一般人アートバーゼルへ行く■3日目③予習が役立つバーゼル市立美術館
さて、バーゼルに行ったら見に行かなくてはいけないバーゼル市立美術館。
バーゼル二日目はこちらです。
朝からバイエラー財団美術館でバスキアを見て「こんなおいしい空気はない」とか、ルソーのジャングルのかわいそうな動物の絵を見ておおはしゃぎして、ライン川ではいしゃいで、大聖堂と市庁舎を見て、というすでに盛り過ぎなんですが(アートバーゼル会場も挟んでいる)、バーゼル市立美術館は必須。
ちょっと調べたら1671年に作られた世界で最も古い公共美術館のひとつと言われている。
1670年あたりって日本だとなんだっけと思って調べたら、四代将軍家綱の時代で、忠臣蔵で有名な堀部安兵衛が生まれた年と出てきた。忠臣蔵はその後1701年に松の廊下、討ち入りは1702年だそうです。
バーゼル美術館の事はあんまり知らなくて、ホルバインの「墓の中の死せるキリスト」くらいしかイメージがなかったのですが。
実際には、「あっ、これ知ってる!」「あっ、これも知ってる」「あれも見たことある!」「これも!」「これも!?」の連発でした。
チケットカウンターで、案内人がフランス語でアートバーゼルのチケットを見せて「割引はありますか?」みたいなことを聞いたら、担当のマダムがしばらく考えて、「常設展?まあ、いいわ。ふたりね」と言って無料で入れてくれた。
たぶん、詳細を調べるのがめんどくさかったんだろう……。ありがとうございます。
ということで、しれっと中に入ってしまったのですが、まず入り口。
ロダンの「カレーの市民」があります。
これ、上野の西洋美術館の前にもある。
ここだけ上野です。
バーゼルに来た初日にトラムで前を通ってキャッキャしていたんですが、「またきますから!」と言ってその日はアートバーゼルへ。
やっと近くでバーゼルの上野を見ました。(違う)
ちなみにこの後チューリッヒに戻って、チューリッヒでも上野のロダンを見ることになります。
バーゼル市立美術館はハンス・ホルバイン(絵具のメーカーにホルバインってあるくらい有名)が有名という印象だったので、正直私も知っているような教科書に載る感じのがもっとたくさんあるのかと思っていた。
なにせ世界史の教科書の資料集、ホルバインの描いた肖像画だらけ。
そういうのはそこまでではなくて、私が予習していたのは「墓の中の死せるキリスト」と(一番右)、ホルバインの妻と子の絵くらい。お父さんはイギリスに単身赴任だから、寂しくても我慢するのよ、みたいな感じの絵(左)です。
案内人はアートディーラーなので「こういう素描を見て勉強しておかないと」と大物にはあまり目もくれず、小さい素描や下書きみたいなものを鑑賞というより鑑定みたいなスタイルで見ていた。
確かに、こういうのは日本の展示会に持ってくることはないだろうし、持ってきても人寄せにはならないし、そこに保険や輸送のとてつもないコストを支払う事はないだろうから、ここでしか見れない。
それにしても、やまほど「これ知ってる」が並んでいます。
バイエラーで見た方が断然よかったです。比べちゃうとね。大きさも全然違って、こっちは小さい。あのかわいそうな動物の絵と比べると、という話だけれど。
オスカー・ココシュカの大作「風の花嫁」は門外不出だそうで、もうちょっとしっかり見ればよかったかもな。
ココシュカは、恋愛拗らせ男代表で、ちょっと年上の人妻(当時作曲家のマーラーの妻、もしかしたらもう死別後だったかも)と恋愛関係になったんだけど、その人妻は割と男転がしが上手で、当時の有名な芸術家たちと次々結婚したり恋愛関係になったりしていたらしい。
27歳のココシュカなんて赤子のように簡単だったんじゃなかろうか。
でも、二人の関係はうまくいかず、ココシュカは自殺のように戦争に行ってしまう。大怪我をして帰ってきて、それでも絵を描き続けたらしい。
ただ……その元恋人そっくりの人形を作らせて、一緒に暮らしていたそうな……オリエント工業的なあれか……。一緒にお出かけするところとかも目撃されたり、最後には人形の首を切って赤い液体をかけてどうのこうのとか……。どこまでほんとかわからんけど、とにかくヤバいやつです。
しかも、20年くらいたって彼女のほうがまた別の男と結婚したら手紙を送っているらしい。
ココシュカの「風の花嫁」は、ラブラブ期に着手されたらしく、どうしても彼女と結婚したかったココシュカに「あなたが傑作を描いたら結婚してあげる」とか女が吹き込んだらしい。
転がすねぇ、結婚する気ないでしょう!?
絶対に叶えられないが、絶対に達成してみせたい目標を提示してみせる、さすがの男転がし。
どうやら、最初はだいぶ明るい色調で描かれていたらしいのですが、絵具を塗り重ねてぼったりと厚くなって、ブルーグレーの寒々しい色調になったらしい。
厚塗りしすぎて、動かすと剥落するから門外不出なんだって。
彼女は結婚してくれないんだって、頭では「そんなはずはない」って否定しているけれど、画家は心がそのまま絵に出るパターンが多いから、こんな感じになっちゃったのかね……。
かわいそうだけどキモイね!しっかりして!
結果、後世でこれを見てあまりの多くの人にそのことを知られ、キモイとか言われて、なんかかわいそうだけど、本人はきっとアルマ(元恋人)の言葉しか信じないだろうから別にいいのかな……。
あとは多すぎるので箇条書き。
・ゴッホの有名な感じのやつ。このポーチの真ん中のやつだったかな…。このポーチ3種類くらい持ってます。今回の旅行でも活躍した。
・ヒトラーが最後まで執務室に飾っていた絵としても有名なベックリンの「死の島」。これは5枚くらい同じ絵があるので、ヒトラーの所有品かはわからないけど、日本でも人気。思ってたよりずっと大きい。なんとなくゲームっぽい絵柄なところが人気の秘訣のような気もする。
大きな絵だったので、思ったよりずっと粗い感じだった。いつも小さく縮小されたものを見るから、印象って全然違うよね。
・ベックリンの「生の島」も一緒にあって、盛り上がる。よく考えたらベックリンってスイス人だった。ドイツで活躍してたけど。なので、ベックリンコーナーがありました
・ユトリロの母親(パリで主に印象派のいろんな画家のモデルをし、服を脱ぐので大体そのまま愛人になり、息子のユトリロをネグレクトして10歳にはアル中にしてしまった女)のシュザンヌ・ヴァラドンの絵もあった
・セザンヌ、絵が強い。なんか異様。上手な絵じゃなくて、異様なところが、現代絵画の扉となってしまったのだろうか。本人の意図とは全く違ったのかもしれない
・セガンティーニはスイス人(正確には国籍がないんだけど)だから当然ある
・ホドラー(スイス人でスイスのお札のデザインをしたこともある)も当然ある。死にゆく愛人の絵があって、あー見たことある…ってなった。あとホドラーの変な風景画。
・エル・グレコもあった(いや、チューリッヒ美術館と間違えてる?でもあってもおかしくないよね……)
・フランツ・マルクは名前は聞いていたけど絵とつながっていなかった(青騎士をカンデンスキーらと、みたいな文脈の時に名前がぴょっと出てくる)
・現代アート館もあるけど、本館で「見たことある!」の連発だったので、そっちはちょっと印象が薄いです。割と何度も見たことがあるアメリカの抽象表現主義系の大作とかって、見るほど違いがわからなくなるみたいなところがある
・スイスの画家ってホドラーとかセガンティーニしかわからないと思っていたけど、ベックリンもヴァロットンもスイス出身だった
とにかくたくさん、見たことある絵画があります。
「えーと、これはカラヴァッジョ?」
「あー、違うけど惜しい」
「じゃあカラヴァジェスキ?(カラヴァッジョの画風を真似た画家の総称)」
「なんで知ってんの。そういうのその辺の画商も知らないよ」
「全部YouTubeで見た」
全部YouTube情報。みんなYouTube見とくといいよ。ココシュカ以外は大体カバーできる。
あと本屋で売ってる本。
知らない画家と作品のほうが多いんだけど、勘所だけ抑えておくだけでもだいぶ楽しめました。
前はここにゴーギャンの「いつ結婚するの」という作品があったのだけど、2015年にカタール王室の王女に2.1億ドルくらいで売られて、世界での絵画高額取引トップ10入りしたらしい。
もうない絵の話でさえ、現場に来ると面白い。ないんだけど。
ただ、自然光がかなり入る展示室で、反射で絵が見えない事が結構あった。
こんなに光を当ててもいいものなのだろうか。
日本の美術館の、うすら寒い空間に慣れ過ぎて、こんな西日が当たるなんてありなのだろうか。
と思っていたら、「反射が…」と言ってカーテンを閉める人が。
日本語……。今度は本当に日本語!ドイツ語空耳アワーじゃなくて。
日本から来た人みたいでした。
さて、この日はバイエラー財団→アートバーゼル会場→バーゼル市庁舎→ライン川→大聖堂→バーゼル美術館とてんこ盛りすぎ。
スーパーでいろいろ買って、またドイツの半地下へ向かう。
翌日は、バーゼルを離れてチューリッヒ乗り換えで東のザンクトガレンという街にある世界遺産の修道院図書室を見に行く段取りです。
シーザーサラダを買って、別添えのドレッシングも買ったはずなのに、袋に入っていなかった。だいぶ疲れていたのか。
ドレッシングなしでも十分おいしかったです。
あとナッツタルトみたいなやつと、ルバーブの炭酸ジュース、ハムを挟んだベーグル、スイスの牛乳などを買いました。
お土産にナッツも。全部で4500円くらいの買い物。
この日も睡眠薬なしで眠る。
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つよく生きていきたい。