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【変な白猫】~【企画】猫と帽子の創作コンテスト~参加いたします!!

昼下がりの公園で、ベンチに腰掛けながら、日がな一日、もの思いにふける。会社を辞めてからというもの、何もする気が起きず、ダラダラと時間だけが過ぎていった。

そんな生きているからどうかも分からない不毛な世界に存在するのは、うとうとしている野良猫ぐらいだ。

「お前らは、いいなぁ、自由で。何の悩みもなさそうだ。」

「これだからニンゲンというものは。」

「誰だ?」

どこからか声が聞こえてきた。
辺りを見渡してみるも、その声の主が見つからない。

「下じゃよ」

ベンチの足元を見ると、シルクハットを被った白猫が、やれやれといった表情で、こちらへ歩み寄ってきた。

「そもそも。おぬしは・・・」

「ちょっと、待って!さも当然のごとく喋ってるんだけど。ってか、普通に二足歩行なんですけど!」

「礼儀というものがなっておらんな。お主。猫の話を遮るとは。」

「いやいや。だって。猫じゃん。」

「いかにも。吾輩は猫である。名前はまだない。とか言ったら、お主は喜ぶのか」

「別に喜ばないけど」

「お主は、なぜ猫がいいと思ったのだ」

「なぜって、自由気ままに生きてるし、マイペースだし、なんか悩みなさそうだなぁって。」

「お主は、悩んでおるのか」

「まぁ。少しね。」

「少しとは」

「今のボクは、無職だし、何の取り柄もないし、何の魅力も無いから。」

「それは、誰かに言われたのか」

「そんなもんかな。失敗ばかりで、自分の無能さを痛感したよ。毎日毎日、上司にどやされている内に、何もかもが嫌になって、会社に行けなくなった。そして今、このありさまさ」

「このありさまとは」

「何もないんだよ。ボクには。」

「何もないのか。お主には」

「何もないよ。ボクには」

「そうか。何もないんじゃな。お主には。」

「何度も言わせるなよ。」

「好都合じゃ。」

「何を言ってるんだよ。」

「これから、見つければいいんじゃ。お主のやってみたいことを。」

「簡単に言ってくれるよ。」

「簡単ではないぞ。」

真っ黒な瞳がボクを見つめる。

「なんで、こんなにも生きづらいんだよ」

「生きるということは、時には迷子になることも必要なんじゃ」

「そんなのいらないよ。こんなに苦しいのなら。」

「なら。辞めるか。いっそのこと。」

「何を?」

「今までのお主をじゃよ。」

「ボクを。辞める?」

「そうじゃ。今までのお主を。自分を責めるお主を辞めるのじゃ。」

「でも、ボクには、」

「それじゃ。『でも』とか『ボクには』とか、そう言った類いのものじゃ」

「だけど」

「それもじゃ」

何も言葉が出てこない。
今まで使ってきたほとんどが、ボク自身を否定することばかりで、それらを封印されると、なんて言っていいのか分からない。

「お主は。どうなりたい。」

「ボクは。」

久しく考えてこなかった。
ボクがどうなりたいかなんて。
自分を否定することに、たくさんの時間を費やすがあまり『自分が何をやりたいのか』分からない。

「それを。見つけるんじゃ。これから。焦らずに。少しずつ。」

「見つかるかな。」

「ただ。待っているだけじゃ。見つからんぞ。」

「どうすれば見つかるのかな」

「とりあえず、歩いて見ることじゃな」

「歩いてみる?」

「悩んで、立ち止まって、もがいて、苦しんだなら、もう一回、歩いて見ることじゃ」

「どこに?」

「お主が、行きたいと思った道じゃ」

「その道は、あってるの?」

「それは、お主が決めるんじゃ。どの道も、正解も不正解もないのじゃから」

「ボクが決めるの?」

「そうじゃ。たくさん失敗することもあるじゃろ。その失敗を次の一歩にするかは、お主が決めるんじゃ。」

「君も決めてきたの?」

「当たり前じゃ。」

「ボクのやってみたいことかぁ」

「いきなりは、見つからんかもしれんが、考えると少しワクワクせんか」

「確かに、そうだね。やってみたいことを考えるなんて、なんだか、ワクワクするね。ちなみに、キミがやってみたいことは、何なの?」

「わしか?わしはな、たくさんあるが。今日のやりたいことは、終わったのぉ。」

「早いなぁ。何なの?お昼寝とか?」

「お主は。わしをなんだと思っておる」

「シルクハットをかぶった変な白猫」

「その通りじゃな。ワシが今日やりたかったことはな」

「キミのやりたかったことは」

「お主のワクワクする顔を見ることじゃ」

「変なの」

「わしは。変な白猫じゃからな」

「変な白猫さん」

「なんじゃ」

「ありがとう」

「いい顔じゃ。頑張るんじゃぞ。」

「はい」

少しだけ微笑んだように見えた白猫は、ボクに背を向け、ゆっくりと歩き出した。

その姿を目で追っていると、ボクを狙うかのように、強い風が吹いた。

とっさに目をつむるボク。

まぶたを開いた時には。白猫の姿は、もう。なかった。

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えぴさんの企画に参加させて頂きました!!

楽しい企画をありがとうございます😁

まだ参加されていない方は、ぜひとも参加してみては、いかがでしょうか😊

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