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私の愛する息子

私は『恐るべき子供達計画』によって造られた。
優性と劣性に分けられたあの双子とは違う。
いざという時に備えビッグ・ボスの代替品になるために生み出されたビッグ・ボスの完全なる複製。

ソリダス・スネーク。それが私に与えられたコードネームだった。

ビッグ・ボスのクローンである私は生まれた時から遺伝子操作で生殖機能を奪われていた。
だからこそ私は遺伝子(GENE)に頼らない子孫を遺すことに固執していた。
リベリアで少年兵を育成していたのもその一環だった。

ジャックは私の育てた『息子達』の中でも特に優れた兵士だった。
銃の扱いももちろんだが、刃物を用いた殺人にも長けていた。
そのためか敵どころか味方からも『ジャック・ザ・リッパー(斬り裂きジャック)』の異名で恐れられていた。
フランク・イェーガーと呼ばれ恐れられていたあの男を思い起こさせる。

ある日、ジャックは失態を犯した。
「何故ターゲットを仕留め損ねた?」
指揮官の暗殺。それがジャックに与えた任務だった。
「現地の死体に紛れて隙を伺い、近づいたところで暗殺する。簡単な任務だったはずだ。何故しくじった?」
「足りなかった」
「なに?」
「ターゲットに抵抗されて、俺のナイフが掠っただけで首の頸動脈に届かなかった。腕の長さが足りなかったんだ」
「ふむ、リーチの問題か。それは一考の余地があるな」
そう考えた私はジャックを武器庫へ連れて行き、適切な武器を探した。
「これはどうだ」
私は一本の長い刃物を取り出した。
「刀(カタナ)だ。ナイフよりも長くしなやかで殺傷能力が高い。この得物ならば子供のお前でも大人の首をはねることも心臓を突き刺すことも可能となる。だがそのぶん扱いが難しくなる。これまで以上の鍛錬が必要になるぞ」
ジャックは無言で頷いた。私はジャックに刀を手渡す。
「武器の扱いは体で覚えるのだ。そうすれば頭で考えるよりも速く行動できる」
私はもう一本の刀を取り出し、試しに振って見せる。
「子供の内に覚えておけば、大人になっても身についた技は体が思い出す。損はないぞ」
ジャックは私の見様見真似で刀を振ってみた。だがまだ不慣れで扱いきれていない。
「お前に合った長さの刀を調達しておこう」
私はまだ小さいジャックの頭をぽんぽんと優しく叩いてやる。
「頼りにしているぞ。私の愛する息子よ」


私の意識が今の現実に戻ってくる。
アーセナルギアから放り出され、崩れかけたフェデラルホールの屋上に私は立っていた。

AIの暴走によってアーセナルギアはマンハッタン島に上陸していた。
ベラザノ橋を通過したアーセナルギアはアメリカの自由の象徴である女神像を薙ぎ倒し、ウォールストリートを突き進み、失速してようやくフェデラルホールで停止した。
ここからでも天高くそびえたつツインタワーが見える。
ニューヨークは壊滅状態の酷い有様だ。
予定とは大きく異なることとなったが、さすがの愛国者達でもこれだけの規模を隠蔽はできまい。

今日は4月30日。
アメリカ合衆国の新たな独立に相応しい記念日だ。
テロによって世界が変わる。
すべてのはじまり『グラウンドゼロ』となる。
誰もが忘れられない記憶に残る日となるだろう。


「歴史のイントロンにはなりたくない。いつまでも記憶の中のエクソンでありたい」


『自由の息子達(SONS OF LIBERTY)』


これこそ私が成し遂げたかった『子を成す』ということ。
遺したかった目的の一つを、私は叶えることができたのだ。
後は愛国者達を倒し自由を取り戻す。
それで私の悲願は達成される。

私の目の前には大人になったジャックが刀を構えてこちらを見据えている。
殺意に満ちた鋭い目つき。
間違いなくあの『ジャック・ザ・リッパー』そのものだ。

そんなジャックを見て嬉しさを含んだ複雑な感情を抱きながら、私も二本の刀を構えた。


「ジャック。私の愛する息子よ。最期に私が生きて遺した証を見せてくれ」


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