新橋のサラリーマンは蒸留家になれるでしょうか -カルヴァドスの聖地へ行ってきた話-
書きたいことが多すぎて渋滞する。結局書けない。
この循環は良くないですね。
気を取り直してここ最近の一番の興奮を冷めないうちにまとめます。
カルヴァドスの聖地へ
カルヴァドスが好きで自分でつくってみたい、と言うわりにはカルヴァドスに触れた時間も飲んだ量もまだまだな訳で、学びを深めるきっかけが必要です。
そこで「まずは聖地に巡礼だ」ということでやってきました。京都。
京都かよ、産地(フランスのノルマンディー地方)に行けよという話ですが、まずは思い立って新幹線に乗った自分に拍手です。
フランスは退職金、いや経費で研修で行くこととします。
京都市役所の裏手の路地のビル2階にひっそりとあるリンゴマーク。
ふらっと入れる店でないことがドアから伝わります。あくまで目的を持った巡礼者だけにわかる目印であればいいと言わんばかりのあれですね。
聖地Calvadorへ入店
ここは「Calvador(カルヴァドール)」。京都にあるCalvados専門のバーです。
なぜここが聖地と言われているかというと、カルヴァドスの種類の多さらしいです。種類が多いってどういうことだろう?と思いながら鉄の扉を開けて、直前に電話して押さえた席に座ります。
壁一面のボトル。
興奮して写真撮れず。
まさかこれ全部カルヴァドスか。。
大きな酒販店に行っても1種類あるかないかのカルヴァドスが、壁一面。しかも見たことないボトルも。
とにかくたくさん飲み比べてみよう
勝手に圧倒されながらも、今日は背伸びせず素人であることを全面にだして楽しみたいと思います。ノーガード戦法というやつです。
初心者なので色々なカルヴァドスをおまかせで!
そうリクエストして、出てきた1杯目がこちら。
Chateau du Breuil 18 years old Cask NO.18099
我が家にもある大好きなChateau de Breuilの18年熟成です。
18年は初めて飲みました。それもそのはず。このボトルは店主高山さんが現地まで行って味をみて決めた樽ごと買い上げてボトリングしたもので、カルヴァドールに来たならまずはこれ、というにふさわしい1杯と言えます。
Pays d'Auge(ペイ・ドージュ)なので単式蒸留2回で洋梨は30%以下。落ち着いた熟成感を感じつつも生き生きとした果実感がしっかりあって、親しみやすい印象です。ロックで十分楽しめます。
ロックというとウイスキーをイメージしますが、私はカルヴァドスもロックで飲む派です。
続いて2杯目です。
Dupont Calvados Pay d'Auge Millesime 1980
2杯目にして年上登場です。40年以上前に樽に入ったカルヴァドスです。これは噛みしめるようにいただくべきだとストレートで。
デュポンも比較的日本でお目にかかることの多い作り手ではないでしょうか。もちろんもっと熟成の短いエントリーモデルが多いですが。
こちらのボトルもカルヴァドールのオリジナルで150本限定だそうです。同じくPay d'Auge表記ですがこちらは梨は入っておらず林檎100%。
アタックの力強さから徐々にホッとする焼き林檎感に変わり、程よい酸味と渋みで後味を締めてくれるきっちり優等生、という印象です。
貴重なものをいただきました。
3杯目にいってみましょう。
Pere Magloire Heritage Extra
ペール・マグロワールは以前から気になっていてもなかなか縁がなく、聖地で初体験です。こちらもストレートで。
20-40年熟成のブレンドということでヴィンテージ表記はありませんが、ボトルが"初心者注意"と言わんばかりの風格です。
これもペイ・ドージュ地区なので林檎中心の単式蒸留です。
一口含んで感じたのは「甘味」。強い甘味というよりはジャム感や蜜感のような透明感ある淡い甘味。蒸留酒であることを一瞬忘れるような酸味と甘みのオーケストラが、先の2本とは全く違った方向性を感じさせます。
聞いたところ、ペール・マグロワールはこのような甘みが特徴的のようです。かといって果実感に乏しいわけでもなく、林檎由来の酸味がしっかりとあって、熟練のバランス感覚の賜物という印象です。これはっきりいって大好きです。ソーダ割りでもよかったかもしれません。
気持ちも昂ぶってきたところで4杯目へ。
佇まいだけで様子がおかしいのか来たとわかります。気を抜くとラベルに吸い込まれそうです。
Adrien Camut Prestige Camut
カルヴァドス好きの間ではカルト的人気を博しつつあるペイ・ドージュ地区の作り手です。40年熟成。さらっと書きますが簡単にお目にかかれるものではないはずです。
これもストレートで。
林檎の香りと樽感が優雅なのはもちろん、梅・プルーン・アプリコットジャム・焦がしバターなど色々感じられてまさに宝石箱という表現をしてもオーバーではないスケール感です。
蒸留器の熱源はなんと薪だそうです。その作業風景を思うと気が遠くなりますね。100年以上こういう作り方で少量生産を続けているそうで、そりゃ簡単に入手できないわけです。
想像以上にめくるめくカルヴァドスの世界に飲み込まれ、情報も大洪水、脳がドーパミンで飽和したところで今回はこれにてストップとなりました。
どう考えてもおもしろいカルヴァドスの世界
図らずもペイ・ドージュ地区を4種比較できたことで、作り手の個性がこんなもバラエティ豊かに表現できる世界なのだと再確認することができました。本当に面白い世界です。
あとひとつ。
「甘みの質」が味わいや個性に大きく影響しているのではとの仮説に至りました。
甘みは当然「糖」と関係するわけですが、糖は何かと喜ばしくない存在として語られることが多いです。反面、発酵は糖の代謝なわけですし、あらゆる時代の人類史に様々な(戦争も含めて)かたちで登場する、極めて豊富な文脈を内包するモチーフだと考えています。
だからこそ、糖を排除することも礼賛することもなく、消費されやすい文脈に安易に乗せることもなく、ニュートラルに扱っていく方法論がないか。ひとつのテーマとしてこれからも考え続けたいと思います。
というわけで「行かずして聖地を語るな」とならないよう、気持ちをまっさらにして訪れた聖地Calvadorでしたが、もちろん今回は入口をくぐったにすぎません。ドーパミンが足りなくなるたびに新幹線に飛び乗って京都に行く。そんなシーンが今年あと何度かあるでしょう。
新幹線を見るだけで林檎の香りがしてくるようになればようやく最初のステージクリアといったところでしょうか。
ありがとうございました。
良い学び、そして良い時間でした。
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