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取説に打ちのめされる

資生堂のマジョリカマジョルカという低価格帯の化粧品ブランドがあるんだけど、先日そのリキッドライナーを買いました。
そして、その説明書きに、激しく打ちのめされることになりました。

化粧品に興味のない人に説明すると、リキッドライナーとは、アイラインをひく化粧品の一種で、液状のものです。形は筆ペンのようなものを想像してもらえばぴったりです。これで、眼のふちにラインをひいてくっきりした印象的な目元にするのですね。
リキッドの他にも、柔らかい芯の鉛筆のような形のペンシルライナーなどもあります。

使い方といっても、化粧慣れしている人なら説明をされるまでもないものですが、このリキッドライナー(商品名はジェルリキッドライナー)、それこそペンのように後ろにカチカチとノックするボタンがついていて、1回カチッとするとほのかに、2回カチカチッでくっきり、3回でもっとはっきりみたいな商品でした。

こういうリキッド系の化粧品は、使う前によく振らなくてはいけないものが多いのですが、このアイライナーもそうです。日焼け止めのように、カチャカチャと振って液を均一にするひと手間が必要なのです。

でもやっぱりこれらも、化粧慣れしている人にはどうという事のない一連の流れです。
でもですね、ふとボディに書かれた注意書きを読んでみたのです。

よく振ってからキャップをとり、ノックしてお使いください。

これを見た時、わたしには衝撃が走りました。
なにが?
いいですか、これはとんでもない事です。

最小限の文字数で、的確に使い方を説明した上、NG行為を全部封じています。
すごい。大企業凄い。資生堂すごい。コワイ!

なにがそんなに怖いのか。

まず化粧品のボディに印刷できる文字数なんで限られています。その上、絶対書かなきゃいけない事も法律で決められているので、さらに使い方の説明なんか書いている場所が削られます。
今回のこれも28文字(句読点含む、濁音半濁音は一文字とする)。

ここで、使い方のステップを間違いなく伝えています。
まず振って→キャップを取って→ノックして、アイラインをひこうね、と。

同時に!
やってはいけない行為を、全部封じています!!

・振らずに使う事
・キャップを取って振る事
・キャップをしたままノックする事

これらが全部封じられているのです。

最大の肝は、「キャップを取り」です。
これをあえて入れていることです。

普通キャップ取らなきゃアイラインひけませんよ?
化粧したことない人だって、ボールペンならキャップ取るでしょ?
そのくらい当たり前の事じゃないですか。
それを、ただでさえ文字数が限られている中にあえて入れている。それには、その「キャップを取り」というステップを挟むことで、すべての「これはやらないでねー」という行為を全部封じる事ができるからです!!

試しに見てみましょう。
「よく振ってから、ノックしてお使いください」
これだって、まあ通じます。振るのね、ノックすると液がでてくるのね、と。
でも、キャップを取りを挟むと、様子が全く変わります。
「よく振ってからキャップを取り、ノックしてお使いください」
手順がはっきり見えます。
キャップを取る前に振らなくてはいけないのだな、キャップを取ってからノックするのだな、と。同時に、やってはいけない事がすべて封じられます。やることを提示されると、人はそれだけを考えます。やってはいけない行動をする選択肢が浮かばなくなるのです。

これかいた人天才だよね。
職人といった方が良いのかな。マイスター!親方!
社内にそういう専門的なスキルを持っている人が絶対いるはず、だって資生堂だよ?そのための部門に超優秀な人を山ほど抱えているはずだよ。
大企業凄い。絶対勝てない。

行動心理学とか、細かな調査とかABテストとか山ほどやってるに違いない。皮膚生理学以外にも、こういう説明文に関する認知行動心理学とかは絶対取り入れてる。

プチプラコスメとか言われているけど、28文字に大企業の底力を見せつけられて、打ちのめされています。

神は細部に宿ると言いますが、神はなかなか見えないのです。
見えないからこそ神。
この28文字の「キャップを取り」の7文字に、わたしは人間における神の存在を見たよ。天才だよ。たったそれだけで、ここまで的確に人を動かすんだよ。ありえないよ。もはや怖いよ。
資生堂に政権演説の原稿書いてもらうといいよ、とんでもないカリスマ政治家になれるよ。

まあ、こうやってですね、普通に手に取れる商品や、コンビニの品ぞろえなんかを見る事で、大企業の持つ技術を推察することで、自分のビジネスにも反映させることができる他人様ビッグデータを常に観察しているんですが、まさかこんな些細なところでこんなにも打ちのめされるとは思いませんでした。

すごい。

あと、これ色だしがすごい絶妙ですよねー。
今回は紺色を買いましたけど、パープルグレーもあって、他にはない絶妙な色と、それなのに奇をてらっている訳でもないという、ほんと、大企業の裏側にいる天才の存在をつくづく感じます。

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