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それは、ワタシの虚像ではありませんか?

見失え!

そこにあると思っていたワタシが虚像だったことを今更突きつけられて、目先で追っても追っても、そこにはワタシはいません。

ワタシは、本当は自分がどこにいるか、分かってる。

虚像を見せていたのも、ワタシなのかもしれない。いつだって、ワタシを探すチャンスはあったし、ワタシはワタシを探して欲しいって思っていたのに、彼は目先の虚像がワタシの姿だと、認識し続けていた。

おそらく、虚像すら、幻影すら見えなくなって。初めて、ワタシを見失ったとでも思ったのかもしれない。

まぁ、知らんけど。ワタシ、どんだけ、神様みたいな人間? なわけねーじゃん。この立ち位置おかしすぎて、おかしすぎて、理解できなくて、辛い。

めちゃくちゃ好奇心旺盛だけど、本当は怖くて怖くて。ワタシは自分の虚像を作るのは、きっと上手。

お母さん。娘。お姉ちゃん。妻。そんな自分の虚像を歩かせて。

そこで、薄っぺらなワタシと喋ってんなよ!って、どっかで思ってる。

刷り込み?ワタシを見つけてくれた彼が、今となってはもうただの幻影でしかない彼に。ワタシはいつまでも囚われているような気がする。

細胞が溶け合って、そのまま、ワタシは彼の一部になってしまえたら幸せなのにって。だけど、そんなことができないから、だからワタシは虚像を作って逃げる。逃げて逃げて。

だけど、どこかで、もっともっとワタシを縛って、ワタシを彼の中に取り込んでしまうくらい、ワタシは彼とひとつになりたかった。

繋いだ手を、ワタシを見るその目を、一瞬でも離さないで欲しくて、世界がたった二人だけだったら幸せなのに、そんな風に世界はできていないから。

今、思えば。ワタシが、あんなに不安になる必要なんかなかったのに。今、思えば。今の、大人の言葉で言えば。きっと、ちゃんと愛されてた。だけど、ワタシは駄々っ子の赤ちゃんでガキで。分からない、分からないよ。リードをつけられたワタシは、いつだって彼の元に紐を辿れば帰れると思っていたし、彼がリードを引けばワタシは飛んで帰った。だけど、そっとリードを彼は離したのかもしれないし、途中で切れていたのかもしれないし。ただ、気付いた時にはワタシの首には跡が残っていただけ。

やっぱり、刷り込みのようなものかな。大好きだったし、たぶん狂気的だったし。だけど、いつだって泣きそうな時に、泣いてる時に、真っ先にちゃんとワタシを見つけてくれて、涙を拭ってくれて、笑えるまでそこにいてくれた。背中を押してくれて、張り切って進むのに、いとも簡単に泣いて戻ってくるワタシに、しょうがないねって、ただただ、ひたすら電話越しの彼は優しくて意地悪で大好きで。あてもなく、ただただ歩くことすらワタシには最高に幸せで、全部が最上級で、優しいキスも衝動的なセックスも、意地悪にワタシだけを見つめるその目も、全部が最上級だった。

同時に、いつだって怖かった。怖ければ怖いほど、虚像のワタシが逃げ場所を作って作って。

手に負えないさ。それでも、ワタシが彼を大好きで止まないことを、きっと知っていた。なんだったんだろう。彼の気持ちは、計り知れない。捨てられない、拾ってしまった捨て猫かもしれないね。逃げ出したくせに、彼の傍に居たかっただなんて、ワケの分からないことを。だけど、どうせ、居られない。だけど、その幻影にずっと囚われているのはワタシ。

ワタシは、ワタシをその籠の中にしまい込んで、彼が王子様のように抱きしめてくれるのを待っているのかもしれない。

アホらし。

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