おじさんたちはわからない

cakesのDV相談のコンテンツが炎上していたし、早々に謝罪アクションが行われていた。

しみじみ思うんだけど、やさしい人並みの男性は、こういうことがあるなんて想像さえできないんだと思う。
自分の娘を灯油とライターで脅すとか、されたことないんだろうなって思う。私は父にそういうのをやられました。
そこまで2年くらい毎晩包丁を振り回して大暴れ、ついに灯油を持ちだした。その時になって初めて私は「誰か助けて」って思ったのだ。
2年以上も。
誰にも助けを求めなかった。
というか、その後も、誰にも助けを求めてはいない。


でもさー。
こういう幸せに暮らしてきた男性って、DVがあることをよく認識していないし、認識できていないものを「改善する」「よりよい社会になるように」というのは空気を食べているようなものです。

「僕は女性にはこんなにやさしくしているのにどうしてセクハラって言われるんだ」と思っている。

友達にも平気でセクハラする。「胸を見せろ」とかいう。

こういう「何にもわからないおじさん」を作っちゃったのは、そういうおじさんをよいしょしてよしよししてきた側の問題でもある。
男性に恥をかかせないようにいろいろやるのが女の仕事だった。
大事なことは給湯室のポットをお昼までに熱湯で一杯にしておくことが大事な気配り。
ピルは何年も対応を渋るがバイアグラはちょっぱやで通過だ。

殴られても、「だれか助けて」とは言わない。

それは、助けを求める先もなかったし、求めてもいけなかったのだ。
DVは誰かが介入することではない、とされていた。
暴力という認識もとても弱い。
そういうのが、普通の立派な男の感性だったし、そういう立派な男に整えるために殴られた側は黙っておくのが正しい方法だった。

だから。
こうやって炎上するという事は、画期的なことだ。
もう二周も三周も遅れている、でも、燃えないよりはずっといい。
私は灯油をかぶって死ぬところだったんだぞ。
それかそれを奪い取って父親にぶっかけて火をつけて殺人だ。物理的に炎上だ。シャレにならん。
私が殺人をしても親の暴力は不問だ。
大げさな嘘だといわれる。
殺人をしたお前のほうがずっと罪が重いといわれる。

私がどれほどつらかったかと涙を流したとしても、健康で立派に育った優秀で優しく幸せなおじさんたちにはわからない。
絶対にわからない。
絶対に、だ。
一生理解できないまま死んでいくのだ。


ただ、分かってほしいとは思ってない。
わからなくてもちゃんと対処してくれればいい。
アンサーコラムを読んでみたけど、この人は本当にただの優しいおじさんで、自分がひどいことをしたことが許されることを祈っている。誠意の見せ方がわからないから言ってほしいとまで書いている。それがいいとは言わないけど、何もわからない人の精一杯の対応はこのくらいじゃないかなって思う。

優しい人は「君が不愉快な思いをしたとしたら謝るよ」という。
自分の差別心や、無意識的な搾取への加担はスルーして、自分の評判を補強することを優先する。

このアンサーコラムがそうだとは言わないけど、表面的に謝ったとしても内面の価値観は変わらないし、場合によっては手間をかけさせた・メンツを傷つけたと余計意固地になることもすごく多い。

メンツを傷つけられたことに対して死ぬほど怒っている、ということもばれたくない!

実際に自分が悪いことをしたなんて1㎎も思ってない。
難癖付けられて謝らせられている、という認識の人がすごく多いと思う。
なぜ女が怒っているかわからないし、女が怒るのは許せない。
このくらいの認識が世の中のおじさんの90%ちょいだと思う(肌感覚だけど)。

若い子ならいいかというと、親がそういう感じだからもっと保守的。

そういう、わからない人たちを説得するのはまず無理。
だから、正直、ずっとわからないままでいてくれとさえ思う。
わからない状態で、何が正解かわからないままあれこれ判断して生きていってほしい。
それは、私としてはとてもいじわるな気持ちの表れかもしれない。
死ぬまで答えがわからないテストを延々と受け続けて一生を終える。間違いがあれば盛大に怒られるが、正解は特にリアクションがない。これは相当つらい事だと思う。

だが、つらいけど、今まで見えないところで大事にしてもらってきたんだから、そのくらいはやっていただいてもいいと思います。

そして、こういう事でちゃんと炎上するようになったという事は、助けを求めることができないまま灯油を部屋にまかれそうになった19歳の頃の痩せこけた私が知ったら、体が一回りは小さくなるほど泣くだろう。

私たちは、助かってもよかったんだよ!
殺さなくてもよかったんだ。
殺されなくてもよかったんだ。


でもご立派な男性たちのご意見の前に、それらは無に帰す。
ちょっとくらい燃えるのは当然じゃないか。
私だって灯油とチャッカマンをもって部屋にいこう。

灯油は、冷たいし濡れる。水より軽い。
血だらけでも痛みはない。

つよく生きていきたい。