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街とその不確かな壁 を読む

本を読んで感想を残す、という行為を始めたのは最近のことだ。
私はインプット大好き人間だけど、そこに自分の感想や意見を残すという行為は人目につくつかないに関わらずほとんどしたことがなかった。
だからとても苦手なことであり、少しずつリハビリをしている最中だ。
本当はTwitterにひとつふたつ呟くくらいでいいのだけど、発売日から3日しか経っていないので、感想とか見たくない人もいるかも・・・と思ってnoteに書いておくことにした。




村上春樹「街とその不確かな壁」の感想になります。(ネタバレあり)




本を発売日に買ったのなんていつぶりだろう。
そもそも発売日を追っかけている作家は私の中でふたりしかいない。
そのうちのひとりが村上春樹である。
最後に発売日に読んだのは「1Q84」な気がしたけど、受験とかぶっているから果たして発売日に読んだのか定かではない。

そんな私が今回発売日に本を買って読もうと思ったのにはいくつかの要因がある。
・現在、良質なインプットを心がけているところである
・本を読めるくらい精神的な余裕があった
・あきやさんが「本はよい」と何度も発信されていた
・自分なりの読書の仕方がわかってきた
こんな偶然がいくつも重なって私は発売日に本を手に取った。

本屋さんには、立ち読みをしているひとや同じ本を持ってレジに並んでいるひとがいた。「仲間だね♪」なんて心の中で思いながら購入した。

私は本にのめりこんでしまうタイプなので毎日ちょっとずつ読むことについて最近ようやく諦めがついて、雨予報で予定がなくなった土曜日にすべて読み切ってしまおうと計画をたてた。

朝、目が覚めてSNSをいくつか徘徊して、そのまま読み始めた。
タイトルを見たときに私の一番大好きな「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」と似たような話だったらいいなと思っていた。
最初、読んで少しびっくりした。高校生の男女の物語だったから。
今さらこんな甘酸っぱい青春みたいな文章が書けるのか!(失礼)と思いつつ数ページ読むと、高校生の男女が話しているのは「世界の終り」とよく似た世界の話のように感じた。
私は「世界の終り」が大好きすぎるので、うれしくなって、さらに数ページ読むと、これは「世界の終り」と同じ世界なんだ!と気づいて、ぞわっとした。
(あとがきを読んで知ったのですが、元々デビューする前に文芸誌で「街と、その不確かな壁」という作品を発表していたのを、アレンジしたのが「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」で、今回はもう一度書き直した、というようなことでした。)

私は「世界の終り」の世界観が大好きだ。
きれいで儚くて切ない。その街には単角獣がいて、その描写があまりにもきれいで、ユニコーンが好きになった。
そして「夢読み」のようなオンリーワンな職業に憧れた。

だから、もう一度「世界の終り」の世界を見ることができて本当にうれしかった。
それだけでなく、「井戸」や「自分の感情をコントロールできない少女」の描写から「ねじまき鳥クロニクル」や「ダンス・ダンス・ダンス」を想起させた。
もしや、これは今までの集大成的な小説で、今までの小説のエッセンスが詰め込まれているのかも?と考えたけど、それは考えすぎだった。

今まで村上春樹の小説から何かをうまくキャッチできたことがなかった。それは書き手ではなくて、読み手(私)の問題で、同じ本を何度も何度も読んで受け取ろうと努力はしたんだけど、なかなか受け取れなかった。
だけど、今回読み進めていくと、初めてなんとなく受け取れたような気がした。
それが偶然なのか、私の成長なのか、わかりやすく書いてもらったのかはわからない。

私が今回受け取れたのは
「完璧なものなんて何もない」
「自分が心の底から信じたらそれは真実であり現実」
というメッセージで、私の進んでいる方向と合っているように感じた。

そしてあとがきにこのような言葉があった。

ホルヘ・ルイス・ボルヘスが言ったように、一人の作家が一生のうちに真摯に語ることができる物語は、基本的に数が限られている。我々はその限られた数のモチーフを、手を変え品を変え、様々な形に書き換えていくだけなのだ―と言ってしまっていいかもしれない。

街とその不確かな壁 P.661あとがき より

これは作家だけでなくて、結局一人の人間が生きている間のテーマはひとつだけで、そこに対してさまざまなアプローチをしたり、表現をしているのではないかな、と思った。
私のテーマはぼんやりとだけどわかってきている。
このテーマをいろんな形で私なりに表現していきたいなあ。

いつも以上に散文だけど、今の自分が読めてよかった。
私にしか伝わらない興奮だけど、このまま保存しておこう。
(あと装丁がたまらなくツボ。暗い色に金の箔押しはやっぱり大好物すぎるし、中の挿絵は版画風で私はやっぱり版画が好きだなと思った)

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