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ラポール 7:自然に巻き込まれていくパターン

木之下:前回は、思いっきり、恋愛心理学が入りました。今日は、違う角度から、巻き込まれやすさをみていきます。
橘、円山:はい。
木之下:今回は、みずから巻き込まれていきやすいパターンを考察していきます。

ここで、少し考えてみてください。
知らない人に巻き込まれやすい場面を想像してください。思いついたら、具体例をあげてください。

:はい。例えばですね、道路に倒れた人が目の前にいました。気になって声かけをしました。そうしたら、1週間ご飯食べていないといいます。そういう事情を知ったとき、「これで、好きな物を買ってください」と少しのお金をさしあげるかもしれません。

木之下:心情的にありえますね。でも、その人は、千円札を握り去って姿を消すかもしれません。倒れていたというのが、演技である可能性も否定できません。
:それは、仕方がないと割り切ります。

木之下:では、その設定で、倒れていた人が、食事に連れて行ってほしいというと、どうしますか?

:私は行きません。
円山:私も気味が悪いと感じます。
木之下:では、少しのお金をあげることはあっても、食事に連れて行かない理由は、なんだと考えますか?
:初対面の人だから、不安です。何が起こるかわかりません。
円山:長く一緒にいて、変なことに巻き込まれるとイヤです。

木之下:では、その人は、実は目が見えない視覚障害者だと知った時、お金を渡して去りますか?

:うーん。手を引いて、定食屋まで連れて行くかもしれません。
円山:私ももう少し声かけするか、お手伝いするかな。

木之下:では、さらにその視覚障害者が女性で、「ストーカーに追われて逃げてきたのです」と言ったら、どうしますか?

円山:交番まで一緒に行くかもしれません。
:警察に電話するかもしれません。
木之下:警察まで行くと、ただ連れて行くだけで、君たちの身元も聞かれますよ。
円山:えっ?……それはややこしくなります。でも、そうなりますよね。
:まあ、いいでしょう。悪いことしたわけじゃないし。手間がかかるのは、仕方がないと割り切ります。

木之下:それで、その視覚障害の女性の取り調べをしている間に、彼女のポケットから、覚醒剤の袋が見つかりました。警察署員がどうしたのかと訊ねると、その女性は、君が仲間だと言い張りました。

円山:えー、ひどい。ひどすぎる!
:これは、映画やドラマで起きる事件ですね。
木之下:そうです。作り物の設定ですから、たいてい、そういうことはないでしょう。ただ、「事実は小説より奇なり」で、飛行機事故くらいの確率(?)で、このような巻き込まれ事件が起こります。
:現実的に想像すると、こわいです。

木之下:さて、さきほどの一連の質問では、より具体的なものを加えていきました。
何を追加していったと思いますか?
円山:条件です。
:相手の情報です。
木之下:そう。どちらも正しい。
条件や情報を多く知ると、巻き込まれる確率が高くなります。

ただし、巻き込まれに与するものとしないものがあります。
どんな条件や情報が、巻き込まれに関与していると思いますか?

:この例で言うと、「倒れている」「1週間食べていない」「視覚障害者」「ストーカー被害にあっている」ということがあてはまると思います。
円山:私は、「女性」であるということも安心材料になりました。
木之下:なるほど、なるほど。

では、それらに共通している項目は、なにでしょう?

円山:えっ?頼りない?
:心配になる人?

木之下:もっと、ピンとくる言葉は見当たりませんか?

円山、橘:……

木之下:「助けてあげたくなる」人
円山:ああ。
:あ、それそれ!

木之下:人は、「助けたくなる」という条件設定があると、そういう行動を起こしやすくなる。つまり、巻き込まれやすくなります。
:なるほど。
木之下:人を助けたいという気持ちは、社会生活になじんだ人が持っている感覚ですね。
円山:はい。

木之下:倒れている人を助けたいという気持ちは、自然な人間関係の営みの中で起こり得るでしょう。


問題が複雑になるのは、コンプレックスが絡んだ時です。その心理が増強されます。

:具体的には、どのようなものですか?

木之下:例えば、ナイチンゲール症候群。
看護している者が、助けたいという思いを強く持ち、愛着や愛情に転化していくこと。映画の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(ユーバーサルスタジオ配給)では、主人公の母がケガをした主人公の父に恋してしまう場面があります。

男性では、カメリアコンプレックスというものがあります。
不幸な女性をみると、救いたいと思う欲求のことです。
小説から始まったけれど、映画にもなった「椿姫」や魅力的なオードリー・ヘプバーンが演じる「ティファニーで朝食を」がこれにあたるのではないでしょうか。

知名度は落ちますが、シャロン・ストーン扮する女囚人を死刑から救おうと必死に食い下がる恩赦課の青年は、この心境に陥ったと考えます。

さて、この講義は、さらに深める必要があります。
次回は、「助けたくなる」のは、どういう心理から起こるのか?そして、助けたくなるとどうなるのか、という問題を考察してみましょう。

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考察:「助けたくなる」という条件は、巻き込まれる確率を高める
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