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ござさんオリジナル1stアルバム『EnVision』感想文

0 はじめに

 この記事は、今から2年以上前の2021年11月、ピアニストござさんの1stアルバム『EnVision』発売時に、当時のTwitter(現X)に呟いたものを、noteに再編集したものです。したがってnote公開は2024年ですが、書いている内容は2021年11月から12月当時のつぶやきとなっています。

 あれからはや2年以上が経過しましたが、この2年間のござさんのご活躍は目覚ましく華々しいものでした。ピアノの演奏、作曲、アレンジ提供はもちろん、バンドや弦楽とのコラボ、有名シンガーさんのライブへのゲスト出演、大きな野外ロックコンサート出演…
 中でも2023年『ござ式 ピアノ演奏裏ワザの極意』というご本の出版に至っては、著述から校正、図解の下絵等までご自分で手がけ、お手本動画も91本公開するというこだわりよう。ござさんの内にある音楽が、単なる演奏tipsではない、豊穣な果実を実らせていることを裏づけるものでした。

ソロコンサート「ござの日2023」の、会場でのポップアップ。いつでも一生懸命すぎる!
できるスタッフの皆様ありがとうございます!

 さて今年2024年の5月には、そんなござさんの2ndアルバム『Fantasia』の発売が決定しています。まだジャケットも未発表で、収録曲も予定にすぎませんが、ここまでござさんの内なる音楽世界の豊かさを見てきたファンにとって、この2ndアルバムへの期待が高まるのは言うまでもありません。
 これに合わせて、わたしも、かつて自分がぽつりぽつり呟いていた駄文をまとめてnoteに公開しようと考えました。それが遠回りしてござさんの応援になるといいなぁと思っています。
 少し時差がありますので、今の推し様の状況を反映していないこと、時代背景とそぐわないかもしれないこと、またいつも書く通り、音楽素人の感想であることをお含みおきいただいた上で、お読みいただけると幸いです。

1  2021年11月22日(EnVision発売2日前)

 この日は実はわたし・ゆうかげの、中の人の誕生日であった。翌日は勤労感謝の日で祝日のため、「物流上、水曜日に到着することが多い」ことや「店舗に届いたら、祝日前に品出しすることがある」と知り、発売前だけどもしかしたら…と期待して、仕事終わりに大手CDショップに出かけ品出しをしてもらって手にしたのがこの時↓

CDを手にできたのがうれしくてお花も買って帰りました
(X、この先の方向性がわからないためスクショです。以下同じ)
仙台駅周辺のCDショップを3軒ほど回る。写真撮影許可済です。

 もちろん「特典」欲しさにネットで注文していたのですが、既に手にした方のツイートを見て以来、店舗でも推し様のCD陳列を見たくなったのでした。


↓CD発売に合わせたSPICE様の記事。記者の方に感謝の素晴らしいインタビュー。ファンとして誇らしい。

 こうして手にした『EnVision』ですから、次はいい聴き手になりたいというのは、長く楽しめるアルバムを手にしたわたしたちの共通の願いなのではないでしょうか?
 ござさんのピアノに出会って以来、わたしはそう考えてTwitterで曲の感想などを呟いてきました。けれど一つの到達点としての『EnVision』を手にした当時、何人かのファンの方々がTwitter上で1曲1曲の感想をつぶやいたりイラストを描いたり切り絵などの作品にしたりする…というのが、界隈でちょっとした現象になっていました。
 そこでわたしも、全体的な感想ではなく、1曲について呟こう!とトライしたものが、ここからの小文になります。…いや、小文の予定だったものになります。実際は、自分の意思を超えて?なにやら長ったらしい文章となり、Twitterでは読みにくいというご批判をものともせず、12曲語り尽くしたのでした(懐かしい!)。
 今、2ndアルバム『Fantasia』で同じことができるとは思いませんが、2021年当時のござさんの記録として残しておきます。Twitterでは文字数に限りがあり、敬体になったり常体で書いたりしていることや省略して書いていたことなど、読みにくさもありますが、どうぞご容赦ください。

2 ござ『EnVision』Twitterでの感想文まとめ

 繰り返しになりますが、ここからは2021年11月から12月にかけてつぶやいた小文を再編集したものです。

①EnVisionを手にして

 予想だけど『EnVision』 は修正なしの一発録りのように思う。計算され尽くしたアレンジも演奏も過不足なく美しく優しく尊い。でもピンと漲る即興的緊張感があって、そこにわたしは感動したかも。アネモネはYoutube動画のエンディングでしょっちゅう聴いていた癒しの曲だけど、こんなに優しい曲だったなんて…
 偶然ではないと思うけど、月、海、花、アネモネ…に吹く清新の風、と、毎日の単調な暮らしに、巡る季節と芽吹く命を感じさせてくれる曲ばかり。詩的なんだなぁ…豊かな音楽的表現を散りばめてあって、美への志向性がある。ござさんの目指す美意識の高さだ。
 フレーズ、和音、曲そのものが雄弁なのは、音数じゃない。ござさんというクリスタルを通して、光がプリズム化するみたいな感じだ。世界観がある。

②「Goza」表記について

 わたしも有識者のみなさまに倣って、曲目の感想書きたいけど、ともかく素人なのと、あまり時間に余裕がないときもあるので、毎日ちまちま一曲ずつ、ゆっくり感想書こうかな…という趣向。
お時間ある方はお付き合い願えれば。
 まず最初に「タグ」について。
  ツイートの最中に、CDジャケットに「ござ」表記はないんだな、と突然気がついた。「Goza」だ。海外リスナーさんも多いし、ファンもいらっしゃるから…海外も視野に入れていらっしゃるんだな、と。わたしもそれに倣って「Goza」のタグをつけてます。

③ secretbase〜君がくれたもの〜

 あの「ねぴらぼ」で、多くの人の目を釘付けにした、ござさんの代表曲。ござさんとの「出会い」にふさわしいスタート。欲しい音が全部ある演奏だなぁというのが第一印象。
  スローテンポで世界観を作り上げて、それぞれの夏の記憶のスイッチを入れるかのよう。キラキラ✨ふりかけパートが過ぎ、テンポが上がるにつれ、憂いの夏が行き過ぎる。
  このあたりの構成は、歌詞によるのかも知れない。ござさんは、楽曲の背景や歌詞も大事にしていることは前にも書いた通り。なお、別スレで書いたけど、一発録りというのがわたしの読み。鳥肌が立つほどの神演奏だけど、エモーションが緊張感とともに持続する演奏だから、継ぎはぎでは絶対ない。

 間奏の左手跳ねに、ペダルとダイナミクスのコントロールが効いていて、心地よい。あれアドリブなのかなぁ…すごく心地よい。
 別れの夏を振り返り振り返り、大人になっていく2人…ラストあたりの複雑なリハモ、内声は、青春の苦味を内包する優しさを表現しているみたい。
 結局、タイトルの「君がくれたもの」って、短い思い出だけなんだけど、その永遠普遍の記憶に寄りかかって生きてるっていうことが人間にはある気がする。
 あらためて聴くとメロディが美しくて、合唱曲にもなってるって初めて今回知った。ハモリがきれいな合唱曲だったけど、やっぱり苦味のあるハモリだった。
 ある方が、「小さくまとまらずにいいアルバム」というような素敵なツイートしていて、わたしもまったく同感だった。そして、小綺麗にまとまらないで済んだのは、彼が長く「よき聴き手」だったからかも知れないと考える。ござさんの美学を支える多くて長きにわたる「自習」…つまりインプットの部分。そこから学ぶことは多かったんじゃないかと推察する。

④ 月のワルツ

 ③「secret base」でも書いたが、ござさんの楽曲はイントロが抜群によい。「EnVision」発売コンサート(作者注:2022年1月15日)での「月のワルツ」は1曲目。暗転の中でハードタッチのイントロが流れて、それがとてもかっこよく大人っぽい雰囲気のライブにふさわしかったと記憶している。
 むろんCDのイントロもかっこいい。しかもワルツのテンポが、月の魔術に翻弄されるようで、ともかく心地よい。ござさんは心地よいテンポ感を作り出す天才で、聴き手を心地よく酔わせるが、このジャズワルツもAメロの揺れるテンポに身を委ねているうちに一瞬で過ぎ去る曲だ。
 跳ねる左手でリズムキープしつつ、異国情緒ある旋律を右手が歌い、流れるようなBメロのフレーズに続いていく。左手の美しい低音もあまりに自然過ぎて、聴き流されるんじゃないかと心配になるほど。ここまでの2曲は、テンポ感・リズム感がよく、聴き手の心が捕まれるアルバム構成。

 ところで今回のアルバムver.「月のワルツ」はアドリブなのだろうか。ほとんどの楽曲は作り込んだとわたしには思えるのだが、この「月のワルツ」はアドリブの遊びと発見に満ちていて魅力的。いろいろな方にたくさんカバーされているが、ござアレンジは間違いなく、最高位の魔力を持つ「月のワルツ」だ。
 原曲は「みんなのうた」。Wikiを見たら、かわいくも不思議なアニメーションが先んじて「ちょっと怖い」曲となったらしいのだが、ござアレンジはそれを美しい一篇の短編映画にしたような感がある。これを機に、ござジャズワルツが世のジャズメンに演奏される日が来たらうれしい。

⑤ どんなときも。

 説明不要の槇原敬之さんの名曲。ござさんはブックレットの中で「和音によって伝わることは何だろう」と自分への問いを立てているので、ござファンとしてはその問いに対する解への感想を提示したい…
 まずYoutube「どんなときも。」のアレンジ↓

 Youtube(作者注:この楽曲は配信でも何度も弾いていらっしゃるため、この書き方では紛らわしいのだが、要するに上の動画のことを指している)のござさんアレンジは軽やかでジャジーで素敵だが、「EnVision」ver.では動画本編ではなく、エピローグブリッジに使用されているアレンジが基調になっているようだ。
 イントロなしでAメロに突入。まるで俯いて孤独の中歩いているようなスローなテンポにあの歌詞が浮かぶ。「僕の背中は自分が思うより正直かい?」
 Aメロ右手はシンプルなメロディー、左手はそれに沿うような和音を鳴らす上、中間部の分散和音を振りかけている。その代わりござさん得意の低音のベースラインは慎み深く時々鳴るだけ。ときに美しいメロディーとユニゾンする左手だが、不協和音がかすかに、でも確実に耳をくすぐってくる。「追い越せないのは電車でも時間でもなく僕かもしれない…」の歌詞が心に迫る。
 この「どんなときも。」の歌詞に、わたしも救われてきた一人だが、きっとござさんご自身の人生も支えてきた言葉であろうと想像する。その証拠?に、「EnVision 」では全曲中最も難解な和音で表現されている気がする。その美しさには、震えるほどの感動を覚える。
 2番のAメロは1番よりさらにシンプルに。右手も左手も単音。「絶対ゆずれない夢が僕にはあるよ」で目から何かが…
 アルペジオも音が澄んでいて美しいんだけど、右手と左手にやはりちょっとした不協和音は仕込まれている。「消えたいくらい辛い気持ち抱えていても鏡の前笑ってみる」…わー!目から何かが!
 Bメロから転調後、吹っ切れたように、また上を向くように、複雑な和音が提示されきてサビ「誰かを愛しその人を守れる強さを自分の力に変えて行けるように」!!かーーーーー!!このアレンジ構成!!ござさん 神!!

 大サビでは、一歩一歩階段を上がるような贅沢で豊かな和音の積み重なり。人生の苦味も酸っぱさも、深く分厚く重なっていけば不協和音が心地よく感じられる程度に昇華されゆくのかも。こんな和音弾ける左手どうなっているの… エンディング直前、間を開けるんだけど、ここでペダルの具合で音がひずむのよ。
 この、和音がひずむところで感動がひゅっと自分の芯に入っていく気がする。意図したひずみ。そして、最後の最後に、ここまでずっと待ち望んでいた低音ボーン…からのキラキラ✨✨エンディング…完璧!涙腺崩壊曲。
 多くの人がこの名曲で励まされてきたと思うが、ござさんの「どんなときも。」は不協和音のわたしのちっぽけな人生の積み重ねを祝い、濁りすら美しくキラキラふりかけで肯定してくれ、低音ボーンで優しく安堵させてくれるようなアレンジだった。
 こんなんで、ござさんの「問い」に対する「解」になれたかなあ…

 ちなみに、Youtube版「どんなときも。」は軽やかでジャジーなver.でこちらもよい。左手がウッドベースに専念。右手がメロディラインとパワーコード(なのかなぁ)を同時に押さえているようなのだが、ともかく音数が圧倒的に多い。初めて見たときに脳が混乱してえ?え?え?となった。え?え?の結果、ござさんの動画にはまり込んだ大好きなアレンジ。まかり間違ってこのツイにたどり着いたござさん初見さんがいらしたら、ぜひこちらもお聴きいただきたい。

⑥ シチリアーノ

 美しい地中海に浮かぶシチリア島をイメージしながら聴いている(行ったことないので個人の妄想)。アフリカにも近い地中海の要衝の島。ボサノヴァに翻訳されたクラシック曲。品がある。
 「神秘性」を保ちつつのボサノヴァへの翻訳は、本当にピアノ1台かと疑うほどリズム感とグルーヴ感に満ちている。しかも前の曲が「どんなときも。」でリバーブの効いた湿度のある演奏なのに比べ、なんとからりと乾燥したピアノの音!シシリアの風が吹くようだ(知らんけど)。からりとしたピアノ音の底で、ベース音が信じられないほど自由に闊歩している。メロディーに沿う内声はどこかエキゾティックで、遠い地中海に誘われるよう…さらに信じられないのは、同時にずーっとリズムを刻んでいるという点だ。ござさんの驚くべき技巧ここに極まれり…
 ただ、技巧を誇るような自我がウロチョロしたらきっと「神秘性」を保った出来にはならないはず。原曲をボサノヴァに着替えて技巧を凝らしても、「一音の重み」「ロマン派時代の構想」をリスペクトするからこその、このエキゾティックな仕上がりなんだろう。

 ところで、これは書かずにいられないけども、この「EnVision」ブックレットのござさんの解説、名文すぎやしませんか。前の「どんなときも。」もだけど、自分で「問い」「仮説」を立てて最も適切な「解」を探るという、明確な学者の風情を感じる。

⑦ 葛飾ラプソディー  

 ござさんのアニメの持ち曲といえば「Lupin the Third ’80」の方がより有名だと思うが、1stアルバムにどちらかを入れるべきか、ござさんはすごく悩まれたんじゃないだろうか。確か告知一回目までは「ルパン」が予定曲の中に入っていたと記憶する。 
 結果すごくよかったと思っているのは、「葛飾…」のストライドが軽やかで粋で、アルバム全体の中でもちょっとほっこりできるから。この葛飾のストライドは、本当に彼の独壇場と言っていい上、ジャズの盛り上がりを意識したアドリブパートの楽しさったらない。転調もごく自然で、ニコニコ聴いているうちにうっかりすると終わっているくらいの軽やかさ。こういう緩急とり混ぜたセトリの妙にも、ござさんのセンスが光っていると思う。
 何よりござさんご自身が楽しんで弾いていらっしゃるのが伝わってきて幸せになる曲。

↓ 2021.05.18のYoutube配信のルパン、おうち配信の気楽さもあってか、アドリブも入る長めのルパンでかっこよくてアドリブのおかわりもあり、贅沢な一曲で大好き。
 ラーメン以上の方どうぞ。

⑧ アネモネ 

 聴き慣れた優しく美しいメロディー。
 このCD発売前の告知動画で初めて「アネモネ」と名付けられたこの曲を聴いたとき、よく知っている子が美しく成長したのに出会ったような、言いようのない感動があった曲。だからこそ実はちょっと感想が書きにくいのです。知っている子の見慣れぬ横顔なんだもん…
 「アネモネ」はメロディーも和音もシンプルに始まりを告げる。穏やかで静謐。曲の経過と共にその展開によって垂直的に内声や和音が重なっていく。レガートが美しくて、クラリネットかオーボエのための管弦楽曲と言われても納得できる…(←適当)
 素朴なメロディーが、展開していくごとに内声や和音に支えられて麗々しくなっていくさまは、さながら小さな種が、陽を浴びて根を張り、葉を広げ、美しく成長していく1輪のアネモネのよう。しかしエンディングも素朴そのもの。メロディーの美しさを堪能する曲。
 アネモネというタイトルもいい。風という意味のギリシャ語だとツイートしたが、風によって花を咲かせると言われていたらしい。この逸話自体が秀逸。ござさんのピアノが、風に吹かれて広がっていき、それぞれの先で愛されているさまと似ているから。多くの方が言及しイラストを描くの納得。

 ところでブックレットのライナーノーツでござさんは「冬の情景を慈しみ、春先に花が咲く高揚感を」と書いていらっしゃるが、大袈裟に書くと、この変化や諸行無常を受け入れる鷹揚な境地がござさんの通奏低音になっているんじゃないかなと思ってしまう。「風の花」をタイトルにするほどに。
 個人的なことだけど、告知1回目放送からずっと、ござさんの記念絵を描こうと準備していて、周囲のアネモネも描き終わっていたのですが、一足お先にCDを手にしてライナーノーツを読んだときに「咲き誇るアネモネじゃないんだ!」というところにいたく感動してしまった。 「花が咲く高揚感」緑という緑、花という花がわらわらと生きる準備をする、その咲いていく過程もすべて美しい、という生命賛歌なんだなあと思えたわけです。それで、慌てて蕾と葉っぱをたくさん描き添えてこうなったという次第。

告知配信の一コマをイラストに。緊張の中に喜びが溢れて大好きな動画。

⑨ 花 

 「花」についてはすでにたくさんの方が感想を寄せていて、その一つ一つがすばらしいのだけれど、わたしはかんきち(@kana10706824 )さんの感想文がすてきだなあと思って共感して読んでいて、そこにすべて言い尽くされているような気がするのでご紹介。スレの下までぜひどうぞ(作者注:Twitter掲載当時、かんきちさんにお断りして載せさせていただいたのでした。本稿ではXの行末が不安なためスクショで失礼していますが、ぜひXで検索してお読みください)。

 ところで「花」に限らず、ござさんは童謡や唱歌をアレンジするときに、大胆さは保ちつつ、おそらく原曲の言葉の美しさやメロディーの美しさを損なわないよう細心の注意とリスペクトを払っていますよね。しかもメロディーだけ・和音だけを材料にするのではなく、例えばTwitterに上がった「夏は来ぬ」のように、日本語の美を表現してくださってたのには感動したなあ…ゆうかげ文化勲章差し上げたい(要らんがな)。信頼できる…!

言葉への絶対的信頼感が感じられる… このTwitter動画ぜひ残してほしい…

 ともかく誰もが知っている唱歌ということもあるし、美文や文化芸術をリスペクトする気持ちというのあるし、彼の幅広いレパートリーを示すことにもなるからの選曲なのだろうけど、やっぱり明治人にしては革新的な作曲をした滝廉太郎さんの試みを、ござさんは尊敬してきたんじゃないかな…明治人・滝廉太郎さんの革新的な作曲、その姿勢へのリスペクトを示しているからこそ、7/8拍子のすばらしいアレンジであいさつを返したのかもしれないなあ… 音楽家には音楽であいさつをするのでしょうね…
 そしてそして、滝廉太郎さんの「花」は、長く愛唱歌として受け継がれてきたから、3番は合唱風アレンジで聴いた誰もが(たとえば介護施設の利用者さんなども)口ずさめるような曲に仕立てたのではないかと想像する。

⑩ 海の見える街 

 この2台ピアノにハートを射貫かれる人は多いのでは。「異国情緒」とブックレットにあったけど、「シチリアーノ」がエキゾティックなら、「海の見える街」はコンチネンタル。後でケルトも出てきてござさんの豊かな知識欲が垣間見える。
 その上、ジャズワルツの2台ピアノ(しかもござさん×2人の連弾)という贅沢でおもしろい構成。だいぶ前から構想はあったようで、いつも「指が足りない」「手が足りない」と言っているござさんの頭の中では、こんな完成形・理想形があったとわかると納得感しかない出色のアレンジ。
 どこか遠い国で、女の子(キキかな)が服をはためかせて、小高い丘の上に海を見に駆け出して行っているような軽やかなテンポ感。イントロは2本の腕?で始まり、徐々にピアノの音が増していく仕掛け。上のピアノには軽やかな歌心があって、THEござさんといった魅力的な内声に思春期の苦味や哀愁もある。

 一方、下のピアノ?の16分音符?は、どこかヨーロッパの町並みの石畳の硬質さとリズミカルな歩き方を感じさせる刻み…リリカルで美しい。この自由自在さよ!その上音がエレキベース音に感じられるのは不思議。奏法やペダル、音量の差なのだろうか。複雑な曲ではないから、メロディーラインは繰り返しになるんだけど、全然飽きないのは演劇的に盛り上がりを計算してアレンジしてあるからのような気がする。
 転調後の大サビはfffの圧とフル鍵盤の音の積み重ねがすばらしくて、メロディーはユニゾン⁈ わかんないけどなんだかすてき。楽器はピアノでも、指揮者・ござというか、表現を長く追求した結果の、ござさんの理想の形のアレンジなのかと想像する。ともかく奥行きある演奏で、「 2台ピアノの真骨頂」だと感じた。
 もっとも、2台ピアノである以上、ソロコンサートで「海の見える街」が演奏されるチャンスはないのかーと思うと少しさみしい気もする。イメージとしては「ござの日」のバンド演奏が一番近かったのかな。かえすがえすも、「ござの日」のライブ映像すべて円盤化希望です!
 そして朝プリ(@q9179sc12 )さんのこのツイートが大好きで、めちゃくちゃ共感しちゃってます。いいですよね、ティリティリティリティリジャーーー‼︎ってとこ。
絶対引用させて貰おうと許可頂きました!(作者注:2021年当時です)

今読んでもまったく同感です!!!

⑪ 夕さり 

 こんなに好きなのに語るのが一番難しい曲。
 夕方と夜とのあわいに、美しく色彩が変化していくように、コードが移り変わっていく。だから、そのコード進行をこそ語るべきと思うのだけれど、それはわたしの能力外なので、別の観点からふんわりと。
 わたしは普段はイヤフォンか車載スピーカーで聴くのだけれど、「夕さり」についていえば距離感を合わせたスピーカーで、大音量で聴くのが好きだ。スタジオ録音の良さで、深部まできっちり音を拾っているから、アルペジオが奥行きまで聞こえるのがいい。主旋律は人びとの会話のようで、中音域が問いかけた後のスラーに、高音域のキラキラで応えていくのだが、シノワズリ的アドリブパート以降の大サビでは両手でのアルペジオが連なって、気持ちが重なり合うように聴こえて心が温まる…(ふんわりしてるなー)
 さらに言えば、ステージングを意識した曲目でもあるように思う。照明も想像できるし、とにかく88鍵の端から端まで煌めきながら両手が行き来するような曲目だから、ステージ上でピアノに向かうござさんの手がドライブするステージを見たら…と想像するだけで胸がいっぱいになる。エンディングが美しい長調なのもエモい…
 初回特典DVDはその「夕さり」を弾いているござさんの真剣な眼差しもあり、お宝なのだけど、単純に「音質」だけで言えばCDはかけがえがない。CD制作に携わった方すべてに心から御礼申し上げたい。幸いござさん界隈には、ピアニストさんもたくさんおいでなので、是非とも「夕さり」についての考察をご教授いただきたいです!勝手ながら一視聴者としての希望です!!

⑫ 清新の風

 アイリッシュコーヒーを淹れて気分だけアイルランドに浸りつつ、ぼんやりと聴いている。みんな大好き「清新の風」さん。
 ものごとの始まりの高揚感。日の佳い時を待ちわびてついに船出するわくわく感は、ござさんが羽ばたいていくべきこのアルバムにこそふさわしい。

アイリッシュコーヒー美味しい


 バンド編成の時には、パーカッションのリズムやウインドチャイムでより劇伴っぽくもあり、吹奏楽曲のような展開ありで、映画や壮大なゲーム音楽にぴったりの名曲だと思ったけれど、生配信以外で初めて聴くソロピアノver.がまたうなるほどいいのだ(当たり前)。もちろんケルティックな印象はそのままに、階段状に主旋律が動いていく透明感あふれるイントロ。ドラマ性が感じられる爽やかで明るいメロディー。Bメロは徐々に音が下がってくるのだが、高音がきらきらしていて波や光を感じる仕上がり。何よりござさんがのびやかに弾かれているのがすてきなのだ。
 ソロピアノでリズム隊は不在なのに、魔法の絵本を開いて冒険の旅に出る子供部屋の時計の音のように、一定のテンポが刻まれることで、旅立つべき時を意識させられるよう。ござの日よりやや速いそれは、メジャーの世界に飛び立つござさん自身を祝福するような追い風だ。初めて聴いた「ねぴらぼinvention」から、ずっと耳に残る不思議な魅力のある曲。少し冷たい海風でも、追い風に乗って目的地までいけそうな気がする。コロナ禍の今だからこそ「清新さ」というこれまでにない価値観に乗っていきたくなるのかもしれない。

⑫ Danny Boy  

 ござの日でも生配信でも弾いていらしておなじみなのに、まるで「出会い直し」をしたような気持ちにさせられるアレンジ。1番から3番?まで印象の違うアレンジで、原曲の素朴さを大事にしたものから軽やかなジャズ、リズミカルなパートを経ての大サビはトレモロが感情を突き動かす感動アレンジ。ござさんのピアノにはいつも驚きとときめきがある。
 これはわたしの妄想だけど、おそらくCD録音の直前(たぶん)の2021.8.16の生配信「ダニーボーイ」のトレモロのアレンジが土台になっているのではないか。↓
(メン限でごめんなさい)

 2021.8.16の配信は、別の曲の切り取り動画があがったほどすばらしい配信回だったが、どの曲よりも「Danny boy」の切り取りのリクエストが多かったように記憶する。
 わたしはこの配信回を愛していて、折に触れ聴きに行くが、ござさんご自身も納得のいくアレンジだったのではないか。さらに妄想を披露すると、その前2021.8.4の生配信では、ご自分を「何ピアニストなんだろう」と分析されている。1stアルバムの曲目を絞る過程で、配信中のチャットやコメントやレパートリーを見ながら、自分の来し方と周囲に望まれている未来の両方を探っていたのかもしれないと想像する。

 ところで、なぜラストはDanny Boyなのだろう。よく知られている曲の、しかも即興風多種アレンジをあえて選んだのはなぜ⁈「清新の風」もラストにふさわしい曲なのにとずっと考えていたが、ふと、そうか生配信の雰囲気を残してくださったのかなあと思い至った。完璧にアレンジされた完璧な演奏曲満載の1stアルバムの最後に、まるで生配信かストピを聴いているようなアレンジのDanny Boy…その中に、「これを残して!」と願ったわたしたちファンへの返答となるアレンジを入れている!!!いや、そもそも1stアルバムに、即興風多種アレンジを入れ込むこと自体が、いろいろな音楽を嗜むファンへの、ござさんからのラブレターじゃないの?

 あーこれ気がついてよかった…書けてよかった…カタルシス…
 そしてこのDanny boy即興風アレンジはとりもなおさず、彼を支えてきた「生配信」や「ストピ」という媒体に対する並々ならぬ気持ちの現れだとも思える。配信やストピは僕の拠って立つところです、という宣言でもあるような…

3 終わりに

 ここまで、聴き所満載の12曲の感想文を好き勝手に書いてきました。すべてはござさんが立てた問い「和音によって伝わるものは何だろう」に対する「解答」としてのCD、これに突き動かされてのスタートで、わたしなりに、自分が受け取ったことを書こうと蛇行しながらのへなちょこ感想文でした。
 12枚の、曲別のイラストを描いたり切ったりする方がおられる中、わたしはそんな技量を持ち合わせなかったためやむを得ず文章で書き始めましたが、思いのほか長くなり恐縮しています。定期購読いただきました方、励まして下さった方、示唆をくださった方、いいねを下さった方、本当にありがとうございました。
 デタラメなところも妄想甚だしいところもあって、そもそもTwitterに不似合いの長さで不愉快に思われた方も大勢いらっしゃるかもしれず、その方にはごめんなさいを申し上げます。お付き合いいただき、ありがとうございました!

ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

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