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イングリッシュブレックファースト、フル

私のヨーロッパ観は、クリスティ作品の翻訳から来ているものが多い。

その中で神経質で料理にもうるさいベルギー人探偵ポアロが、田舎の金持ちの屋敷で期待していたイギリス式朝食が出てこないと言ってぷんすかするシーンがある。

去年、ヨーロッパに行くことになって、ホテルなどを調べていた時に「朝食はコンチネンタルスタイル」というのを見かけて、何だろうなと思っていた。
コンチネンタルとは、大陸風という意味になるから、ヨーロッパ大陸ってことだろうか?広すぎない??
コンチネンタルブレックファーストは、バターやジャムをそえたパンとコーヒーか何かの飲み物のことらしい。
シンプルっていうか……。仰々しく名前を付けるレベルではない。パンとコーヒー(または紅茶、オレンジジュース、牛乳)。

それに対して、イングリッシュブレックファーストは、量が多い。品数も多い。それぞれはシンプルに焼いただけって感じだけど、旅館の朝食のようにいろんなものが何種類も皿の上に載っているととても嬉しい気持ちになるけれど、そういう感じらしい。

なので、大陸出身のポアロがイングリッシュブレックファーストに期待して、ワクワクしながら朝の食堂にいったら、ちょびっとしか料理がなかった時にガッカリしてぷんすかしちゃったのは、旅館でシンプルでも納豆と卵焼きとおひたしに海苔に味噌汁、梅干し、そしてホカホカの白いご飯を想像していったら、パサついたロールパンと6Pチーズが置いてあった時のガッカリ感に似ているのかもしれない。

イングリッシュブレックファーストは、日本の旅館の朝食のように、これがなくてはイングリッシュブレックファーストとは言えないよねみたいなものがあるという。

・ベイクドビーンズというトマトであまじょっぱく煮込んだ白いんげん豆
・かりかりベーコン、またはソーセージ、あるいはその両方
・炒めたり焼いたりしたマッシュルーム
・焼いたトマト
・なんらかの卵料理(目玉焼きでも、スクランブルエッグでも)
・薄切りのトースト
・ブラックプディング(ブタの血を使った料理)
・ミルクティー

バターやジャムは、佃煮や海苔のようになにも言わずについてくるべきという思想があるらしい。(佃煮も海苔もただじゃないんだけど)

こういうやるをフルラインナップでそろえると、フル・イングリッシュブレックファーストというそうで。
フル・イングリッシュブレックファーストの場合、ジャムはマーマレード必須。

ベイクドビーンズがだばだばに皿に溢れただらしない庶民的なイングリッシュブレックファーストから、気取ったホテルのおしゃれで豪華なイングリッシュブレックファーストまで、とにかくイングリッシュブレックファーストスタイルはイギリスにおいて重要らしい。
イギリス人にとっても重要だし、外国からの旅行者たちも、ポアロのようにイングリッシュブレックファーストを目指してくる。

なんなら、数年前にロンドンで流行ったというイングリッシュブレックファーストうどんなるものまで。
うどんに、目玉焼きとベーコンと焼きシイタケ(マッシュルームのアレンジという意味らしい)が乗っていて、バターをのせるらしい。
普通においしいだろうなって思う。焼きトマトが乗ってもいいだろうし。
やはり炭水化物にそえるものは、うどんだろうがご飯だろうが、結構いけるということなんだろう。

そんなことを読んでいたら、やっぱり自分でも食べたくなり、ベイクドビーンズとブラックプディングを抜いたものならすぐに用意できるから、キノコとトマトと卵、ベーコンあたりを焼いて、ミルクティーとバタートーストと共に朝食にした。
ほぼ、昼食。

アッサムをギュッと濃いめに淹れて、ほんのりお砂糖を入れた牛乳を全体の1/3くらいになるような量でレンジでちょっとだけあたためて、そうやって作るミルクティーがなかなかいいです。
マグカップで飲むのが、英国式の本寸法らしいです。すべての階級で。
さすがに、バッキンガム宮殿ではないと思うけど。

イギリスのことは、全然知らない。
くまのパディントンがマーマレードが大事な事を教えてくれ、つばめ号とアマゾン号で種入りケーキ(シードケーキのことらしい)となにがどうあってもお茶には牛乳が必要な事は教えてくれたのだけど。

そして、ポアロがイングリッシュブレックファーストがないと言って機嫌を損ねる。

私の英国は永遠に、物語の中なのかも。

つよく生きていきたい。