ASKAニューアルバム「Breath of Bless」感想~其之三


さあ、最後の感想其之三です!

(文中『』内の引用の歌詞は全て作詞・ASKA)

※本文中、現在開催中のツアー「higher ground」の内容にふれる部分があります。

⑪「消えても忘れられても」(新曲)

スケールの大きな愛を歌った「歌になりたい」の後に、その対比のようにより個人的な抑えきれない感情・叫びを歌っている。

『いいことがつづけば やがて悪い日が来る
当たり前を歌にして 自分に向けてる

僕には金色の 翼もたてがみもない
ただ焦がれてる 憧れてる

知られたくない 弱さで』

『過ぎた過去 まだ見ぬ未来 ふたつの真ん中の今
なるように いや こうなるように歩いてきたけど・・・

ねぇ君は 誰かひとりでも たった誰かひとりでも
幸せに 幸せに することができたかい

愛して 愛して 心だけになり
消えてもいい 忘れられてもいい

愛になれるかい 愛になれるかい』

アルバム「Too many people」収録の「しゃぼん」にも通じるような、今の心情を吐露している楽曲。人類を包むような『歌になりたい』と歌った後に、自分の弱さをさらけ出し、今の自分を見つめた上で、『愛になれるかい』と問い掛けてくる。

「歌になりたい」の中でも

『ある日僕はこう思ったんだ 僕にできないことなんてあるのだろうかと
そして今日僕は思っている 僕にできることなんてあるのだろうかと』

と歌っているが、自分の無力さを感じている中で、それでも『歌になりたい』そして『愛になれるかい』と願っている。アルバムの流れで聴く中で、より強い意味を持つ曲。

⑫「青い海になる」(新曲)

ダークな雰囲気の楽曲。聴いていると浮遊感にも似た感覚を覚えるのはソロの名曲「ID」にも近い感覚か。ある意味ではこのアルバムで一番ASKAを感じさせる楽曲であり、それゆえ「ひとりチャゲアス」の感が最も強い楽曲(初めて聴いた時に、CHAGEの楽曲「熱帯魚」〈アルバム「no doubt」収録〉に近い匂いを感じたからかもしれないが)。

『針で釣られたような 雲が餌に見える
空で魚になった 飛行機が雲に向かう

特等席のベンチで見てる
流行の店 並ぶ行列を

いま幸せは 自由じゃないのか
幸せは 誰のものなのか』

『いま朝になって ここはどこだと
朝になって 僕は誰だと

僕は櫂を漕いだ 黒い海で櫂を漕いだ

やがていつか やがていつか
青い海になる 青い海になる 
青い海になる 青い海になる』

「これぞASKA!」の独特の世界観、比喩表現。『歌になりたい』『愛になれるかい』そして『青い海になる』。全てを包み込み、全てを飲み込む。全く違う色の楽曲の並びの中で、連詩のようにつなげていく。そうした中盤のブロックを経て、アルバムはクライマックスへと進んでいく。

⑬「星は何でも知っている」(2018年8月配信曲)

6か月配信の最後の曲。この曲が配信された2018年8月25日、ASKAは会報で『8月25日を前に。』というメッセージをFellowsに向けて送っている。その中に『何より、「星は何でも知っている」からです』という文章がある。そのメッセージは簡単に言うと当時のASKAの状況、チャゲアスの現状・思いを綴ったものだった。

『とは言うものの それだけなんだろう
大切に思うなら 目をそらさずいよう

始まらないのは 終わろうとしないからさ
懐かしいことにして 新しい服を着よう 歩こう

行ってはいけないこの道を
もう行かずにいられない』

『何があっても 僕は僕のままさ
君はとても良い人で きっと僕は悪い人 酷い人

星は何でも知っている
僕が履いてたぼろ靴も』

その前の月に配信された「憲兵も王様も居ない城」でもチャゲアスについての思いをストレートに表現し、「城から出よう」と呼び掛けていたが、本作ではその次の段階に行っているような感じか。ある種、達観しているよな、俯瞰的に現状を見ているような。それでも『始まらないのは 終わろうとしないからさ』『懐かしいことにして 新しい服を着よう 歩こう』と歌う辺りは「憲兵も王様も居ない城」で歌われている『乗せ換えろよエンジンを 動かなくなるその前に』『運命です 寿命ですって 誰にも言わせないように』と同意であろう。チャゲアスへの深い愛情から生まれた優しく歌われる楽曲。「彼」にはどう届いたのだろうか。

⑭「We Love Music」(新曲)

「higher ground」ツアーのオープニングのイントロダクション、そして本編最後に歌われた「higher ground」ツアーで重要な意味を持つ曲。ツアーのレポでも書いたことだが、この曲、オープニングで歌われた「僕はMusic」、そして本編の一部のラストに歌われた「歌になりたい」、それらの楽曲は「音楽の伝道者」としてのASKAの決意表明の様に思われる。

『空から届く贈り物だよ 
みんなでそれを抱き合いたい 

哀しい人に 楽しい人に
見つかるように 来てくれる 

ふいに大きな広場を つくってくれる
愛してくれる 「泣けよ」「笑えよ」って言ってくれる』

『誰だって真ん中に立っている
正しいことには棘がある
勇気の涙はサマになる You say! We Love Music.


Oh! Oh! Oh! We Love Music. I know. You know. We know.
Oh! Oh! Oh! We Love Music. I love. You love. We love.』

音楽を『空から届く贈り物』とする場面は「歌になりたい」から浮かぶ光景にも見える。ライブでも感じたことだが、この曲が歌われている時に感じる多幸感は、楽曲内で歌われている音楽への感謝、愛情から受けるものだろう。一発撮りのセッションのようなテンションで楽曲は進んでいく。クラップ、シャウト、何でも「音楽」になる。音楽に愛されたASKAが声高に『We Love Music.』と叫ぶ、その事がこんな奇跡のような楽曲を生む。

長い歴史の中で常に流れ続けていた「音楽」。「さあみんな思い思いの音楽を奏でよう!」「そこにあるもので、自分の肉体で音を鳴らそう!」その先には笑顔が、愛が、平和が待っているから、そんなメッセージのような気がする。「音楽の力」をこれでもかと感じさせてくれる楽曲。

⑮「Breath of Bless~すべてのアスリートたちへ」(2019年11月Sg「歌になりたい」収録)

前回のツアー「Made in ASKA-40年のありったけ」のオープニング曲として使用されたASKAの「僕だけの東京オリンピックテーマ曲」。全てのアスリートに力を与えるようなインスト曲。神々しささえも感じるメロディーは「We Love Music」の後、アルバムの最後に置く事で、より一層楽曲の力を感じさせる。倒れても倒れても前へ進もうとするアスリートの姿は、今のASKAにぴったりと重なり、アスリートへの応援曲として書かれたこの楽曲はASKA自身にも大きな力を与えている様に思える。

全曲感想書いた。。。このアルバムはASKAの「音楽」に対する真摯な思いを綴った楽曲の集まりであり、それゆえに、これだけバラエティに富みながらも一つの作品として統一感を感じることができるのであろう。そしてその核にあるのは「歌になりたい」という思いなのかもしれない。

これはあくまで「今」感じている事であり、この先様々な人生の場面でこのアルバムの音楽に触れる時に、その時その時に見える表情があるだろう。聴く時の状況・心情によって同じ曲でも全く違うものに聴こえたり、今まで見えなかった景色が見える事もあるだろう。それを楽しみながら、このアルバムを聴き続けていきたいと思う。

駄文・長文にお付き合いいただいた皆様、ありがとうございました。

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