」
「あーじゃあこれが朝ごはんだね」
宿のお兄さんはのんびりしている。

「レンタカー借りなかったの?」
「運転できないんです」
「奄美で運転するといいよ。みんな時速40キロくらい」
「もうアクセルとブレーキがわからない」
「大丈夫、みっつしかないから」

海まで3分。ハブには気をつけて。

チェックアウトのときは誰もいなくて、電話をかけたら「荷物おいておいても大丈夫だよ。わからないことがあったら電話してね」というだけで、そこには猫しかいない。

南国猫なのに長毛種で、いつも外に暮らしているらしい。ハブがいるっていってたのに。
夜中、嵐の音と一緒に「にゃーん(あけて)。にゃ。にゃん(いれて)。にゃー」と鳴いている声が聞こえた。ごめん、猫アレルギーなんだ。

猫の名前をチェックインのときに聞いたのに、どうしても思い出せない。

「ご予約のツアー、人数が定員に達していないので開催が無理かもしれません」という連絡が来て、行こうと思っていたスパ施設の無料バスにはスルーされて行けず、あまりにひどい雨が降っているので食事に出かけたくても出られないで、なんとかたどり着いたホテルの部屋でぼんやりと座っている。

なぜ私が南の離島を目指すとこんな寒波が大々的に降りてくるのだろうか。
寒波を連れてくる女としての実績ばかり積み上がっていく。

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つよく生きていきたい。