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なぜ警察はパチンコを賭博罪で摘発しないのか?

 2005年5月、『別冊宝島 実録!平成日本タブー大全』(宝島社)という単行本が発行された。そのイントロダクションに、こう書かれている。

 現代のタブーは、実は皇室や宗教団体や暴力団がつくっているわけではない。マスメディアが、政・官・業と一体となった護送船団にしがみつき、実は「見ざる・聞かざる・言わざる」を基本原則にすえて仕事をしているため、発生しているところ大なのである。
 知っているのに書かない、伝えない……これほど人をバカにした話はないだろう。匿名性が前提のネットに、真相や真実の確定を求めるのも酷なのだし。
 情報空間が発達したわりには、我々は知るべきことを知らされていない――そんな不安、不満をもとにして編まれたのが本書なのである。

 この単行本に筆者は「なぜ警察はパチンコを賭博罪で摘発しないのか?」という記事を寄稿した。誰もが疑問に思いながら、マスメディアにもネットにも正解は見あたらない。そんな問題を掘り下げることができたと自負している。

 今回、その約15年前の記事に少し手を加えて公開するのは、問題に対する正解が当時も現在も変わらないからである。

パチンコと刑法の賭博罪

「パチンコ(パチスロも含む。以下同)はギャンブルか否か?」と問われれば、大半の人は「ギャンブル」と即答するであろう。新聞報道でも「○○容疑者はパチンコなどのギャンブルで借金がたまり…」という表現はよく見られる。

 パチンコがギャンブルと認識されている理由は出玉(出メダルも含む。以下同)が換金できるからだ。しかも、勝てば1日で数万円どころか、10万円も20万円も儲けられるが、負ければその逆となる。

 日本では、長年、賭博は公営ギャンブル(競馬や競艇、競輪など)しか認められていなかった。2016年12月、カジノ法が成立し、民営カジノが認められることとなったが、世論の反発は強く、実際に開業できるかどうかはわからない。

 公営ギャンブル、民営カジノ以外は刑法第185条(賭博罪)や第186条(常習賭博罪、賭博場開張等図利罪)に該当し、違法となる。条文で確認しておこう。

【刑法】
第185条
 賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
第186条
 ①常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。
 ②賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。

 しかし、パチンコ店や客が賭博罪など(以下、単に賭博罪とする)で摘発されたというニュースは聞いたことがない。実際、全国紙・地方紙の記事データベース(1980年代後半から収録)で検索しても、1件もヒットしない。

「3店方式」という子どもだまし

 どうしてパチンコが賭博罪で摘発されないのか。そのナゾを解き明かすため、まずパチンコにおける換金の仕組みを解説しておく。

 もし、パチンコ店が客の出玉を現金と交換すれば、直ちに違法(賭博罪)となる。そこで、パチンコ店は客の出玉を「特殊景品」と呼ばれる、換金目的だけに使用される物品と交換する。特殊景品は、金地金やペンダント、シャープペンシル、文鎮、ライター石などが専用のプラスチックケースに入れられ、密封されたもので、一般に流通していない。

 客は特殊景品をパチンコ店の近所の両替所へ持っていき、現金と交換する。特殊景品は両替所から景品問屋へ集められ、再びパチンコ店に卸される。

 このような換金の仕組みは、パチンコ店、両替所、景品問屋の3つがかかわるため、「3店方式」と呼ばれている。

 ときどき、「3店方式により、パチンコの換金は違法性をクリアしている」と言う人がいるが、勘違いもはなはだしい。客、パチンコ店、両替所、景品問屋のそれぞれの行為を全体として捉えれば、全員が賭博罪の共犯だ。

 そもそも、パチンコがギャンブルでありながら、パチンコ店が客の出玉を現金と交換するという単純な方式では直ちに違法となるため、3店方式という複雑な方式が採られていることは、全員が認識している。つまり、賭博罪の犯意も明らかなのである。

 事実、1996年、東京都新宿区の複数のカジノバーが3店方式による換金をはじめたが、警視庁は賭博罪で摘発した。なお、これらのカジノバーはパチンコ店と同様、東京都公安委員会(警視庁)の営業許可を受けていた。もし、3店方式により違法性がクリアできるのならば、ゲームセンターのUFOキャッチャーやガチャガチャなどでも換金が可能となり、同様の仕組みの賭博が広がる。

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