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見えない経験値

ブランド、という言葉は、意外と独り歩きしてしまい、現実に即していない時がよくある。

ブランドという言葉は、主に高級品を示すことが多く、同じようなものがブランドネームが入るだけで10倍や20倍の値段になる現象について揶揄することを主力コンテンツとして受け止められていた感じが強い。

だから「ブランドだからいいわけじゃない」という言い方がカッコよく、モノがわかった人のように聞こえてしまうのだけど、これがもう、本当に大間違いなわけです。

ちゃんとブランド品を持ったことがある人、買ったことがある人、正規店でみっちり接客されて、入荷情報をお知らせされてという人と、楽天で画像を見たことがあるだけの人では、同じものを見て知っていても、まったく経験値が違う……。
でも「ブランドだからいいわけじゃない」という、ブランドであることを否定するスタンスがかっこいい価値観だと、ブランドを持っていないのを良しとしてしまうので、表面的には経験値の違いが見えないのですね。
そこが、こすいというか、ズルいというか。
ない事がステイタスな振る舞いのせこさ。

ミニマリストに憧れる人が、とあるセクシー男優の人が所有していた高級車を一度に手放して「車を持っていることで人に夢を与えることはできない」みたいなことを言ったとかで、それに大層感銘を受けたので僕も高級車は所有しない、みたいな論調で書いたものを見たのだけど、それは何台も高級車を所有したことがある人が手放したことに感動したのであって、一度も高級車を持ったことがない、持っても一台、あるいはまったく乗ったことも見たこともないという人では、天と地の差があるわけです。
でもそれが見えない。

見えないところの経験値の差って、本当に本当に残酷です。

分かっている人は、わかっていない人に恥をかかせないように黙っているし、あわせてくれることが多い。
別に騙しているわけでもなく、礼儀を重んじて、そうしている。
それを知らず、分からず………
まあ、無知だから思い切ったことができるっていうのはよくある事なので、それは悪い事じゃないんだけど、ちょっとわかるようになると「わたくしが愚かでございました」となる事ばかりです。
ああ、でもそこをね、愚かだからやってこれた事が、あるわけで……。
悔いても仕方ない。

見えない部分の経験値の差の残酷さ。
ここは、ある意味バーターなので、贅沢をしてこなかった人は、「貧乏を全力でやってきた」という経験を積んでいるから、貧乏経験値では圧倒的な力を持ちます。
そこをどう生かすか、ってことだと思う。
貧乏人の心の機微に詳しい方が、どうやったら財布を開いてもらえるかというポイントに細やかにフォローできたりする。
ただ贅沢品を売る場合は貧乏くささが足を引っ張ることになる。
リッチマンが商売をする時は、かけなくてもいいところにお金を使って無駄に立派な事務所にミッドセンチュリーの照明とか入れちゃうみたいなことをしてしまう。金が一気になくなることの恐怖も知らない。
それぞれ、長所であり短所である。

どっちがいいというものでもないが、それぞれを学んで理解を深め見聞を広げるのは大切だ。
でもそれで、深い後悔に襲われて、自分の長所を殺すこともままある。
私はこのところ、いろいろ勉強してきたことで、高価なものにまつわる業界というか、お客さんの態度や権威のあり方などがすっかりいやになってしまっているところ………。
スランプみたいなものでしょうか。

ただ美しい、素晴らしいと憧れるだけでは太刀打ちできないものがある。

人間がどうしても生み出してしまう格差と、真の意味での平等やベーシックヒューマンライツや、頭が悪くても才能のある人への賞賛、またはどれだけ賢くても道に外れがちな人と距離を置くという事についてなどを、しみじみと考えてしまう。
高級車を1台も持っていない人間が、高級車数台を手放した男に憧れて、自分は車は持たないと思ってしまうことの悲しさを感じてしまう。
また逆に、結婚指輪は興味がないから2万円くらいでなんかプラチナの買えない?といっていた人が、最終的に銀座に路面店のあるような高級ブランドから自分の好みにあうデザインを見つけ出し、予算を25倍越えたものをお求めになるという話を見つけては、胸を打たれる。
よい決断をされた、勇気ある選択をされた、その理由も意味も、おそらくご購入の人たちとは違う角度から100倍くらい感動している。

高価なものを買うのがいいわけじゃない。
ただ、高価なものには理由がある。
それはしょうもない理由の事もあるし、実質無料なのではと思うような奇跡のような事もあるし、納得はできるけど手が出せないことだってある。
そこを、自らちゃんと経験していく。
数年後、失敗と感じることもあるかもしれないけど、それを活かせる人になれるかどうかだ。
それには、結局経験値ほど強い力はない。

見えない経験値のなさに、正直私は打ちのめされることが多い。
また、ヘタに経験値があることで思い切った勇気ある決断ができないこともある。
これはどっちに転んでも悪い状態だ。
まだ、成長途中なのかもしれない。

もうちょっと何か山を越えれば、違う風が吹いてくるのかもしれないと願っている。

つよく生きていきたい。