「最高の人生」なんてものはない

「一度きりの人生だから、最高の人生を生きたいと思ったんです」

夢を叶えた系インタビューによく出てくるフレーズ。
それに、いつも違和感があった。

最高の人生とは、なんなのか。
そんな雲をつかむようなものを目指すなんてどうかしている。
そもそも「最高」とはなんなのだろう。他人から教えてもらった最高という事か、自分が選んだ最高という事か。
それのどれも、本当に最高なのだろうか?

わたしは、しいて言うなら、最低の人生を回避することしか頭にないくらい追いつめられていた時に、やっと自分の人生を探すカギが存在することに気づいた。

それまでは、ぼんやり「最高の人生」なるものを夢見ていた。
でも、そんなものが早々に打ち砕かれ、最悪を回避するしか生き残る道がない状態になって、やっとどこにあるかわからない最高の人生なんかよりも、目の前の金のなさを何とかするしかないと右往左往始めた。

それがいいとか、悪いとかいう話じゃない。
という考え方もその時に実感した。

口ではいくらでも言えるだろう。
そういう生き方本を読めば何度も何度も書いてあるだろう。
それでも、いいか悪いかで判断し、つまらない毎日を過ごしている。つまらなくても安全で清潔な生活を。

でも、本当に自分の人生なんかあるのだろうか?
それは最高とか最低とか、そういうなにか優劣みたいなものがあるのだろうか?
自分では最高の人生だと思っていても、実際一歩引いたら、この世界に厄災をまき散らしていたという事だってあるだろう。果たして、今後もスティーブジョブズは今のような名声を保っていられるだろうか?100年後に世紀の大悪人になっていることだって十分にある。

あいつがいたから、AIが飛躍的に進歩して、世界がこんなふうに!

なんて罵られてるかもしれないし。

最高の人生を生きるっていうのは、いいと思うけど、そんなの無理だとも思っている。誰にとって最高なの?自分にとって?それで結果として世界を闇に突き落としても、何人も人生を狂わせてひどい事にさせても?
うまくいく可能性だって、そりゃああるけど、それは同じくらいうまくいかない可能性もあるという事だ。可能性とはそういうものだ。

正直、人生観というのは人それぞれでもある。宗教的に裏打ちされたものも多い。自分の経験や知識だけではあがなえないスケールのものだからだろう。

それでも、「最高の人生を生きる」というのは、非常にしんどいと思う。

そして、それを言う人に振り回されるたいして才能のない人たちは、おしなべて不幸になる。
パワーのある人の言う最高の人生というのは、パワーがある人にしか叶えることができないから。パワーもない、金もないし体力もない知識も思考力もないセンスもない人間が、副業でちょっと金を稼ぎたい程度に思って手を出すケースが多いようだけれど、それは見るからに相手を間違えている。
やけどで済めばいいけどね。

追いつめられた人ほど、雑誌の裏にあるような安っぽい風水グッズを買うのです。うちにもあった(そういうグッズで商売するのは儲かるんだけどお客さんが死にそうに不幸な人ばっかりというのが一番怖い)。

本当に必要なのは、それらのグッズを買って、そして捨てる事だ。
本気で欲しいと思ったものを捨てるとき、最後に「その意志」だけが身体に残る。

同じように、最高の人生なんてものはない。
そんなものはさっさと捨てる事だ。
捨てて、「これが私の最高の人生そのものだ」と散らかった部屋を見回す。

その時にぞっとするなにかが、肺の中を満たす。

そうだ、それこそが私の最高の人生だ。

都心のタワーマンションでもない、郊外の美しく穏やかな自然の中でもない。
高価な家具もないし、散らかっているその部屋こそが。
誰のものでもなく、わたしのもの。

苦痛も、欠点も含めて、わたしのものだ。誰一人盗む事も奪う事もできない。

わたしは誰のものでもない。そこにしがみついている。それは些細なことなのかもしれない。成長過程で何か違和感があってその代償行為なんだよと訳知り顔に人がいうだろうけれど。だとしてもそれがなんだ。

最高の人生なんてものはない。
そして、自分の人生というものも、本当はないのかもしれない。

でも、今、自分がこの身体にいれられ、この時代にこの年齢でこの場所にいるという事くらいしか、頼るものがない。
その頼りないものにすがって、最高の人生という幻を追い求める事が幸せという人もいる。というだけの話だ。

頼りない体とこの時代にこの年齢でいる、という事が、自分の人生のたった一つのカギなのだ。

わたしは、その頼りないものにすがって、「100m世界記録は出せないけれど歩いて100m先までいく事はできる。これはわたしのものだ、誰もわたしを盗むことも所有することもできない」と叫ぶ。この痛みも悲しみもわたしのものだ。

それこそが私の人生だ。最高の人生だ。

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