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新橋のサラリーマンは蒸留家になれるでしょうか -カルヴァドスと言ってはいけない問題-

世の中には言ってはいけないことがたくさんあります。

行間を読んだり"推して知るべし"が日常の会社員にとっては、むしろ言っていいことを探す方が至難かもしれません。空気と顔色が支配する現代日本社会の「言葉選び」ですが、現在プロ会社員16年目の私ですら起こるトラブルの元凶の根っこは"言葉"だったりします。些細な言い間違いや勘違いの失言やタブーで笑いを取るつもりが逆効果など、思い出すときりがないほど苦い経験が辞書ほどあります。それだけ言葉が支配するコミュニケーション領域は広く深い。

そして今日の言ってはいけないは「カルヴァドス」

カルヴァドスはフランスのA.O.C.

日本で林檎を発酵させて蒸留してカルヴァドスを作ります。

これは言ってはいけません。なぜか。

一言で言えばカルヴァドスではないから。

ざっくりですがカルヴァドスは「フランス北西部にあるノルマンディー地方でつくられる林檎を原料としたアップルブランデー」と決められていて、それ以外のエリア・原料・方法で作られたアップルブランデーはカルヴァドスではないのです。カルヴァドスではないのだからカルヴァドスと呼んでいいわけがない。

この手の話はシャンパーニュでもよく聞きますね。

このように特定のブランド・産品を地理的情報と連動させて名称で保護する制度はA.O.Cと呼ばれています。「Appellation d'Origine Controlee」の略で、「原産地統制呼称」なんて訳されたりしているようです。

A.O.C.の話は置いておいて、では日本で林檎の蒸留酒を蒸留して熟成させたら何と呼べばいいのでしょうか。

アップルブランデー?

アップルブランデー。何だかしっくりきません。意図することは伝わりますが、すでに使い古された言葉の響きがしてしまい、逆に聞き流されてしまいそうです。入り口で失敗するのはもったいない。

Eau de Vie de Pomme?

蒸留酒を意味する一般的なフランス語としてEau de Vieという呼び名があります。Pommeは林檎。であればEau de Vie de Pommeという呼称は成立しそうです。一方で、悪くはないけどフランスに大きく寄った表現に聞こえるかもしれません。

新しい別名?

ふさわしい呼び名がないのなら作ればいいかもしれません。焼酎や泡盛のように。では果たしてほとんどプレーヤーのいない世界で敢えて聞きなれない新ジャンル名を投入するべきでしょうか。これは冷静に考えないといけません。結論だけ書くと、これはやめておきます。製品ブランド名と混同して運用しきれなくなる未来像が浮かびました。

潔くブランデー?

「ブランデー」はワインを蒸留したものという認識が一般に定着している一方で、書物によってはぶどう以外の果実酒由来の蒸留酒もブランデーと広義に定義されています。当然ブランデーは一般名詞として使えるので縛りはありません。あまりに一般的な単語なので「ブランデーを作っています」は逆に新鮮な響きを感じないでしょうか。林檎はどこへ行った?という指摘は聞こえないことにしておきます。とは言ってもネガの検証は必要です。

ブランデーと名乗ることでのネガその1

ワインを蒸留していると思われる。


ブランデーと名乗ることでのネガその2

林檎以外の原料も連想されうる。


ブランデーと名乗ることでのネガその3

グラッパやマールのような搾りかす由来の蒸留酒も含んでしまう。


ブランデーと名乗ることでのネガその4

既存生産者・団体からの圧力。


これくらいはパッと思いつきます。冷静に検証します。

ワインを蒸留していると思われる。→むしろワインを蒸留することもあるかもしれない。蒸留してみたらいい。

林檎以外の原料も連想されうる。→むしろ林檎以外もやってみたらいいじゃないか。サクランボの「kirsch」や洋ナシの「Poir Williams」のように、世界に目を向けると果実由来の蒸留酒は様々。広義にはどれもブランデーに位置付けられます。

グラッパやマールのような搾りかす由来の蒸留酒も含んでしまう。→むしろ搾りかす由来でもチャレンジしてみたらいい。ワインやシードルの醪(と言っていいのか分かりませんが)から最後に残る部分に加水・加糖して再発酵というやり方はあるかもしれません。

既存生産者・団体からの圧力。→菓子折り持ってお話に伺います。怒られること以上に学びもあるでしょう。法令違反でないのであれば零細事業者が相手にされることはほぼないと思いますが。

というわけで、当面のところは「果実のブランデー」ということにします。税務署とお話しする際もブランデーで。この言葉で試しながら、徐々に意味が変化していくかもしれませんし、別の言葉が生まれるかもしれません。そのときはそのときということで。

果たして来年春に果実のブランデー蒸留家になることができるでしょうか。

#39歳の転職活動

#calvados


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