note落合_寺澤

パチンコと国家権力

落合博実(おちあい・ひろみつ)
1941年、東京生まれ。
産経新聞社記者を経て、1970年、朝日新聞社に入社。
主に大蔵省(現・財務省)と国税庁を担当し、ソウル地下鉄疑惑(1977年)、三菱商事・創価学会ルノワール疑惑(1991年)などをスクープ。数々の「特ダネ」記事で名を馳せる一方、官公庁の公費乱脈の実態を暴いたシリーズ「公費天国」(1979年)、建設業界の談合追及(1981年/1982年度新聞協会賞受賞)など、調査報道に基づくキャンペーンにも加わり手腕を発揮した。1988年、リクルート事件のさい、社会部担当デスクを務めたあと、編集委員。検察、警察の公金不正に取り組んだ。
2003年、朝日新聞社を退社。
フリーランスのジャーナリストとして活動している。
2006年12月、『徴税権力 国税庁の研究』(文藝春秋)を出版。

 上記は、私と20年以上もつき合いがある元新聞記者でジャーナリストの落合博実さんの略歴です。

 落合さんが『徴税権力 国税庁の研究』を出版したあと、私はパチンコ業界誌『PiDEA』(ピデア)2007年1月号でインタビューしています。「何でも好きに書いてください」と言われて続けていた私の連載の1つとしてです。

 内容がおもしろすぎて、編集部が増ページで対応してくれたのですが、それでも原稿が全部おさまりませんでした。記事のタイトルは〈元朝日新聞編集委員が語る「国税権力」「警察権力」〉で、リードは「パチンコ業界と切っても切れない国税、警察について、落合さんがオフレコぎりぎりまで語ってくれた」などとなっています。

 現在読んでも、考えさせられることばかりですので、今回、記事におさめられなかった原稿の一部も含めて、完全版を公開します。

note落合×寺澤

国税庁にしてみれば、パチンコ業界は「得意客」

───パチンコ業界は脱税の割合の高さや金額の大きさで、いつも上位にランキングされています。2006年も京都のパチンコホールが約28億円を脱税したとして、大阪地検特捜部と大阪国税局に摘発されました。国税庁はパチンコ業界を、どう見ているのですか。

落合博実さん(以下、落合さん) それは、もう過去から現在に至るまで長年の上得意客でしょう(笑)。パチンコはバーなどの飲食店と並ぶ脱税常習業種です。毎年のように脱税ワースト番付に登場します。もし、仮にですが、パチンコがこの世から消えたら国税当局は寂しがりますよ(笑)。

───パチンコ業者の脱税は摘発しやすいほうなのでしょうか。

落合さん 国税当局から見て、調査をすれば脱税が見つかる確率が高い業種というのがあって、パチンコはその代表格です。
 今の質問にお答えする前に、税務調査について若干の説明がいります。伊丹十三さんが監督をした映画『マルサの女』の影響でしょうか、世間では税務調査というと、査察(マルサ)と考えてしまいがちですが、査察は国税による税務調査の中では特殊な領域です。査察は検察や警察のように強制調査権を持ち、脱税を刑事事件として追及することを目的にしています。脱税している人間にとって非常に怖い存在なのですが、通常の調査は任意によるものです。
 ただ、この任意調査の中でも全国の国税局に置かれている「資料調査課」は、ちょっと凄みがあります。蓄積した豊富な資料情報をもとに、徹底した調査をします。国税部内では資料調査課を略して、「リョウチョウ」と呼んでいます。ときには査察まがいの強引な調査をしますので、人権侵害で裁判になることもあります。
 京都のパチンコホールの脱税捜査では大阪地検特捜部と大阪国税局査察部が動きましたが、実はパチンコ店を「得意客」にしているのは、マルサよりも、このリョウチョウなんです。リョウチョウが先行調査をし、悪質なケースはマルサに引き継ぐ場合もあります。「税収を上げたければ、パチンコ店を調べろ」と言うほどですから。
 マルサの場合、脱税資金が資産に転化した証拠をつかまないと刑事立件が難しいのです。京都のパチンコホールでは金塊が見つかったそうですが、非常に手間ひまがかかります。一方、リョウチョウはそこまで必要とせず、金の出入りさえ押さえれば、大網をかけるように課税します。

プリペイドカードは脱税防止の決め手とならない

───国税の手の内は?

落合さん パチンコ業界をターゲットにした秘策というのは特にないようですが、長年積み重ねてきた手法はあります。しかし、ここで国税の手の内をばらしてしまうわけにはいきませんので、差し障りのない範囲で話しますと、全国展開している業者は常時マークしています。これを国税部内では「継続管理」と呼んでいます。会社としての申告額の推移はもとより、経営者の資産の増加状況などを丹念にデータ蓄積しています。情報源は内部告発など様々です。
 このリストに載ると、怖いですよ。いつの時点かでリョウチョウは動きますから。脱税ソフトが話題になったことがありましたね。ホールコンピューターが記録する売上額を適宜に除外し、経費率などのつじつま合わせを自動的に処理するようにプログラムしたものですが、国税当局は研究しつくしていますから、もはや通用しません。
 パチンコホールだけでなく、パチンコ・パチスロメーカーや、最近では「攻略法」と称するものを販売して大きな利益をあげている会社にも目を光らせています。

───パチンコ業界で脱税が減らない原因とそれへの対策を教えてください。

落合さん それは、私にはわかりません。「大儲けしながら税金を払いたくないという欲の皮の突っ張った人間が多いのではないか」と言うしかありません。私が住む仙台でも、いくつもの大型ホールを展開している経営者の奥さんがベンツを乗り回し、贅沢三昧の生活をしていると主婦たちの話題のタネになっています。
 私個人としては、生活を維持するためのお金は必要ですが、そんなに巨万の富を貯めてどうなのか、はたして幸せなのかと思いますね。まあ、人それぞれの人生観でしょうが。

───1990年代冒頭、警察庁は脱税対策としてパチンコ業界にプリペイドカードを導入しました。これについて、どう評価していますか。

落合さん 警察が「プリペイドカードの導入で脱税がなくなる」と本気で言っていたのですか? もし、そうだとすると、半分はトリックに近いのではないでしょうか。全台がプリペイドカードになり、ホールとは完全に別経営のカード会社のコンピューターに売上が記録されるのなら、確かに「売上除外」は防止できるでしょう。しかし、現実は中途半端な導入率に終わったようですし、今ではプリペイドカードは使われなくなっています。
 それと、ここが肝心な点ですが、脱税の手口は「売上除外」だけではないということです。「経費の水増し」や「架空経費」で申告所得を圧縮する手口も横行しています。ですから、プリペイドカードの導入だけでは脱税防止の決め手になりません。

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パチンコと国家権力

寺澤有

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1967年2月9日、東京生まれ。 大学在学中、自動車雑誌『ニューモデルマガジンX』でジャーナリストとしてデビュー。 警察官、検察官、裁判官、自衛官などの不正を追及し続けている。 2014年、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」から「100人の報道のヒーロー」として表彰された。
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