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事業のネタ帳 #25 ユースケースから考えるWeb3事業機会(前編)
2019年以来のクリプト・ウィンター(暗号資産の冬)が訪れました。
マクロ経済の悪化やTerra(LUNA)・3ACなどの破綻騒動により、暗号資産全体の時価総額は、2021年11月の3兆ドルから、1兆ドルまで減少しました。BTCとETHの価格もピークから70%ほどの大幅な下落を見せています。
OpenSeaの月間取扱ボリュームは6月以降大きく低下。DeFiのTotal Value Locked (TVL)も11月のピークから60%以上減少しました。
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ブロックチェーンスタートアップの資金調達額も2022Q2は2年ぶりの減少となり、進行中の2022Q3はさらなる減少が見込まれます。
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2022年3月に「東南アジアにおけるWeb3スタートアップの事業機会」というnoteを書き、その後も東南アジアや日本のWeb3スタートアップやVC/クリプトファンドの方々とお話ししていますが市場環境・投資家心理は大きく変化しています。
東南アジアのミドル・レイターステージの投資家たちは投資方針を明確に変更しており、Web3への投資スタンスも再考のタイミングとなっています。
FOMOによる投機熱が冷めた今だからこそ、冷静に過去を振り返り、未来について思考を巡らせることができるはずです。
Web3は投資に見合うリターンをもたらすのか?
Redpoint Ventures のMDのLogan Bartlett による新しいポッドキャスト Cartoon Avatarsで、 Flatiron Health の共同創業者で Operator PartnersのGP の Zach Weinberg氏がNot Boring CapitalのPacky McCormick氏などの識者を交えてweb3のユースケースについて議論した動画が物議を醸しています。
Yesterday @packyM was asked to explain a Web3 use case.
— Liron Shapira (@liron) June 4, 2022
I clipped this gem from 8:40 of @loganbartlett's latest @cartoonavatars podcast episode with co-host @zachweinberg.
Highly recommended... pic.twitter.com/x8Vdy1xb6o
Web3に懐疑的なWeinberg氏がMcCormick氏に対して、Web3やブロックチェーンが本当に必要となるユースケースについて質問したところ、McCormick氏は不動産売買を事例として下記のように回答しました。
「従来の不動産売買は長く負担のかかるプロセスですが、理論的にはNFTでリプレイスすることできる。バンク・オブ・アメリカに行って住宅ローンを借りるのとは異なり、迅速にかつグローバル市場で借り入れを行うことができ、よりオープンなシステムで、より創造的な取引ができるようになる」とMcCormick氏は話しています。
そして、Weinberg氏がブロックチェーンベースの住宅ローン市場で貸し手がお金を取り戻せなくなった場合にどうなるかを問いかけたところ、McCormick氏は貸し手は裁判所を介して法的措置を取ることができると答えました。
そこにWeinberg氏はスマートコントラクトは仲介者を介入させずにコンピューターで取引を完結できることがスマートな点であり、既存の法執行機関に依存する場合は今ある住宅ローンのインフラを作り直しているだけであり、ブロックチェーンベースにする利点はないのではないか、と指摘しています。
その議論の場で納得のいく回答ができなかったMcCormick氏は、後日ブログで下記のように主張を整理しています。
As Zach Weinberg highlighted in our debate on DeFi and housing, there’s a lot to figure out to bring real world assets (RWA) online. For one, what happens in the case of default? While defaults are a rare occurrence that happen on less than 2% of loans, they will still need to be settled on paper, in courts. There will need to be hybrid solutions that mirror some analog workflows. But dealing with legacy processes for a small minority of cases in order to make the majority of cases faster, cheaper, more efficient, and more composable is a feature, not a bug.
Zach WeinbergがDeFiと住宅に関する討論で強調したように、実世界の資産(RWA)をオンライン化するためには、考えなければならないことがたくさんあります。ひとつは、デフォルト(債務不履行)の場合にどうするかということです。デフォルトはローンの2%未満と稀なケースですが、それでも紙の上で、法廷で解決される必要があります。アナログなワークフローを反映したハイブリッドなソリューションが必要でしょう。しかし、大多数のケースをより速く、より安く、より効率的に、そしてよりコンポーザブルにするために、ごく少数のケースでレガシーなプロセスに対処することは、バグではなく特徴であると言えます。
Web3というキーワードは抽象的で複合的な意味合いがあり、そのユースケースがもたらす価値についても時間軸や期待するインパクトの大きさが人によってバラバラで議論の前提が揃いにくいところがあります。
上記の議論の後に、Weinberg氏は下記のように自身の考えをまとめています。
Basically my entire web3 take summarized:
— Tweets from Zach Weinberg™ (@zachweinberg) June 20, 2022
I think the hype/risk is not remotely worth the reward. Especially when normal people are buying into the coins and the excess VC dollars crowd out more useful work.
Agree there are a few small use cases here and there. It's not zero.
「Web3の誇大広告やリスクの高さなどの問題は、実際に生まれているユースケースの価値を大きく超えている。とりわけ一般人が投資/投機ができてしまうこと、そしてVCによって別の産業に投資されるべき数百億ドルの資金が、Web3に投下されていることは問題である。Web3のユースケースはゼロではなく、少数ながら実在していることには同意するが。」
全てのテクノロジーがハイプサイクルにおける過度な期待と幻滅期を経て社会実装に向かっていきます。
Web3においても誇大広告やリスクの高さ、数百億ドルの資金投入に見合う価値のあるユースケースが中長期的に生まれるかどうかが論点となります。
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上記の議論に参加していたNot BoringのPacky McCormickによるWeb3 Use Cases(前編・後編)を基にWeb3のユースケースを考えていきます。本日は前編の「Web3 Use Cases: Today」についてです。
ハイパーストラクチャー
Zoraの共同創業者Jacob Horneが提唱するハイパーストラクチャーは、「メンテナンス、中断、仲介なしで、無料で永遠に実行できる暗号プロトコル」であり、「完全にオンチェーンで、すべての参加者のために正和のエコシステムを構築する公共財」です。
下記の条件を満たす場合にハイパーストラクチャーと呼ばれます。
Unstoppable:基盤となるブロックチェーンが存在する限りプロトコルは誰にも止められず稼働し続ける。
無料:プロトコル全体の手数料は0%で、ガス代のみで実行される。
価値:所有者がアクセスでき、実行可能な価値が発生するものです。
拡張性:プロトコルの参加者にインセンティブが組み込まれていること。
パーミッションレス:普遍的にアクセス可能で検閲に強い。ビルダーとユーザーは、プラットフォームから外れることはできません。
ポジティブサム:参加者が同じインフラを利用することで、Win-Winの環境を作ることができます。
信頼できる中立性:プロトコルはユーザーを問いません。
McCormick氏がweb3に期待する理由は、「web3は人類が構築したどのシステムよりも、新しい経済モデルやガバナンスモデルを迅速に反復して実験することを可能にするため」であり、ハイパーストラクチャーがその中核に位置するコンセプトだとしています。
現在のユースケース
NFT:OpenSeaのみで180万アカウントが319億ドルのETHベースのNFTを購入し、そのうち313億ドルは2021年に取引された。NounsやDoodlesなどの興味深いプロジェクトも生まれている。
分散型取引所(DEX):代表的なDEXであるUniswapはたった50人のチームで1兆ドルを超える取扱高を達成した。
DeFiプロトコル:Compound、Maker、AaveなどのDeFiレンディングプロトコルは、CelsiusやBabel Financeなどの中央集権的なDeFiレンダーが苦戦する市場環境で健闘している。
リアルワールド・レンディング:Goldfinch とJiaは、新興国の信用格差の解消に取り組む。Goldfinchではインド、メキシコ、東南アジアなどで20万人以上の人々がクレジットにアクセスすることを手助けしており、Jiaは新興国の事業者に融資を提供することで信用格差の是正を目指す。
User-Owned Marketplaces:Braintrustはユーザーが所有する人材マーケットプレイスで、高いスキルを持つエンジニア人材とNike、NASA、Porscheなどの企業の仕事を結びつけている。Braintrustの手数料率は業界最低水準の10%で、過去5ヶ月でGSVが7400万ドルに倍増している。
Connected Device Networks:HeliumとDIMOは、ユーザーによって構築されたネットワークと、ユーザーが所有するデバイスで取得されたデータを活用して構築されたアプリケーションのエコシステムを構築する。
ステーブルコイン:USDC、DAI、その他の完全/超過担保付きステーブルコインは、特に国際決済のために利用されており、これまで1,550億ドル以上のステーブルコインが発行されている。
ファイナンスとユーザー体験
Axie InfinityやSTEPNは、主にX to Earnによるファイナンシャルなインセンティブによって数百万人のユーザー獲得に成功しましたが、ユーザー体験価値によって持続的なプロダクトに到達したとは言えない状況です。
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クリプトはまた一つのサイクルが終わり弱気相場に突入しましたが、起業家や開発者たちの熱は冷めておらず、新しいユースケースやハイパーストラクチャーとなるプロダクトが生まれてくるはずです。
次回の後編では、未来のユースケースと事業機会について書いていきたいと思います。
おわりに
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