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ござの日2024(東京編・大阪編)感想文

 2024年5月3日 「ござの日 2024」in東京 。そして6月7日in大阪。ござの日が有人開催になって3度目の初夏で、今年も東京大阪ともに、これぞござさんという好天。東京の会場はあの紀尾井ホール、そして6月の大阪会場は豊中市文化芸術センター小ホール。
 わたしは幸いにもそのどちらも参観してきたので、そのレポートです。しかしいつも書く通り、これはライブに行ったことでマウントをとっているアカウントではありません。一期一会のコンサートを大切に貴重に思うゆえの記録です。
 今回はどちらもライブ配信がなかったため、現地の空気感をお伝えすることを心掛けました。特に大阪は小ホールと小さな箱だったことから、涙を飲んだ方が多くいらっしゃると僭越ながら承知しています。行けなかった方にござさんのコンサートの雰囲気が少しでも伝わりますようにと願っています。
 ただこれもいつも書くとおり、わたしには音楽的知識がない上、大阪のコンサートから2ヶ月以上も経っていて、記憶もやや怪しくなってきています。間違いがあった際には優しくご教授いただけますと幸いです。

1 東京・紀尾井ホール(5/3)

 まずこれは絶対書き残さねばと思うのは5月3日、東京「ござの日」会場だった紀尾井ホールの素晴らしい音響のこと。
 御三家の旧邸跡で緑が多く、歩くのも心地よい四ツ谷坂という美しいロケーションの坂の頂上に位置するホール。5月の抜けるような青空のもと、きっとござさんも、車からこの緑の眺めを楽しんだだろうと推察しながら向かう道々の、木陰が心地よい。色とりどりのパンジーなどの植栽を見ながらの歩幅は狭め。日傘が風に煽られるほどの浜風が吹いて、東京も海に面しているのだと意識した。空の陰影の下の、森(じゃないけど)の出来事みたいなロケーション。

 さて、わたしは遅くに到着したため行列には並ばなかったが、CDを求める行列が凄かったとのこと。そりゃあ『Fantasia』の凄まじさと高い芸術性ときたらもうね…何枚持っててもいいよね?と思いながら、わたしも何枚目かをGET。CDとござさんのサイン、たっぷり用意してくださってありがとうございます(泣)感謝してます!!!
(ござさんファン恒例、名刺交換?で、紀尾井ホールの若いスタッフ様にはご迷惑をお掛けして申し訳ありません)

筆圧!
ピアノじゃないからそんなに力入れなくてもと思いつつ、うれしいファン脳

 それにしても、紀尾井ホール!か な り よかった!ホールの佇まいも音響もすばらしく、こんな素敵なホールをゴールデンウィークに押さえてくださったござさんやスタッフのみなさまには感謝しかない。

看板にも木のぬくもり
ござさん宛の心尽くしのお花がたくさん
YAMAHA様からも

 わたしは2階席だったので発券したとき実はとても残念に思ったのだが、結果的には鍵盤を縦横無尽に動くござさんの美しい指がとてもよく見えた上に反響も時差なく満足する以上のお席。

 葛飾は安定のホームグラウンドで耳が馴染んでいて大好きだし、オペラシティホールではキラキラ音が降り注ぐ夢のような響きを堪能させてもらってどちらも素晴らしいホールだったけど、この紀尾井ホールはピアノ一台のストレートな音の伝わり方という点では頭ひとつ抜けていると思った。ござさんのソロピアノを聴くなら、現時点ではわたしの中で最高ランキングがこの紀尾井ホールだ。音響については個人の好みが大きいから、ネット上の評判に依らず、実際の耳で聴いてみるべきだという学びにもなった。
 たとえば演奏中、1階の方がペンを落とした音が2階まで聞こえたし、ござさんが水を飲んだあと「ふぅ…」って言ったのも聞こえるホールだ。
『Fantasia』を演奏するにはそれだけの響きが必要と信じて、ホールを予約してくださったのだろう。ありがとうございます!
 ともかく紀尾井ホールはロケーション、音響、雰囲気、すべてにおいて素晴らしかったと繰り返しておく。

 逆に、2階席で演奏中スマホ鳴らした方がいて、あれ絶対ござさんの耳には届いていたはずで、申し訳ない気持ちになった。電波抑制されていたのに、アラームって… orz…
 そう年配の方ではなくおそらく公共の意識の薄い方々なのだと思うが、あれだけ素晴らしいホールでのマナー違反はやめてもらいたいし、せめてすぐ切ってほしかった。耳塞いだ(塞いでもござさんのピアノは響くけど)。

2階席からの眺め。音響時差なくバランスのとれたいいいいいい音!!!

 わたしなどが言わずもがなのことではあるが、GW中のホールの使用料は、かなりのお値段がすると推察するが、これは「ござの日」の在り方を吟味したござさんからの、年に数回の最高のファンサービスだと思っている。むろん心地よく響くホールで弾くことはござさん自身にも最上の経験だろう。でもそれよりも、高い音楽性をそのまま観客に届けるという推し様の強い意思を感じる選択だと、わたし自身は思っている。それはピアニストとしての覚悟であり、音楽を愛するファンに対する誠実さだろう。それが象徴する、本当に素晴らしいコンサート体験だった。

 なおピアノはスタインウェイ。D-274(らしい)。ござさんの演奏にフィットする、ふくらみとキレのある素晴らしい音のピアノでホールとの相性も素晴らしかった。

2 豊中市文化芸術センター小ホール(6/7)

 続けてほぼ1か月後の6/7大阪豊中市文化芸術センター小ホールについても一言。
 伊丹空港寄りの立地で駅からも近い会場。わたしのようにその地に不慣れな旅人にもわかりやすく辿りつきやすくてありがたかった。ござさんのファンは海外からのお客様も多いから、そのあたりも考慮してくださったのかも知れない。
 こちらもまた、小さいけれど雰囲気があるホールでホワイエもスッキリと感じよく、大阪の杉材を焼き材にしたのかウォールナット色に塗装しているためか、ホール内もシックで落ち着いたすてきな会場。YAMAHA様が音響機器を設定したというのも信頼できる。
 本編とは関係ないけれど、我が東北にも、こういう気の利いた、そして小さくても土地に根ざしたサステナブルな会場がもっとあったらいいのになどと考えてしまう。そうしたらござさんではなくとも芸術家がたくさん来てくださるのにといつも残念に思う。地方にいることが残念なのではなく、文化芸術を受け入れるリソースが足りないことが不甲斐ないのだ。

サスとシーリング2灯のシンプルな照明

 さて、大阪。小さくシックなホールの真ん中に、やはり小さめのスタインウェイのみ。ピアノが新しいためなのか屋根の内側も外側もピカピカで、ピアノ内部の映り込みがキレイなだけではなく、白鍵黒鍵の照明の反射が後ろの壁に映し出されて、ござさんの手が動くたびにキラキラ動くのが印象的だった。華やかなマホガニーも素晴らしいが、こういうシックなウォールナット色にシンプルな照明はわたしの好みだ。

なかなか絵を描く時間が取れないので、大阪のホテルで翌日描いた記憶スケッチ。

 それから、このホワイエにもフラワースタンドが上がり、ファンとして誇らしかった。きっとござさんも驚き喜んでくださったに違いない。いつも取り仕切ってくださる方々、ありがとうございます!

左 53バルーンもカワイイし、リベルタンゴを感じる情熱の赤が!
右 2段の豪華なフラワースタンドにびっくり!fantasiaカラーもオシャレ。

3 セットリスト(東京・大阪)

 この日のお衣装はいずれも、体にあった仕立てのいい漆黒の三揃(ベストは濃灰)。シャツは真っ白で、濃赤の蝶ネクタイと胸のチーフはお揃い。メガネも髪型もクラシカルな感じでスッキリとおしゃれさんのいで立ち(事務員Gさんに感謝)。
 東京と大阪を交えながら、セトリ順に振り返る仕立てで感想を書く。東京の振り返りの後、大阪の感想を書いていく所存。

①リベルタンゴ

 1曲目としてこれほど相応しい演奏はない、ものすごいアレンジのリベルタンゴ。この難曲を初めに持ってくるという演奏者様の強い意思!かっこよすぎる。今回のコンサートは、東京も大阪もCDの曲順そのままだったのだが、このセトリの曲順は相当練られていたから必然の構成なのだろう。 

 ござさんの個性、強み、独自性を強く強く感じる演奏。抜群のリズム感と信じられないほどの音数をもって迫ってくる圧倒的な演奏。展開も情熱的で、ござさんがラテン音楽のありようを深く自覚しながら弾いている説得力がある。
 1周目から早い3.3.2。左の和音に右手はシンプルにスタート。やがて右手が和音を分割?し左手のベースの跳躍がすごくて引き込まれる。転調し、長調入れつつ左手も和音分割?してクラシカルに。
 やがてベースが単音の迫力を響かせる3周目は、日本人離れしたラテンのリズムを刻みながら右手のレガートさと調和していく。レガートなメロディは弦楽器のように情熱の尾を曳きながら盛り上がり、トップスピードになるころには右手がトレモロを効かせキレの良い左手を牽引しクレッシェンドしてサビへ。
 ベースが三連符でどこまでも下がっていくあの堂々たる大サビの凄み!本当に、ござさん…なんて人なの…
(CD発売時の感想文は下↓のnoteを参照ください)

 わたしはいつも座席運がなく、これまでござさんの指を生でじっくり拝見することはなかったが、この紀尾井ホールでは本当によく見えた。リベルタンゴのあのリズムを刻んでいながらどこまでもきれいな指遣いは、まるでアニメを見ているかのようで現実とは信じられないほどだった。リズムを刻むベースのキレを上げるのに手を跳ね上げるときの無駄のない動きにも驚いた。

 大阪のことも少し書こう。スタートはCDより気持ちゆっくりのテンポ。1音1音をじっくり響かせるような感じで跳躍も指周りも丁寧で調子のよさを感じる。不協和音パートの重低音が響いて心地いい!ござリベルタンゴ最高すぎる。サビ前の腕のクロスが優雅で見惚れてしまう。そこからの大サビは何度見ても鳥肌が立つほど素晴らしい。
 …そんな演奏スタイルの中に、まるで「熊蜂の飛行」を弾いているような部分があって、ああ親方様リスペクトだなと思う箇所が確かにあったことを、ここに記しておく。

②トロイメライ

 何度か書いているが、わたしはござさんがTwitterに上げられた「トロイメライ」がこの上なく好きなので、『Fantasia』に所収されたことも生で聴けたのも嬉しくて仕方なかった。

 まずなんと言ってもリハモパートの、洗練された和音。『EnVision』に入れようか悩んだというだけある複雑で美しいリハモナイゼーションだけど、濁らずに澄んで聴こえるのはどんな工夫があるのだろうか。
 コンサートでは、CD音源に加えてアウフタクトする高い一音が挿入されていて、音は増えているけれど軽やかさは増している印象だった。さらにJAZZパートの色気… ううう、好き。椅子を引く一瞬もあり余裕すら感じられる。
 ラグタイムのウォーキングベースは、THEござ!という安定感。そこに音が積み重なっていき響きを楽しめるのが最高に心地よくかっこいい。しかしそれだけではなく、ござさんのピアノには練られた「間」が充分にあって、わたしはそこに叙情を感じる。
 6月の大阪は、リベルタンゴの満場の拍手に応えるように左手を上げて続けて弾いたのだけれど、前曲と打って変わってハッとするような煌めく音がして驚いた。軽やかなJAZZのアドリブパートはよく指が回っていて、高音をポンと入れる効果的なアクセントも心惹かれた。とにかく完成度が素晴らしく「ござトロイメライ」と呼ぶべきアレンジだと思ったことを付け加えておく。

 ところで、上で引用したCD発売時の感想文に書くべきだったことがある。このトロイメライのCD音源だが、自宅の古いステレオで聴くと、なんとペダルが動く音まで聴こえてきて、本当に本当にいいのだ。ピアノのごく近くでござさんのピアノを聴いてるみたいな…
 普段はiPodで聴いているから気が付かなかったがトロイメライと古時計の音源には仕掛けがあると思うけど、どうだろう。これはござさんからのサプライズプレゼントだと思って、時々古いステレオで聴いている。
(この文章とは何の関係もないが、2011年の震災時、故障してアンプを修理した際に、修理してくださった方から「長く使えばそれだけ音が育ちます。大事に使って下さい」と手紙をもらったのを思い出した。ござさんのピアノの包容力に、またひとつ大切な思い出が育てられた気がするという後日談である)

②' MC①

 MC①については、5月のござの日は多くの方がご覧になっていらっしゃるし、ござさんご自身が見られなかった方への答え合わせのようにしてすぐ後のYoutube配信のトークで自炊を始めた話をされていたこともあり、需要があるかどうかはわからないが、短く書き記すことにする。
 「あ、あ、あ」「(たくさんの方が会場に来たことについて)ござと申します!どの媒体から?知っていただいたのか分かりませんが…配信?」
「先週サントリーホールでジョイントコンサートを行ったんですが、『配信ジャンキー』なのでちょっと早めに終わると『早めだな』と…弾き足りないしまだ体力余ってるなと思っちゃう」
 「(曲紹介)なんだっけ、リベルタンゴは先週サントリーホールでもやって、2年間いろいろお世話になった曲」「トロイメライはEnVisionにも入れようかなと思っていた曲」

 変わって大阪でのMCは、ござさんも客席の近さに気を許して?たくさんお話をされていたような気がする。
 「はいっ配信が始まりました…と言いそうになりますね!」
 「大阪は多分2度め。前はカラフルな照明もついていたけど今回はこんな感じ」「言うて(照明が眩しくて)見えないけど客席が近いのわかる」
「ほぼ毎週配信し続けているのは僕くらい」「本当にファンがいるのかと思っていたがいるんだなと確認」

 曲紹介。
 (次の幻想即興曲は)「ショパンイヤーにはクラシック奏者をうらやましく思っていたから自分なりの表現で」「続けて3曲」「ショパン→オリジナル曲→ショパンで、ショパンサンドイッチw」 
 自分で仰って自分でくすくす笑っているのが本当に楽しそうで、つられて笑いながら推し様のこの素朴でお茶目なトークもまた愛すべき魅力に満ちているとわたしなどは思うけれどどうだろう。
 もちろんいつもの恥ずかしがり屋を発揮して、天井を見上げたり重心を左右替えながら話していらしたけれど、このショパンサンドイッチの話といい、ほっこりと笑わせつつ、ファンの反応を正確にキャッチして反応する天性の愛嬌を感じさせる。少なくともわたしはそう思っている。
 ある方(敢えて名前は伏す)の、激しく同意したツイートに「ござさんの、誰にも追随を許さない強みはピアノの技術やアレンジで爆笑が取れるとこだ」というものがあって、それに通じると思うが、ピアノもトークもメタ認知をもって認知し行動しているのだろう。
 いつかのキャスでも言ったけれど、人を笑わせる…特に言語でなく動きや行動によって人の感情をくすぐるのは一つの才能だと思う。
 ござさんは他者(この場合はファン)のささやかな反応から、ファンがござさんに期待することを察知し、その上でその期待に応えたり、楽しく裏切るような斬新なアレンジをしたり等して笑いを誘うことがままあるのだが、それはメタ認知のコントロールが上手くできていて、しかも結果としての行動が愛嬌に満ちているからに他ならない。
 それはもしかしたら、介護職での経験から認知に関わる学びを深めたことに由来するのかも知れないと推測している。

 さらに、オリジナルの「森の出来事」について何人かからインタビューを受けた話の中で
「インタビュアーにより印象が違う」
と思ったエピソードも披露された。森の中の具体的な情景が浮かぶ曲だと言われる場合と、ふわっとしたファンタジックな曲だと言われる場合があったとのこと。充実したMCだった。

③幻想曲のための幻想即興曲

 サンドイッチのひとつ目のパンに当たる「幻想即興曲」。
 生で聴いて驚いたのは、あの速くて複雑なイントロの一音一音の正確さだ。Youtube動画は何度も何度も見たし、CD音源だって幾度となく聴いて隅々まで知っている。けれどもそれよりも遥かに確かな音がするのだ。跳ねる左手の、鍵盤へのタッチかリリースの工夫なのか…ほんの少しでも音源よりもうまく弾こうと研鑽努力を続けてきた人の、それは音だった。どうしてもござさんのピアノが好きな所以だ。

 あまりに軽やかに華麗に凄技を繰り出すものだから、2周目のメロディを左手が弾く見せ場を見過ごしそうだった。特に左手のベースはなめらかな動きでびっくり。変わってボサノヴァパートはうっとりと心地よく、全く無駄のない動きでいて音のキレがよく、暗闇メモには「音のキレ」と何度も書いてあった。

ここから速度を上げてラストに突入するのだが、1本動画ではラスサビ直前に一瞬の間があったが、それを無くし、勢いそのままに最後に突入するという大技を見せる。キメが決まりすぎて心地よいカタルシスに包まれる感じがする見事な一曲。

ゆうかげnote「ござさん2ndアルバム『Fantasia』とすばらしき『ござ式』(感想文)」より引用

 さて大阪では、弾き始める前に、シャツの袖をちょっと引き上げて、おもむろに演奏に入った。
 あの爆速のイントロで手首を返す余裕があって、ここまでの練習量を推察できる。
 ボサノヴァパートの優雅さからほんの少しだけテンポゆっくりめで、一転してサンバへの切替時には間を充分にとったのちに一気に加速してトップスピードへなだれ込む緩急の心地よさ!
 いつもより客席が近いせいか、ござさんから緊張感は感じるが、その中でも弾けるイメージトレーニング、セルフコーチングをしてきたのかも知れない。それほどまでにあらゆる側面から準備を怠りなくしてきた自信に溢れていて、感動的な幻想即興曲だった。多分わたしは生で3回は聴いているはずだが、一番感動したのはこの大阪だったかも知れない。
 曲直前にMCで「続けて弾く」と仰っていたから、本当は拍手が鳴るべきではなかったかも知れないが、幻想…の出来のあまりの素晴らしさと、近くで見られた感激からか、観客からは大歓声と大きな拍手が起こり、ござさんも立って深い深いお辞儀を何度もされていた。むろんわたしも精一杯拍手を送った。コンサートはそうあってはならないと思う方もおいでだろうけれど、ともかく演奏の素晴らしさを讃えずにはいられなかった。生のコンサートの醍醐味であるということでご容赦願いたい。

④森の出来事

 CDのブックレットにも「気まぐれな曲」とあり、東京のトークでもそう仰っていたけれど、気まぐれというにはあまりに前後のクラシックと相性抜群の「サンドイッチの具」の役割を果たすオリジナル曲「森の出来事」。

 不安定さもまた可愛らしく、ゆったりと緊張せずに弾いてるござさんの雰囲気もよい。
 三拍子にゆったりと心がほぐれていくのは、タメや間が充分で奥行があるからなのだと思う。エラちゃんのキャスに滑り込んで話した通り、間というのはお客さんと自分への信頼感がないと取れない。一方スピード感あるパートでは、気持ちよく弾いている感じがありありとあった。妄想癖のある人間には、ござさんという森の中の散歩を許されている気持ちになってしまうが、それはきっと「音楽が好きな人」への、ござさんからの絶大な信頼感を感じるからだと思う。

 大阪も同じなのだが、弱音の優しさ、可愛らしさがより練られつつフォルテとのメリハリがくっきりしていると思いながら聴いていた。穏やかなワルツは、コンサート中の癒しそのものだし、ショパンにサンドイッチされずとも、1曲単独でも、別の曲にサンドされても、一本桜のように存在感ある癒しを今後のコンサートでも提供してくれるに違いない素晴らしいオリジナル曲だと思う。

⑤Chopin Syndrome

 通常配信を見ても、クラシック曲ひとつひとつを徹底的に練習したのだろうと推察できるが、ともかく圧倒的な完成度だった「Chopin Syndrome」。
 YouTubeの一本動画の配信タイトルでは、謙遜もあったのかもしれないが「難曲」と題していたこの曲を、このコンサートにおいて難なく軽やかに弾いてらっしゃるござさんのプロとしての覚悟に、まずは敬意を表したい。

 一曲一曲が難曲のショパン。22曲もあるのだから軽く流し弾きして核となる数曲を頑張ればいい、とわたしのような素人は考えてしまうが、きっとござさんはどの曲にも丁寧に向き合ったに違いないと思える目くるめく演奏だった。例えばわたしだけかもしれないが超高速「マズルカ」が本当に美しく、「仔犬のワルツ」はくっきり感じて印象的。なだらかに優雅に22曲が繋がれていたと感じた。それそのこと自体がタイトル通りの「ショパン症候群」だとも言える。
 ござさんがショパンに出逢い直しをして、あらためてその感動をタペストリーにしたと考えると、この7分超の大曲になる必然性が理解できる。

新録音を聴き込むと(略)悲痛さよりも純粋な音楽美をこそ作曲者・演奏者は目途したのだろうという気がする。22曲は、より恋人繋ぎのようにつながり合い滑らかにこなれて、完全にござさんのものとなっているからだ。収まるべきところに収まった安心感すら感じる。
 まだまだ現在の世界的動乱に心痛めているひとは多いだろうし、わたしもその1人であるけれど、この「Chopin syndrome」の在り方は動乱の是非を語るものではなく、題名そのままのショパンを愛してやまない人の手になる大曲である。

ゆうかげnote「ござさん2ndアルバム『Fantasia』とすばらしき『ござ式』(感想文)」より引用

⑤' MC2

 ここで2度目のMC。東京では、ここで水分補給してからの3曲メドレー。
「(水分補給の時に)毎回後ろを向いて申し訳ない」と流石に気配りしすぎのトーク。「(幻想即興曲はその魅力を)わかってもらえる仕掛け。」「次の『森の出来事』はふんわりな雰囲気で秒で完成した気まぐれなイメージの曲。」と前の曲解説のあと、次の曲解説を「3曲メドレーの中にフリータイムを入れて、通常配信風に」との説明があり、会場は大いに沸いた。ライブ配信がないことで自由に弾く時間ができれば、一期一会で「その日その時だけの演奏」に出会えるという期待感が会場をどよめかせている。
 「覚えられる情報が限られている」と謙遜し、「空の陰影、悲愴、大きな古時計」とメドレー3曲を紹介しようとして、
「…あれ?」
となり、曲名を思い出せない!というタイミングで、袖からスタッフさんが舞台に出ようとするのを、両手をパッと開いて一生懸命押し留めるポーズで
「大丈夫だいじょうぶ!…えーと… あっ、思い出しました笑」
というのも、めんこい。 ライブに慣れてきた感があり頼もしかった。

 一方、大阪のほうはもう少しくだけた印象のトークの印象。前の曲を弾き終わりマイクを持つやいなや
「そんなこんなで…」
とおっしゃるから、めんこい。 会場から笑いが起こった。お馴染みの慣用句を入れて、配信中のトーク同様、さりげなくがんばりすぎぬMCにしたいのかも知れないなと想像する。
 「そろそろカンペ卒業したい」「ピアノでアドリブするようにトークもアドリブになるやろ精神で」笑
…と、そこはかとなく関西弁的語彙を入れてくるあたり、お茶目とセンスが同居している。
 「東京で言った自炊、頑張ってるんですよ!急に話題変わりますが」
確かに急に話題が変わってw、自炊に凝っている話。
「4月22日、牛タンとシメジを焼いたのからスタート。何で覚えてるかというと写真で記録してある。一昨日はついにスパイスカレー作った」
で、会場から大きなどよめき!
「今はレシピが(世の中に)いっぱいある。平成初めは(年齢非公開だけど)オレンジペー◯とかに付箋だったが、今は動画があるから」「(自炊を)がんばりたい」
そんなフツオタ?的なおしゃべりがござさんから聞けるとは!うれしくて前のめりに聞く人多数。

 「確かね!東京では空の陰影、悲愴、大きな古時計のところでタイトルを忘れそうになった」「3曲続けてメドレーみたいに弾ければ」
と言い終わったところで安心したのか、
「空の古時計…」
と言いかけたから会場は爆笑の渦。大事な、曲への入りを笑いで邪魔してはいけないと承知しつつ、ござさんがおかしいなーというように、首を傾げながら天井を見上げて腰掛けるまで会場の笑いは止むことがなかったけれど、ござさんはピアノの前に腰掛けた瞬間もうピアニストの顔となり、ふぅ…と深呼吸ののちすぐにメドレーに没入していった。

大阪豊中市での一場面(恒例の暗闇メモをご参考までに)

⑥空の陰影・⑦大きな古時計・⑧悲愴(メドレー)

 このメドレーが実にござさんらしく、東京でも大阪でも魅力的だったことは特筆していいと思っている。

 東京では、「空の陰影」からスタートし、「糸」「春よ、こい」「少年時代」をござまぜにしつつ「大きな古時計」「悲愴」へ。よく響く紀尾井ホールに相応しい、落ち着いていて美しいアレンジ。
 わたしは「空の陰影」が好きなのだが、それはメインフレーズの伸びやかに上がっていくメロディが、反転して下がるメロディに移り変わるところに、シンプルで幾何学的な美を感じるからだ。CD音源よりもベース音が響いてきて心地よい。
 移り変わる空のイメージの中に、CD音源にはない「ピチョン」と雫の滴る音を効果音のよう入れ込む演出付きで、包まれるような優しさを感じた。
 そこからキラキラふりかけで繋いで「悲愴」へ。ござさんの「悲愴」は、下支えするベース音が好き。IIーⅤで下がるところ、あまりに手がよく見えてうっとりしている中、ごく自然に「糸」「春よ、こい」が顔を出す。春先の、万物の命の巡りを感じさせるメドレーにベース音が冴えていた。そこから「少年時代」にいき「悲愴」に戻ってから「大きな古時計」。
 音が抜群にいいホールで美しい指遣いが全て見える座席で目の前に生のござさんがいらしたら、メモなんか取れるわけがない(開き直り)。

 次に大阪のメドレーだが「空の陰影」の優しくて深いシンプルな左手ベースが響き、心地よい。雫の音も入り、美しく儚いpppから静かに聴かせる「大きな古時計」。1周したところで「青春の影」。 
 おそらく「影」つながりなのだが、それはそれは切なく美しい繋ぎで、東京のメドレーとも違ってセンチメンタルな曲…から徐々に高まっていき、イキイキと弾き出したのは「田園」。ここにまた「古時計」が混ざる。
 「古時計」のチクタク…のところ、CD音源よりYoutubeエンドロールに近いアレンジで、ストライド奏法からオールドジャズのかっこいい「古時計」へ。
 ここまで聴いてから、「大きな古時計」が「蛍の光」や「Danny boy」の位置付けに近く、そのコンサートによって味付けが変えられる曲になってるのかと得心した。「青春の影」、また「田園」…と振り返りつつ、最後に高音で切ない「古時計」からの「悲愴」。「悲愴」の軽やかさが増しているのは、少しパワーコードにしたのかと思ったが違うだろうか?その分ベース音が素晴らしい音量で響いていた。

 曲が終わった後
「メドレーの順番が変わり、結果、『空の古時計』になった」
と会場を沸かせたござさん。メドレーの順番が変わってすらあの輝くような演奏!田植えの時期だから「田園」を選んだ話もされていたけれど、実に楽しそうにいきいきと自由に弾いていらして、聴いている側も満足度が高かった。
 配信のないこのスタイルの良さはなんといってもこのござさんの強みである即興アレンジがライブで堪能できる一期一会のかけがえのなさにある。様々なご事情でライブに伺えない人がいらっしゃることは充分に承知しているし、わたしとて全てのライブに行けるわけではないけれど、ござさんが選ばれたライブスタイルの意味を感じる素晴らしいメドレーだった。

 東京ではここでMCが入り、自炊の話。
「ピアニストは手が大事というのを隠れ蓑に、これまで自炊してこなかったが、あるインタビューでシリアルに牛乳をかけてますというのを自信満々に言ったが、帰ってきてから恥ずかしくなった」
「シンクスペースが狭い。フライパンや包丁、まな板を買った。調味料も使い切らないとと思っている。(拍手を受けて)みなさんのおかげですくすく成長しました!」
この最後のトークにはあまりにめんこくて満場の拍手。すくすく育ったというこの実直な素朴な超絶技巧を持つピアニストのことが、このホールにいる人もいない人々も、本当に好きなのだということへの賛同の拍手だった。

⑨ミックスナッツ


 大阪で「次の3曲で終わり。僕的に大変な曲が続く」と言ってから始めた「ミックスナッツ」。もちろん東京でも「ミックスナッツ」と次の「Tank!」が地続きとなっていて驚いた!自炊効果なのか、ここまでこんなに弾いてきたのに体力に余裕がある気がした。
 ともかく、今やござさんの代表曲の一つがこの「ミックスナッツ」だと思っている。

ヒゲダンメンバー様たちの超絶プレイを再現するに当たり、ござさんは裏メロを入れつつハードワークの2台の弦のラインを一曲まるまる弾いている格好になっていて、ござさんのリミッターまで外れた一曲なのだと言える。イントロからして、右手と左手のインのタイミングがほどよくズレるアウフタクト?が効いていて、1人で弾いているとはとても思えない演奏になっているのだ。

ゆうかげnote「ござさん2ndアルバム『Fantasia』とすばらしき『ござ式』(感想文)」より引用

 ヒゲダン様、特に作曲者である藤原聡さんのおかげで、「ござミックスナッツ」がこうして世に出たことがファンとしては歓喜すべき出来事である。本当にありがとうございます!
 その演奏たるや、300を超えるトップスピードを保ちながら一音をゆるがせにせずどの音も聴かせつつグルーヴのある演奏!こう書くとまるで矛盾することばかりなのだが、それを鼎立させるござさんなのが本当にすごい。
 そして、どんなに辛い日があっても疲れていても、「ござミックスナッツ」を聴くと途端に気持ちが上がって元気が出る気がする。演奏者様自身のワクワク感が、音波から伝わるのかも知れないと真面目に考えてしまうほど。
 東京ではござさんには本当に珍しくちょっと弾きちがいがあったが、あれは指が回りすぎていたためで本当に素晴らしいミックスナッツだった。
 大阪では鍵盤がやや重ためなのかも知れないが、スピードは落ちずメリハリがあって軽やかで、アウフタクトのバランスもよかった。
 圧倒的な力量を感じる「ござミックスナッツ」。これからさらに聴き込むファンが増えることは間違いないと思っている。

⑩Tank!

 そして間を置かず…大阪では「ミックスナッツ」に続けて「Tank!」
 コンサート曲が、全てガチ曲になりがちなのを反省した過去配信回があったように思うが、この「ござの日2024」こそ全てガチ曲だろう。

 正確無比のリズム感がこの「Tank!」でも存分に発揮される。ピアノ一本とは思えない管楽器のタンギングを感じる音のキレの良さ、音圧を生むとんでもないスピードの左手オクターブのベース音、リズム隊がいるかのようなグルーヴ… というか右手の暴れ具合よ!「いい演奏」だけに収まらない、なんという冒険心!なんという挑戦!こんなことしか書けない語彙力が悔やまれるほど、これでもかと詰め込まれたござさんの超絶技巧。
 しかも長めアドリブがクールでかっこいい!アドリブは即興ができる喜びと天岩戸も開くに違いない楽しさに溢れていて、本気度Maxで、JAZZピアノというよりもはやJAZZバンド。
 YouTube動画に収められた2度の録画とCD音源、繰り返し演奏しているのにすり減らない「Tank!」へのストイックな熱い思いが伝わる演奏だった。

⑪そして鐘が鳴る

 2022.5.3に初めて演奏されたときの「そして鐘が鳴る」は、中盤ござバンドが入った(つまりソロではなかった)にも関わらず、ござさんの息が上がるほどの激しさだったのを覚えている。
 「ござの日2024」のラストを飾る「そして鐘が鳴る」は、東京も大阪でもナマ(色の付かない)照明の中で、ピアノ一本で聴かせながら、フィジカル面でもメンタル面でも逞しくなり、2022年よりも豊かに弾くという強い意志を感じる演奏だった。この2年間、配信でもキャスでも一度も弾かなかった「そして鐘が鳴る」は、今のこの充実度のための充電期間だったのかとあらためて得心した。
 Aパート1周目の平時の鐘は、何か開放されたような音色を感じたし、和音の鐘も素晴らしい音量だった。やがてBパートのトレモロ、Cパートの軍靴のような保続音は、Fの音を残す効果が絶妙だった(たぶん)。そして大サビの鐘!ござさん、あの細身の体を全身使って全力で弾いていらしたのがよくわかって、震えるほど感動した(東京では途中で近くの観客のスマホ鳴ったけど!)。
 大阪、鐘のフレーズのその時々の変化を感じ取れた。不穏さ、葛藤、哀しみ…あらゆる感情を表現するその時々に、鐘は鳴る…リアリティある叙事詩で、本当に素晴らしかった!
 長い間を充分にとって鳴らす最後の鐘は、細い腕や指から生み出されているとは信じ難い音圧と正確性と強さをもって、堂々と高らかに鳴るのだが、その音は「真善美」のありようを聴き手の心に問う鐘のような気がする。
 ござさんを立って送り出す拍手は止まず、ござさんは三方に丁寧にふかいお辞儀をして袖に去って行った。

⑫アンコール

 東京アンコール。ござさん、登場して深々と律儀な礼のあと、ジャズの美しいリフから、「Lupin the Third ‘80」!!!途中「葛飾ラプソディ」が混じり、「枯葉」w
 このときイヤイヤ秋の曲!と自分にツッコミを入れているような仕草がほの見えたのは気のせいだろうか。「枯葉」から「ルパン」へと戻るラストまで、アドリブもアレンジも素晴らしかった。
 一旦袖にはけたものの、拍手が鳴り止まず、ござさん再度登場。
 「んーーー何にしよっかなー」と言いながら弾き始めたのは「サウダージ」、そしてスローでメロウに「神田川」「わが祖国より〜モルダウ」「My Favorite Things」左手がダバダバしていたのが印象的。
 そしてついに!ついにコンサートで「蛍の光」がw  クラシックスではあるが、コンサートでの蛍は初だったのではないだろうか!w 総計22曲!最後まで心を揺さぶられた「ござの日2024」だった。

 大阪のアンコール時は、ジャケットを脱いでベストで登場。
 三方に深いお辞儀をしてからすまなそうな顔で1、と人差し指を立てて始まったのは「洋楽メドレー」。
 「Hey Jude」「Yesterday」「Yesterday once more」「Close to you」「雨に唄えば」「葛飾ラプソディ」「デスペラード」… を最初は順に、のち振り返りを混ぜつつ。センチメンタルな序盤から、ストライド奏法混ぜてからの高音キラキラの中のデスペラード感動的。深々と三方に何度もお辞儀して、ござさんは去っていった。
 だが客電が点いても拍手が止まず、とうとうござさん再度登場。深いお辞儀ののち座って腕組みしながら考えて… 弾き出したのは「Lupin the Third ‘80」!また歓声がわあっと上がった。
  そしてこのとき多分スタッフ様のご配慮なんだけど、客電が点いたままの演奏となった。
 ところが多分、ピアノの手元より客席が明るくて、途中ござさんは不思議そうに天井を見ていらしたような気がする。俺んとこ照明点いてる?みたいな感じ。
 本当に軽やかにキラキラに、時に切ない「ござの日2024」in大阪、 総計21曲はこうして終わり。
 華やかなフラワースタンドのあるホワイエで、観客はみんな笑顔だった。一昨年アンコールに「そして鐘が鳴る」を聴き、あまりの衝撃に号泣していたあのときと違って…
 「そして鐘が鳴る」は最後にふさわしい曲と仰りつつも、ござさんがアンコールには明るく元気な曲で締めたのは観客の笑顔のためだったんだなぁと気がついたということを付け加えて、稿を終えます。
 最後までお読みいただきましてありがとうございました!

最後までお読みいただいたあなたに(未発表イラスト)

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