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きらいな花

子供の頃、身近だった園芸種は、大抵嫌いだ。
なんか分厚いベゴニア、わさわさと薄っぺらい花が咲くペチュニア、ただ赤くてくさいゼラニウム。

チューリップもお行儀よく間隔をあけて植え付けるあのスタイルが、もう見るからに嫌いだった。

小学校の花壇は赤いサルビアとマリーゴールドで、サルビアは蜜が吸えるから許す。でもオドリコソウの方が蜜は多かった。
イチイの実のほうがよかった(のちに種に毒があると知ったが、たまに種もかじって渋かった記憶がある程度でみな死なずに済んだ。死んだのは雪の日に踏切で轢かれた子だ)。

しかし「ひとつだけチューリップを植えていい」と言われた時、黒いチューリップを選んで庭の片隅に植えた。
庭と言っても、実は敷地からはみ出していたかもしれないエリアだったが、田舎ってそういうところあるよね。

ひとつだけ植えた黒いチューリップは、一輪だけ黒い花を咲かせて終わった。
あんなに楽しみにしてたのに、パッケージの花とはだいぶ印象が違うものだなと朧げに思った気がする。でもチューリップの咲く時期は、桜に毛虫(アメリカシロヒトリ、通称アメシロ)がつくので、容赦なく消毒を大規模に行うために、子供は家にいなさいと言われることが多く、朝の早い時間だけ黒いチューリップを見ていたかすかな記憶がある。

なんで黒にしたのか。
珍しかったからだ。
あと、ちょっときれいだと思った。他の赤白黄色は、あまり魅力的ではなかった。
野菜みたいな質感がした。

好きな花を選ぶ時、嫌いな花、趣味じゃない花がどんどん出てくる。
子供の頃身近な園芸種は、どれも嫌いだ。
センスのない植え方しかなくて、つまらなかった。
さらに、いきなり菊造りをやらされたけど、意味が分からずすべての作業に全く説明なく「これをやれ」とだけ言われてクラス全員で作って並べるというのも、超つまらなかった。
途中で茎が折れても、それを並べるのだ。
どんな色が咲くかも選べない。
本当につまらなかった。
田植えと稲刈りの方がよかった。
ちなみに一年生の時はイナゴ取り遠足がある。イナゴは家に持ち帰って、食う(ように親や祖母が佃煮にする)。

チープな園芸種は、そんなつまらない子供時代を思い出す。

かと言っておしゃれにしまくったアレンジメントを見ると「あらあら、はしゃいじゃって」という気分になる。結局薄っぺらい感じがする。

食えない植物はつまらないな、と思う。

が、世界的園芸ブーム(ステイホームの煽りを受けて)に、私も乗っかってしまった。
いそいそと、秋の球根を選び、ストレリチアに花芽が出て喜び、ビカクシダが子株を吹いて慌て、毎日胡蝶蘭の根を眺めている。

もちろん食える枠で、イチジクやローズマリーなどもあるけれど。

なかなか枯れないというミントと、アイビーをそれぞれ枯らしてしまったりもしたけれど。

嫌いな園芸種とも仲良くなってきている。

目下、この冬の球根水栽培のアレンジに心が奪われている。ヒヤシンスに加え、ムスカリ、水仙、原種チューリップ、そして嫌いな園芸種チューリップを……選ぼうとしている。

つよく生きていきたい。