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勝敗を分けた星稜の1年生ショート内山壮真の「詰めの甘さ」:明治神宮大会決勝「星稜-札幌大谷」試合レポート

どうもこんにちは、遊撃です。

高校野球シーズンの締めくくりとなる明治神宮大会は、北海道代表の札幌大谷高校の初出場初優勝で幕を閉じました。

H30/11/13
第49回明治神宮野球大会高校の部決勝戦
星稜(北信越代表)1-2札幌大谷(北海道代表)

星稜 000 010 000 計1 H1 E0
大谷 000 000 20X 計2 H7 E1

星稜スタメン
1中△東海林⑧
2左△岡田⑨
3三△知田⑤
4遊 内山⑥
5右 奥川①
6一 福本③
7二▲山本④
8投 荻原⑪
9捕 山瀬②

札幌大谷スタメン
1遊 北本⑩
2二△釜萢④
3捕 飯田②
4投 西原①
5中 石鳥⑧
6三△佐藤⑬
7一△清水③
8右△佐野⑨
9左 中川征⑦

(○数字は背番号、△は左打者、▲は両打ち)

今回は試合の振り返りや雑感などは省略し、両校の総評勝敗を分けた1つのプレーに焦点を当てて書いていく。

総評

札幌大谷は、初戦の龍谷大平安戦では守備のミスが出たが、勝ち進むごとに力をつけ、決勝戦では最速150キロ右腕奥川恭伸を擁する星稜に2-1で勝利し、栄冠を手にした。

決勝戦で星稜の強力打線を相手に1安打1失点で完投したエースの西原を中心に、準決勝の筑陽学園戦では8回までノーヒットピッチングを披露して2失点で完投した背番号17の太田など、投手陣の頑張りが優勝の原動力となった。

打線もバットがよく振れていた。上位下位関係なく出塁でき、下位でも長打が打てる打線は、相手投手からすれば脅威だろう。相手のミスに付け込んで複数得点を奪うあたりも見事だった。

ベンチの選手を含めた全員が常に笑顔で、明るく楽しそうにプレーをしていたのも印象的だった。ミスが出ても、ベンチにその選手を迎え入れるときは硬い雰囲気ではなく、少し「茶化す」ような言葉も出るくらいリラックス出来ていた。そういう姿勢も優勝に繋がったのかもしれない。

星稜は、エースの奥川が格の違いを見せつけた。この大会は15回1/3を投げて1失点しか許していない(自責点は0)。最速150キロをマークする力のある直球に加え、キレのあるスライダー、鋭く落ちるフォークを操り、高校生には少し手が付けられないレベルになりつつある。

特に右打者は打ち崩すのがかなり難しい。150キロのストレートと、キレ十分の曲がりの大きなスライダーを外角に集められると、ハッキリ言って打てない。左打者に対しては、現時点では膝元のスライダーが有効だが、さらに有効な「外角に逃げるチェンジアップ」なんかを覚えたら、とんでもない次元に突入してしまいそうだ(今投げているフォークでも十分だと思うが…)。

打線も力があることを示した。9番の山瀬は怪我の影響が色濃かったが、打順関係なく、繋がり出すと止まらない。ただ、様々なライターが口を揃えて言っているが、やはり内山が4番に座っていることに少し寂しさを感じる。彼はタイプ的にホームランバッターではなく、低く強い当たりを打つことができ、打率を残せる打者だ。足も使えるため、3番の方が適していると思う。奥川も5番を打っているが、奥川内山「守りの要」である。「打の中心」となる選手が彼らの他に出てくると、奥川内山の負担が減るだけでなく、チームとしてのレベルも一段上がる。前のチームで言うところの竹谷や南保のような存在が出てきてほしい。

勝敗を分けた場面

さて、この2校が顔を合わせた決勝戦だが、ハッキリと勝敗を分けた場面があった。その場面でタイトルにもある通り、星稜のショート内山「詰めの甘さ」2つ出た。

その場面とは、「7回裏、札幌大谷の1番北本が中前2点適時打を放ち、逆転した場面」である。

内山の2つの「詰めの甘さ」

星稜が1-0でリードしていたこの回、札幌大谷は先頭の6番佐藤が遊直に倒れた後、7番清水が左前安打を放ち出塁すると、続く8番佐野の右翼線への二塁打で1死2,3塁のチャンスを作った。9番の中川は浅いライトフライ。ライトを守っていたのがエースの奥川だったこともあり、3塁走者はスタートを切れなかった。

2死2,3塁で打席には1番の北本この場面を深く掘り下げて、星稜のショート内山の2つの「詰めの甘さ」を解説していく。

北本は、初球は外のスライダーを見逃してストライク、2球目は外のスライダーを見逃してボール。3球目は内角高めの直球に思わず手が出てしまい空振り。カウント1ボール2ストライクからの4球目、外角低めのスライダーに食らいつき、ゴロでセンター前に運んだ。この間に2人の走者が生還し、札幌大谷が逆転に成功した。

○二塁走者のケア

1つ目は二塁走者のケアについて。打席の北本は右打者。今大会の打撃の傾向を見る限り、引っ張る打球が多めだった。そのため、ショートの内山は二塁走者のケアをセカンドの山本に任せ、定位置で守っていた。その山本はランナーを強く意識するわけではなく、ケアと言えば少し二塁ベースに寄る動きを見せたくらい(走者にとってはほとんど意味のない動き)。投手の荻原は打席の北本に対して4球を投じるのだが、その間、二塁走者を一度も気にしなかった

二死で打席には力のある打者。投手がバッター勝負に徹するのは分かる。ただ、二塁走者は「逆転のランナー」だった。二遊間がその走者をノーマークにするのはやはりいただけない。二塁走者に対する牽制をつかさどるショートの内山は、打者の傾向を把握して定位置を守る選択は間違っていなかったと思う。ただ、セカンドの山本と連携して、もう少し二塁走者をベースに「くぎ付け」にさせるための工夫をしたかった。例えば「時計回りの投げない牽制」を入れるなど。

その結果、二塁走者はファーストリードはもちろん、第2リードも大きくとることが出来た。2死だと走者はアウトカウントを気にする必要がないので、スタートを切りやすい。また、北本が打ったカウントは1ボール2ストライクだった。この場面、投じられたボールがストライクであれば、打つ、見逃し・空振り三振、ファールの結果しかありえないので、投球コースが見やすい二塁走者は「ストライクゴー(ボールがストライクであればスタートを切る)」をすることができる。この二塁走者がスタートを切りやすい場面において、二塁走者をノーマークにしてしまった点、これが内山「詰めの甘さ」の1つ目だ。

ちなみにこの場面で、二塁走者の佐野のホームインタイム(打者のインパクトの瞬間からホームベースを踏むまでの時間)は、映像を見ながら3回計測してその平均値をとったところ「6.53秒(6.49・6.58・6.53)」だった。一般的に7秒がデッドラインとされる高校野球の世界において、このタイムはかなり早い。このことからも、いかに走者が大きくリードを取って、スタートを切りやすい状況にあったかが分かる。

○状況把握と判断

続いて内山の2つ目の「詰めの甘さ」の解説に移るが、その前にこの場面での星稜の外野手の守備位置について話しておく。星稜の外野手は逆転の走者が二塁に居ることを考慮すると、少し深めの守備位置を取っていた。人工芝で打球が死なないため、普段(土のグラウンド)より後ろで守っても構わないとは思うが、少なくとも「二塁走者の生還を絶対に阻止できる」ほどの位置ではなかった。つまり、打球が外野に転がってしまえば、2点が入る確率はもともと高かった。

荻原の外角低めのスライダーに食らいついた北本の打球は、ショート内山の横に転がる。この打球に対して内山は、スプリットステップからの素早い出足で追い付いたかのように見えた。しかし、打球は内山が出したグラブの下を抜けて、センターへ。

難しい打球だった。そのことは前提として言っておく。しかし、ここで内山2つ目「詰めの甘さ」が出た。

この打球に対し、内山は追い付いていた。映像を見返してもらうと、グラブを出す前、タイミングを合わせるために、ほんの一瞬だけ減速しているのが分かる。内山は一塁でアウトを取るために、打球を「捕り」に行った。この打球を「捕り」に行く選択が内山の2つ目の「詰めの甘さ」だった。

なぜか。もし外野手が二塁走者を確実にアウトにするために前に来ていれば、打球を「捕り」に行っても良かっただろう。仮に後ろに逸らしても、外野手が前に来ているため、二塁走者をアウトにできる可能性が高いからだ。

ただ、前述の通り外野手の守備位置はやや深めだった。その上走者をノーマークにしていたため、二塁走者のリードも大きい。このことが頭にあれば、打球がセンターへ抜けるとほぼ間違いなく「逆転」となるため、打球を「捕る」ことよりも、まずは「止める」ことを念頭に置けていたはず。一塁でアウトにできなくても、打球を内山のところで止めることが出来ていたら、二塁走者が生還することはなかった。そのあとの結果次第では、同点で切り抜けることが出来ていたかもしれない(荻原は次打者にも安打を打たれるのだが、北本の打席結果次第ではどうなっていたかは分からないため)。

「捕り」にいくプレーと「止める」プレーの違いは何か。その違いはグラブの出し方と体の入れ方だ。

この打球においては、打球に対して一直線にグラブを出し、送球を見据えて打球に対して体をカベにしないのが「捕り」にいくプレー。打球に対して、はじいても構わないので、絶対に後ろに逸らさないように下からグラブを出し、打球に対して体でカベを作ったり、スライディングキャッチなどで打球をセンターへ抜かさないようにするのが「止める」プレーだ。

あの打球だと、1つファンブル・ジャッグルした時点で一塁は確実にセーフになる。となると、一塁でアウトを取るには捕球・送球に1つの無駄も許されない。あの打球で捕球→送球の流れがもっともスムーズになるのは、「捕り」に行くプレーである「ワンハンドキャッチ→1回転して送球」だ。内山は恐らくそれを狙っていた。その証拠に、グラブを出した時にはすでに体が反転していた。結果的に打球はグラブの下を抜けてセンターへ転がり、その間に2人の走者が生還して逆転を許した。

この場面で、外野の守備位置二塁走者のリードの大きさなどの状況把握が出来ておらず、目の前の「一塁でのアウト」だけを考えて、「捕り」にいくプレーを選択してしまった点、これが内山の2つ目の「詰めの甘さ」だ。

この2つ目に関してはかなり厳しい指摘をした。「内山が捕球できなかったことに対する結果論だ」と言われるのは予測している。

ただ、野球というのは同じ打球が二度と飛んでこない中で、どれだけ事前に準備を行い、瞬時にその打球に対する最善の選択をして、リスクを最小限に抑えることができるかが重要なスポーツだ。それを考えたときに、外野の守備位置や二塁走者のリードの大きさといった状況を頭に入れることが出来てないが故のプレーを選択している点は、やはり「詰めが甘い」と言えるのではないだろうか。現時点ですでに素晴らしい選手であり、今後もさらなる成長が期待できるからこそ、厳しい指摘をした。

二塁走者のノーマーク状況把握不足による打球を「捕り」に行く判断、この内山の2つの「詰めの甘さ」が結果的に勝敗を分けることになった。

あの北本の逆転タイムリーは、ただの「センター前2点タイムリーヒット」のように思えるが、実はこれだけの裏がある。もちろん打った北本は見事だったが、星稜としては2点目は防ぐことは出来ていた。そうなると、試合はまた違った展開になっていたかもしれない。

私自身も1点の重み、そして状況把握・判断の大切さを再実感した。

まとめ

この秋の結果がそのまま来春の選抜に繋がるわけではないが、優勝した札幌大谷にとっては大きな自信となるだろう。「全国制覇をした」という自信を持ちつつ、船尾監督も話していたが勘違いはせず、謙虚に冬場の練習に取り組んでほしい。現時点でも個々の能力は非常に高いと感じたが、まだまだ伸びしろは大きく、春以降の成長にも期待が持てそうなチームだ。

失礼を承知で言うが、この神宮大会ではさほど他校の注意を集めていなかったと思う(星稜などに比べると)。しかし、選抜では他の31校が札幌大谷対策を十分に立てて臨んでくるだろう。そんな中で自分たちの力を十分に発揮できるようなチームを目指してほしい。

優勝候補と目されていた星稜は、この悔しさを成長の大きな糧にしてほしい。選手権でも悔しい負け方をしたが、圧倒的な戦力を持つ新チームは、あわよくば「負ける機会に恵まれないのでは」と思ってもいた。だからこそ、ここで負けることが出来たのは大きな経験だと思う。奥川に次ぐ存在の確立、決勝ではわずか1安打に終わった打線のさらなる強化。課題が明確な分、もっと強いチームになって甲子園に戻ってくるだろう。

内山に対しては厳しい指摘をしたが、スプリットステップからの一歩目の出足の鋭さに加え、打球に対するアプローチの速さは素晴らしい。それがあの広大な守備範囲を生んでいる。足もよく動くし、ボディバランスにも優れているため、難しい体勢からでも正確な送球ができる。若干捕球後に体が起きる嫌いはあるが、この辺の能力はもう高校生のショートの中ではトップクラスと言っていいだろう。

全国の学校が「打倒星稜」「打倒奥川」で向かってくる中で、どんな試合運びをし、奥川がどんな投球をするのか。今から選抜が待ち遠しい。

この試合をもって2018年の公式戦は終了となった。ここから球児たちは過酷な冬練習に入っていくわけだが、ひと冬で大きく勢力図が変わるのも高校野球の醍醐味だ。来春、ましてや夏にどこが頂点に立っているのかなんて、本当に分からない。予想は出来ても、それはあくまでも予想。球児たちは私の予想なんか軽々と上回ってくるだろう。だから高校野球は面白い。

ここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございました。このレポートをもって、今年の「試合レポート」は終了とさせていただきます。また面白いテーマがあれば書いていこうと思うので、更新したら是非読んでください。意見やコメントなどお待ちしております!いいと思ったら、いいねやRTもよろしくお願いします。励みになります!

春はセンバツから!またお会いしましょう!
それでは失礼します。

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