H30/10/28 秋季近畿大会準々決勝「報徳学園-明石商業」試合レポート

どうもこんにちは遊撃です。

今回は秋季近畿大会の準々決勝「報徳学園-明石商業」の試合レポートを書いていきたいと思います。

今夏の選手権の代表校(東兵庫:報徳学園、西兵庫:明石商業)でもある両校による、来春の選抜の「当確」を懸けた兵庫県勢同士のサバイバル。好投手を軸に、攻守にレベルの高い「兵庫の野球」が、近畿大会の舞台でもいかんなく発揮された。この一戦を通して、明石商業の強さの理由が少し分かった気がした。

平成30年度秋季近畿大会準々決勝
(ほっともっとフィールド神戸)
報徳学園(兵庫③)0-4明石商業(兵庫①)

報徳 000 000 000 計0 H4 E2
明商 000 000 31× 計4 H11 E3

報徳学園スタメン
1捕 西井②△
2左 中井⑦△
3右 赤﨑⑨
4三 浦上⑤
5一 岸野③△
6中 三宅⑭△
7二 岩本④
8遊 大﨑⑥
9投 林①△

明石商業スタメン
1中 来田⑧△
2捕 水上②
3三 重宮⑤
4右 安藤⑨△
5左 溝尾⑦
6遊 河野⑥△
7一 清水④
8二 岡田⑱
9投 宮口⑩

(〇数字は背番号、△は左打者)

【試合の振り返り】
5回までは、報徳学園の①と明石商業の⑩宮口による、息詰まる投手戦が展開された。
報徳学園の左腕①はストライク先行でテンポよく打たせて取った。5回までに要した球数は51球、被安打は2。左打者にはスライダー、右打者にはチェンジアップを効果的に使い、うまく打者のタイミングを外した。直球の最速は140キロを超え力があり、明石商業打線はかなり押し込まれていた。
明石商業の⑩宮口は右投げ、サイド気味のスリークォーター。右打者には外のスライダー、左打者には外の直球やシンカー(逃げていくチェンジアップ)を中心に投球を組み立てた。5回までに打たれたヒットは内野安打1本のみで、奪った三振は5つ。打者の目線を上げる緩いカーブも効果的だった。直球の最速は140キロに迫る。綺麗なストレートではなく、手元で動いているように見えた。その分、打者の芯を外す打球(ゴロ)が目立っていた。

5回終了時点での両投手の投球成績
報徳学園:①林△
球数51 被安打2 与四死球0 奪三振2
ストライク38球(ストライク率74.5%)
初球ストライク率:66.7%
ゴロアウト:5 フライアウト:8

明石商業:⑩宮口
球数73 被安打1 与四球1 与死球0 奪三振5
ストライク47球(ストライク率64.4%)
初球ストライク率:58.8%
ゴロアウト:6 フライアウト:3

6回裏、明石商業は報徳学園のサード浦上の失策と、3番重宮の右前安打で1死1,3塁のチャンスを作る。ここで打席には4番の安藤を迎えた。

この場面で、報徳学園の内野陣は「中間守備」を採った。中間守備とは、二塁手と遊撃手が「定位置と前進守備のちょうど真ん中ぐらい」を守り、弱い打球であれば前にダッシュして本塁へ送球し、サードランナーの封殺を狙い、強い打球であれば二塁を経由して併殺を狙う守備体系である。予め本塁でのアウトだけ、二塁経由の併殺だけを狙うのではなく、打球によって最善のプレーを判断・選択できるため、1,3塁の際に一番よく使用されるシフトだ。一見、非常に効果的で効率的な守備体系のように思えるが、実はこの中間守備はかなり難しい

なぜ難しいのか。その理由は、打球が飛んで初めてどのプレーを選択するのかの判断をしなければならないから、そしてその選択肢が多いからである。

例えば同じ1死1,3塁で、前進守備を採ったとしよう。
このとき、内野手はどんな打球でも、基本的には「本塁でのアウト」を一番に考えてプレーをすればいい。間に合わなければ一塁でアウトを取る。選択肢は2つなので、思考は整理しやすい。この前進守備は主に終盤の1点を争う場面これ以上の失点が絶対に許されない場面で採用される。

では、同じ場面でゲッツーシフト(二遊間は中間守備より深いところで守る)を採ったとしよう。
このときは、どんな打球でもまずは二塁での封殺を狙えばいい。それが厳しければ一塁でアウトを取る。これも選択肢は2つなので、そんなにややこしくはない。走者が1,3塁のときのゲッツーシフトは、1点はOKなのでアウトカウントを増やしたい場面2点目を防ぎたい(3~5点リードなど)場面などで使われる。

最後に、同じ場面で定位置で守ったとしよう。
この場合は、一塁でのアウトが最優先になるので、難しいことを考える必要はない。選択肢も1つになる。とにかく打者走者をアウトにすることだけを考えておけばいい。走者1,3塁の場面での定位置は、大量リードの場面や、とにかくアウトカウントを1つずつ重ねることが最優先の場面で用いられる。

これら3つと中間守備を比較すると、中間守備の難しさが掴めてくる。上の3つは、形は違えど、打球が来る前から「どのプレーを選択すればいいか」がハッキリとしている。前進守備とゲッツーシフトは、プレーにおける選択肢が2つあるものの、最優先のものが厳しければもう一方を選択するという形なので、判断力はさほど問われない。

逆に中間守備は、打球が来る前はどのプレーを選択すべきか分からない。打球が飛んで初めて、どのプレーを選択するかの判断をすることができる。そして、その選択肢の数も「①前へダッシュして本塁封殺」「②二塁を経由して併殺」「③一塁でアウトを1つ」と最多の3つに増える。これを早ければバットに当たった瞬間に、遅くても打球が自分の所に来るまでの一瞬で判断して、プレーに移さなければならない。「遅くても」と書いたのは、実際には1つのプレーの前には準備(捕球体制を作ったり、打球までダッシュしたり)があるので、捕球した時点で判断したのでは遅いためだ。中間守備において、野手には瞬時の判断力が求められる。

このように、守備側としては走者1,3塁の場面は守りにくい。逆に言えば、攻撃側としては、この1,3塁を作れば相手にプレッシャーをかけることができる。明石商業は犠打やエンドランを駆使して、この1,3塁を作るのが非常にうまい。これも明石商業の強さの理由の1つであると思う。

試合に戻る。6回裏、1死1,3塁で打席には4番の安藤。守る報徳学園は中間守備を採った。安藤の打球はショートへ。強い打球だったため、報徳学園のショート大﨑は迷わず二塁へ送球。セカンドの岩本が一塁へ転送し、併殺を完成させた。1点を争う場面で難易度の高い中間守備をとり、併殺を完成させてピンチをしのぐ。初戦の近江戦(「近江-報徳学園」の試合レポートはコチラ)でも強く感じた報徳学園の守りの堅さを再度実感する形になった。

7回表、報徳学園はピンチを切り抜けた流れそのままに、先頭の4番浦上が左前安打で出塁。先頭打者の出塁はこの試合初めてだった。これまでの報徳の戦い方を振り返ると、この場面は当然バント。5番の岸野はやはりバントの構えを見せた。初球がストライクとなった後の2球目、岸野が転がした打球は明石商業の捕手水上の前へ。水上は躊躇なく二塁へ送球。送球を受けたショートの河野も素早く一塁へ転送し、併殺を完成させた。

明石商業は元々守備の堅いチーム。しかし、今大会はその守備が乱れる場面が散見された。それでも、1回戦もそうだったが、勝負所では本当にミスが出ない。まだ完成形ではないとはいえ、鍛えられている証拠だと思う。

絶好のチャンスを逃す形となった報徳学園に、その裏、明石商業の打線が襲い掛かる。1死後、6番河野が報徳学園の①の真ん中に入った直球をとらえて中前安打を放った。明石商業は1死からでも送ってくるチーム。この試合でも、2回に1死からの送りバントを見せていた。

打席の7番清水はバントの構えを見せる。しかし、構えを見せるだけで簡単には送ってこない。そんな光景が4球続いた。そして1死1塁、カウント2-2の5球目に明石商業が選択したのは「バスターエンドラン」だった。これがセンターの前にポトリと落ち、1死1,2塁とチャンスを広げた。

続く8番岡田は、①の高めに浮いたスライダーを捉えてライトへの二塁打を放ち、ついに明石商業が1点を先制した。なおも1死2,3塁。打席には初戦でスクイズを決めている9番の宮口。ここも当然、スクイズが考えられる場面だ。

宮口は毎球スクイズの構えを見せるが、実行はしない。報徳学園のバッテリーも、スクイズを警戒してウエストをする場面もあった。そのままカウントは3-2に。林の投球とともに3塁走者がスタートを切った。この場面で明石商業が選択した作戦はやはりスクイズ…ではなく「ヒットエンドラン」だった。

走者を三塁に置いた場面でのヒットエンドランは、軟式野球ではよく使われる作戦だが、打球がライナーやフライになったときに併殺になる可能性が高くなるため、硬式野球ではあまり使用されない作戦だ。

宮口はゴロを打つために「バットを上からかぶせるように当てるだけ」の打撃をしたが、これがライトの前にポトリと落ちるヒットになった。2人の走者が生還し3-0。多彩な攻撃ができることを見せつけた。

8回裏は、先頭の4番安藤が左前安打で出塁した後、5番の溝尾はきっちりと初球でバントを成功させた。続く6番河野が、7回途中からリリーフしていた報徳学園の⑩坂口の高めの直球に力負けせず上から叩き、右翼線へもっていった。この二塁打で走者が生還し4-0。試合を決定づけた。

先発の⑩宮口は9回もマウンドへ上がった。ヒットを許すも、最後の打者を三振と盗塁失敗の併殺で抑え、見事4安打完封。明石商業が「県内公式戦27連勝」の王者ぶりを見せつけ、来春の選抜の切符をほぼ手中に収めた。

試合終了
報徳学園0-4明石商業
【投手成績】(△は左腕)
〇報徳学園
・①林△ 投球回6と2/3 球数92 被安打9
与四死球0 奪三振2 失点3 自責点3
・⑩坂口 投球回1と1/3 球数21 被安打2
与四死球0 奪三振0 失点1 自責点1

〇明石商業
・⑩宮口 投球回9 球数141 被安打4
与四球2 与死球0 奪三振9 失点0 自責点0

【雑感】
攻守ともにミスはいくつかあったが、レベルの高い試合だった。明石商業は、この日は最速140キロ中盤を誇る1年生エースの①中森ではなく、初戦の京都国際戦で好リリーフを見せた背番号10の宮口を先発起用。その宮口は狭間監督の期待に応える見事な投球を見せた。守備に関してはまだ不安はあるが(この日の失策数は3)、試合前ノックを見る限り、初戦からはかなり修正されていた。元々守りの堅さが持ち味のチーム。準決勝の智辯和歌山戦までに更なる修正を期待したい。ただ、上でも書いた通り、勝負所でミスが出ない点は流石。これは間違いなく明石商業の強さの理由の1つであると思う。

攻撃面に関しても強さが窺えた。犠打に関しては4度試み、2度ミスはあったものの、成功した2度はいずれも初球をきっちりと転がした。明石商業は守りが固く、そんなに失点をするチームではない。だからこそ「1点の価値」は高くなる。それを踏まえた上で、きっちりと走者を先の塁へ進めて、スクイズなどで1点を確実に取る攻撃を得意としている。

その「確実に1点を取る」攻撃に関して、この日は多彩さが目立った。7回の攻撃(上記)で、1死1塁から7番の清水が、バントの構えを見せながらも簡単には送らず、最後はバスターエンドランを成功させたり、1死2,3塁から9番の宮口が何度もスクイズの構えを見せながらも、実際にはやらず、最後はエンドランを成功させたりと、バントだけでなく、いろいろな形で得点に繋げられるということを証明した。明石商業が「バントを武器にしている」という印象は、相手チームにも少なからずあるはずだ。そこを逆手に取り、相手バッテリーを揺さぶっていたのは見事だった。

初球でバントを決めたり、バントの構えで揺さぶった上で別の作戦を仕掛けたり、こういう一種の「いやらしさ」のようなものがあるから、投手は余計な気を使ってしまい、打者に対して甘いボールが増えてしまう。明石商業の各打者がそれを逃さないから厄介だ。初戦の京都国際戦、そしてこの日の報徳学園戦を通して、私はこのあたりに明石商業の強さを感じた。

報徳学園は、この日は2個失策が出てしまったが、6回に中間守備で併殺を取った場面(上記参照)など、随所で好守が光った。初戦の近江戦の際にも書いたが、守りの完成度は見事。この冬、もっと高いレベルを目指してほしい。

投手陣に関しては、①も⑩坂口も好投していたと思う。ただ、やはり明石商業のようなレベルの相手となると、甘いボールを見逃してくれない。7回裏に①林が岡田に許したライトへの適時二塁打や、8回裏に⑩坂口が河野に許した二塁打は、いずれも高めの甘いボールを打たれたものだった。2人とも力があるからこそ、ピンチの際にどれだけ丁寧な投球ができるかというところにこだわってほしい。

打線は明石商業の⑩宮口の前に、わずか4安打に抑え込まれた。元々、報徳学園は打線にそこまでの力があるわけではないが、いい投手と対戦した時にどうやって点を取っていくのか、というところは今後も課題であり続けるだろう。初戦の近江戦は、犠打でチャンスを広げて、一本に期待する攻撃を見せていたが、この日は足を絡めた攻撃を試みていた。結果には繋がらなかったが、相手に応じて攻撃を変えていくことができる柔軟性は見せることができたのではないか。

とはいえ、4安打と抑え込まれたことで、打てなければ勝てないということはそれぞれが感じたはず。まだまだスイングに非力さを感じる打者も多かったので、この冬にしっかりとウエイトやスイングを重ねて、振る力を身に付けてほしい。守りの完成度が高く、好投手も2枚揃っているだけに、このチームに打力がついたときのことを考えると期待は膨らむばかりだ。

【まとめ】
勝負所でのミスが出ない点、攻撃の多彩さ、そして「いやらしさ」。これはまだまだほんの一部分だと思うが、明石商業の強さのワケを垣間見た気がした。兵庫県内公式戦27連勝はダテじゃない。

明石商業だけでなく報徳学園もだが、秋のチームとは思えないほどの完成度だった。これくらい完成度の高いチームじゃないと勝ち抜けない兵庫のレベルの高さに驚くとともに、両校が春以降どんなチームになるのかというワクワクも感じた。

報徳学園は、来春の選抜への出場は厳しいかもしれない。そして夏は明石商業を倒さないと甲子園には行けない。この先も悉く壁として立ちはだかるであろう明石商業に勝てるチームを作ることは、全国で勝てるチームを作ることと同義だと思う。目標をしっかりと持って鍛錬してほしい。

明石商業は次戦、決勝進出をかけて智辯和歌山と対戦する。既に全国でも戦えるだけの力を持っている両校だが、その野球のスタイルは「真逆」と言っても良いだろう。どんな試合になるのか、今から楽しみだ。

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