見出し画像

これはノーステップ?~源田壮亮の1プレーに見る「足さばき」と「送球と捕球の連動」~

みなさんこんにちは、遊撃です。

新型コロナウイルスの影響でセンバツが中止になり、プロ野球も開幕延期、大学野球や社会人野球も先が見通せない状況で、野球ファンにとっては苦しい日々が続いていることかと思います。私もその一人です。

そんな中、ちょっと時間があるので守備の動画でも見てみようと思い、YouTubeで探していると、一本の動画もとい1つのプレーに衝撃を受けました。

それは現埼玉西武ライオンズの源田壮亮選手の、社会人野球(トヨタ自動車)時代の打球処理の動画でした。源田選手と言えば、打球処理の引き出しの多さや華麗なステップワーク、正確な送球はどれを取っても一級品で、正に球界No.1のショートです。

まずは動画をご覧ください。

どれも素晴らしいプレーなのですが、注目してもらいたいのは1分13秒からのプレー(守備)です。元々源田選手のすごさは知っていましたが、このプレーを見た瞬間、これでnoteが一本書けそうだ…と思い、久々(約1年2カ月ぶり)にキーボードをたたくことにしました。

一見すると、三遊間の若干緩いゴロを逆シングルで捕球し、ノーステップでワンバウンド送球をして間一髪アウトにしたというような、普段華麗なプレーを連発している源田選手にしてみれば何でもないプレーに見えるかもしれません。

ただ、実はこのプレーの裏には源田選手のすごさがこれでもか…というほど詰まっています。そこを細かく解説していこうと思います!

(見出し画像は週刊ベースボールオンライン、ShortStop SPECIAL TALK 西武・源田壮亮インタビュー 2019年7月5日(金)より、http://column.sp.baseball.findfriends.jp/?pid=column_detail&id=001-20190715-30、写真=大泉謙也)


1.インパクト~捕球まで

このフェーズのポイントは「足さばき」です。

最近、中津大和選手(小松大谷高3年)などの登場により、フォーカスが当てられつつある「足さばき」。曖昧な表現だな…と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、「スタートを切ってから打球を捕るまでの足の動かし方」ぐらいの認識で十分かなと思います。フットワークと呼んだりもしますかね!

それでは源田選手のプレーで見ていきましょう。

この動画だと非常に分かりにくいのですが(影とスパイクが微妙に映っています笑)、実は打者のインパクトの直前、源田選手はすでに三遊間方向に重心を動かしています。おそらく球種やコース、打者のスイングの様子などから三遊間方向に打球が来ることをある程度予測していたのだと思います。

スタートを切り、三遊間に転がった打球に対してアプローチをかけていきます。捕球態勢に入る直前に注目してもらうと、それまでと足が刻むリズムが大きく変わり、細かく刻むような足さばきに変わっているのが分かるかと思います。

キャプチャ1

キャプチャ2

(いずれも動画よりキャプチャ。打球にアプローチをかけるときは歩幅が大きいですが、いざ捕球する直前には歩幅が小さくなっているのが分かると思います)

では、足を細かく刻む(細かなステップを踏む)ことにどんな利点があるのでしょうか。ここでは3点をピックアップしたいと思います。

2.足を細かく刻む利点は?

1点目は「打球への対応力が上がる」という点です。

学校の体育の時間に行う準備体操をイメージしてみてください。体操を行う前に「体操隊形に開け」という号令がかかり(地域差があれば申し訳ありません)、号令とともに整列隊形から体操隊形に移動すると思います。このとき、最初に「大体この辺かな?」というところまで移動し、そこから周りを見ながら細かく位置を調整して、きれいな隊形にしていくと思います。

守備もこれと同じです。この隊形移動の際の「微調整」が、捕球直前の細かな足さばきだと思ってもらえると分かりやすいのではないでしょうか。もちろん限度はありますが、細かく足を刻めば刻むほど自分の理想の捕球位置(好きな、捕りやすいバウンドだったり、送球につなげやすい捕球位置だったり)に近付くことができるわけです。それができると当然、難しいバウンドを捕りやすいバウンドに変えることもできますし、球場(人工芝や天然芝、土など)の違いによる打球の速さや跳ね方などにも順応しやすくなります。

また、イレギュラーにも対応しやすくなります。絶対あり得ませんが、打者が打ったボールが自分の所に飛んでくる途中で、地面にめり込んで止まったとしましょう(笑)その際、両足を地面にべたっとつけている場合と、足を動かしていた場合ではどちらの方が先にめり込んだボールを捕りに行けるでしょうか・・・愚問ですよね。

これは極端な例でしたが、捕球直前に打球が跳ねた場合、足が地面にくっつている状態だとイレギュラーにはグラブ(それも横の動きだけ)で対応するしかありません。ですが、足を動かせると、左足を一歩引いてグラブの動かせる範囲を前後左右に広げながら対応することも可能になります。

このように、自分の理想の捕球位置により近付くことができる、難しいバウンドを簡単にしたり、球場の違いやイレギュラーにも対応しやすくなる、というのが足を細かく動かすことの利点の1つ目です。


2点目は「体の流れを抑えることができる」という点です。

全力疾走している状態から急に「止まれ」と言われても、すぐに止まることはできませんよね。そのとき、ほとんどの人は歩幅を縮めながら細かく足を動かして止まろうとするのではないでしょうか。

打球処理のときも同じです。打球まで素早くダッシュしても、最後まで大きな歩幅のまま捕球に行くと、いわゆる「打球と衝突する」状態になりますし、ダッシュした方向に体が流れてしまい、本来、捕球の際に重心を向けるべきである投げる方向に、力が加わりづらい状態になってしまいます。遊撃手の二遊間や三遊間の打球だと、より顕著になります。この状態では、どんなに肩の強い選手でも(一部MLB選手は除く)強い送球をするのは難しいと思います。捕球前に細かく足を刻んで体の流れをしっかり抑えることで、そのあとの送球につなげることができます。もちろん打球によっては、捕球までに体の流れを抑えるための動きをする余裕がないものも当然ありますが…足を動かせる選手の利点であることに変わりはないと思います。


3点目は「送球との連動がしやすくなる」という点です。

ボールを投げるとき、普通に投げるのと助走をつけて投げるのとでは、助走をつけたときの方が強いボールが投げられますよね。捕球前の細かな足さばきは、この「助走」だと思ってもらえると良いのかなと思います。また、助走をとった後に強いボールを投げようと思うと、大体の人が2度ステップ(右投げの人であれば走った後、右左→右左の順にステップ)して投げると思います。これが一つのポイントになります。

内野手の目的は走者をアウトにすること。そのためにはなるべく早く、強い送球をする必要があります。素早い送球のために「スナップスロー」、強い送球のために「助走」と「ステップ」が必要ですが、捕球と送球が別々になるとこの部分に支障が出てきます。

捕球のときに両足を止めてしまう(待つ)と、「捕る」「投げる」が別の動作になってしまいます(捕球と送球が連動しない原因はこれだけではありませんが、今回は具体例として)。その状態から強いボールを投げようとすると、テイクバックなどの送球の準備動作が大きくなったり、ステップを余分に取ったりすることで時間がかかってしまいます。これはコンマ1秒を争う内野手にとっては致命的です。

細かな足さばきが出来ると、捕球→送球の流れの中で足が止まらないため、「止まる」時間がなくなり(捕球前の「間」は必要ですが、これと「止まる」では重心の位置などで違いがある)、「助走」をとった状態で送球に移れます。また、捕球時の足の動かし方は基本的に「右→左」で、捕球時は左足を着地すると思います。そこから右→左とステップを踏んで投げますが、この「右左→右左」の流れは上で書いた遠投のときの足の使い方と同じですよね。要は足をうまく使うことで(+重心を投げたい方向に傾けることで)、捕球と同時に「1回目のステップ」を踏め、強い送球が出来るわけです。細かな足さばきは「捕球と送球を連動させやすくなる」という点でも非常に有効です(捕球と送球の連動もこれだけが全てではありませんが、今回はこれくらいで…笑)。

これらの理由で(まだまだありますが…)、細かな足さばきが出来るというのは守備の中で非常に大きな利点になります。

説明が長くなってしまいましたが、源田選手はこの細かな足さばきで、捕りやすい位置(バックハンドの落ち際)に正確に素早く移動し、三遊間への体の流れを抑えました。


3.捕球~送球

「あれ、源田のプレーについて3つ目の利点(捕球と送球の連動)は関係ないの?」と思った方もいらっしゃるでしょう。

さて、ここで問題です。

この源田選手のプレーですが、送球は「ステップを踏んで投げている」でしょうか?それとも「ノーステップで投げている」でしょうか?


答えは「ステップを踏んで投げている」です。


確かに投げている場面だけ見れば、両足が地面に固定されておりノーステップのように見えますよね。

キャプチャ4

ここでは、捕球した直後から送球するまでの足運びに注目してみてください(正直、ここからが源田の本当のすごさです)。このフェーズのポイントこそが「捕球と送球の連動」。それではプレーを見ていきましょう。

足が細かな動きに変わると、源田選手はバックハンド(逆シングル)でグラブを差し出します。右足が着地し、左足が浮いている状態で打球を捕球すると、そこから左足→右足→左足と動かして送球に移り、ワンバウンドで一塁に送球。間一髪で打者走者をアウトにしました。

まずバックハンドでの捕球について。この打球だと正対して(正面に入り)フォアハンドで捕球するという選択肢もあったと思いますが、源田選手が選んだのはバックハンドでした。これは送球を視野に入れた判断です。正面に入ってフォアハンドで捕球すると、体が三塁側に流れた状態で捕球することになり、重心の立て直し(→ステップを踏んで送球)に時間がかかります。無理にノーステップなどでボールを早く離そうとしても、体重の乗らない弱い送球になっていたと思います。バックハンドで捕球したからこその間一髪アウトでした。

次に足の動かし方です。

上にも書いた通り、右足が着地して左足が浮いている状態で捕球し、そこから左足→右足→左足と動かしてからボールを離します。一見、送球のときは両足が突っ立った状態の、いわゆる「ノーステップ送球」に見えますよね。ですが、上で書いた「左足→右足→左足」こそが送球のためのステップになっているのです。

足さばきの利点のところで説明したとおり、しっかりと足が使えれば捕球時の足の動きが送球における「1つ目のステップ」(捕球と送球の連動)になるのですが、それはあくまでもフォアハンド捕球時の話。バックハンドでは重心を一塁方向に向けることは基本的に無理なので、多くの場合は一度体の流れを右足で止めて(右足で踏ん張り)、ノーステップなりステップを踏むなりして一塁に送球します。とても肩の強い選手とかならジャンピングスローなんかも選択肢に入ってくるかもしれませんが(基本的には不可能)。

源田選手は捕球直前から送球のためのステップを踏む準備を始め、捕球後に左→右→左の順にしっかりとステップを踏んでいます。捕球に入る直前に足を細かく刻んで体の流れを抑えているからこそ、捕球後の左足の一歩だけで体の流れを完全に止めて素早く捕球動作に移ることができ、右→左と送球のためだけのステップを踏むことができています。しっかりとステップを踏んでいるので強い送球をすることもできています。

もし捕球時に逆足(左足着地、右足が浮いている状態)だった場合は、単純にステップの歩数が1つ増えてしまうので(右左→右左と踏む必要がある)、その1歩分セーフになっていたと思います。

このプレーは常に「捕球と送球を一つのもの」として考えていないと出来ないプレーだと思いますが、さまざまな選択肢がある中でとっさにバックハンドで右足着地で捕球し、最小のステップを踏んでワンバウンドで投げる…という判断は本当に素晴らしいとしか言い様がありません。これは練習のたまものでもあると思いますし、持って生まれた部分もあると思います。マネしようと思っても簡単にマネ出来るプレーではありません。


4.まとめ

あえてスタート~捕球、捕球~送球と2つのフェーズに分けて解説しましたが、実際のところ、源田選手の守備に「2つのフェーズ」は存在しないと思います。区切りがないという表現の方が適切でしょうか。ここまで読んでいただいた方なら分かるかもしれませんが、解説の途中でお互いのフェーズにまたがりながら説明した部分があったと思います。それこそが、源田選手の捕球と送球が連動したものとなっている大きな証拠だと思います。

一見するとただのショートゴロですが、たった1プレーでも突き詰めていくと5000字を超えてしまう(ちょうど5555字でした笑)くらいには野球って面白くて、奥深いんだということを改めて実感しました。1日でも早く新型コロナが収束し、野球が見れる日が来ることを楽しみにしています!

つたない文章かつ、所々間違えているところもあるかもしれませんが、何かのお役に立てば幸いです。最後まで読んでいただいた方、本当にありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?