おはなし「くますけ君とえんぴつ君」

1、
くますけ君はぐるぐると円を描くのが好きです。
また、えんぴつ君も、くますけ君にぐるぐると円を描いてもらうことが好きです。

2、
そんなくますけ君は、学校へ行くようになりました。
えんぴつ君は、ペンケースの中にいます。
くますけ君はひとつひとつの文字を、えんぴつ君で書きながら覚えてゆきます。
とてもえらいことです。

3、
いつしか、くますけ君は、たくさんの文字を覚えました。
そして、えんぴつ君で、たくさんの文字を書きました。
とてもすばらしいことです。
でも、えんぴつ君はすこしさびしく思いました。
くますけ君が、えんぴつ君で、円をぐるぐると描くことが無くなってしまったからです。

4、
えんぴつ君は、ボールペンさんに悩みを話しました。
「それはね、せいちょうというものですよ」
ボールペンさんは、言いました。
「とても良いことなのです。悲しむなんて、私やあなかたのような文房具たちがするべきことでは無いのです」
えんぴつ君も、それは頭では分かっているのです。

5、
ある日、くますけ君宛てにお手紙が届きました。知らない遠い向こうの島からのお手紙です。
あ、そうか、とくますけ君は思い出しました。
海へお出かけした時に、キャンディの瓶の中へ、くますけ君はお手紙を入れ、海の流れに渡してみたのです。
ほんのすこし、やってみたかったのですね。

6、
くますけ君は遠い島からのお手紙にお返事を書き始めましたよ。
えんぴつ君もなんだかどきどきしました。
「は じ め ま し て」。
いっしょうけんめい、ていねいに書きました。

7、
くますけ君は、何度かのお手紙を届けていると、お返事をくれる、くまむらさんのこととか、島はここよりもあたたかい場所であることとか、こっちが雨の日でも、向こうの島では晴れていることとか、しだいに分かってきました。
えんぴつ君は、そうしたお手紙を書くことが好きだったのです。

8、
えんぴつ君は、やがて、短くなってゆきました。
そして、くますけ君は、ずっと背が高くなりましたね。

9、
あたらしくペンケースにやってきた、えんぴつさんたちに、短くなったえんぴつ君は、やがて自分が忘れられることを伝えました。
ボールペンさんのすがたもまた、そこにはありませんでした。
ああそうです。
今日は、学校のテストの日のようです。

10、
くますけ君が机にすわると、となりのくまごろう君が、なにかあわてています。
どうやら、持ってくるえんぴつたちを忘れてしまったのですね。
「どんなえんぴつですか?」とくますけ君は聞きました。
「うーん、ふつうのえんぴつなんだけどね」。
くまごろう君は答えました。

11、
くますけ君は、くまごろう君に、短くなったえんぴつ君をわたしました。
「いいのかい?ありがとう」
「うん」
えんぴつ君はとなりの席ですこし、くますけ君の顔を見ました。
なんだか、自分のことも、くますけ君のことも、とてもじまんに思ったのです。

12、
とおいむこうの島の、くまむらさんに、くますけ君はあたらしいえんぴつさんでお手紙を書きました。
島のむこうは晴れている気がしています。
それはそういう気持ちがしているからです。

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